イタリア製シンバルの響きに秘められた「歴史」と「遠心力」

ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツをはじめ一流ドラマーに愛されるシンバル「ユーフィップ(UFiP)」。プレイヤーたちとともに華やかなステージでライトを浴びる背景には、ゆかりの地と切っても切れない歴史があった。今回は、その創業一族の人物との会話とともに、それをひもといてゆく。

メディチ家が振興した「鉄の匠」
ユーフィップ社はイタリア中部ピストイアにファクトリーを置く。「なぜ、この地でシンバルが?」という疑問を解くため、まず訪れたのは市内の楽器博物館であった。解説してくれたのはユーフィップ創業家のひとつ、トロンチ家の当主ルイージ・トロンチ氏である。

館長でもある彼の話は、中世から始まった。「ピストイアの山岳地方は鉱物資源が豊富でした。そのため早くから金属の鍛錬が行われていたのです」
続く16世紀のトスカーナ大公国時代になってもピストイアの繁栄は続いた。「エルバ島から鉄鉱石がピサ港経由で上陸するようになっても、街は鍛造加工場としての役目を果たし続けたのです」
ただし、19世紀になると隆盛に陰りがみられるようになった。高い熱量をもつコークスを用いた炉が欧州各地で普及し、競争力を失ったのが原因だった。
しかし、金属加工の伝統は絶やされなかった。20世紀初頭、ジェノヴァのサン・ジョルジョ社によって鉄道車両工場が市内に開設された。この施設は第2次世界大戦後、重工業メーカー「ブレダ(のちにアンサルド・ブレラ)」の所有となり、2015年には日立製作所傘下の「日立レール」となって今日に至っている。

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シンバルが思いの外、最近できたものであることを知りました。楽器ができるのにもいろんな歴史的背景があるのですね。