奥深き日本茶の世界にふれる、オープンで多彩なサロン「YUGEN」

桜の季節を過ぎると、木々にはみずみずしい新芽が顔を出します。初夏を目前に、気になってくるのが爽やかな日本茶、そして新茶の便り。今回は、煎茶から抹茶まで奥深い日本茶の世界をゆっくりと楽しむカフェ「YUGEN(ユウゲン)」を訪ねました。ビル1棟を使い、カフェとショップ、ギャラリーを備えた空間は、味覚はもちろん知的好奇心をも満たす、日本茶の文化サロンのような場所です。
■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
もう一歩進んで、日本茶の奥深さを伝える場に

ざらりとした土壁に、炉を切ったカウンター。抹茶を頼むと、好みの茶碗(わん)で点(た)てていただけます。ガラス張りの開放感とトラディショナルな茶道の要素を巧みに組み合わせた店内は、カフェのようなオープンな雰囲気。今年1月に移転オープンした新店舗は、日本茶ドリンクをスタンド形式で提供してきた「YUGEN」から一転、少しだけ背筋を伸ばしてお茶を味わうことのできる空間に生まれ変わりました。

「以前の店舗は、コーヒースタンドのように利用してもらうことで、気軽においしいお茶を楽しむ仲間が増えたら、とはじめました。4年ほど経った今、そうしたスタイルも浸透してきたのかなと感じて、さらに奥深い日本茶の世界を伝えることができたらと思ったんです」

そう話すのは、オーナーの須藤惟行さん。母親が茶道をたしなんでいたことから、小さい頃から日常的に抹茶や煎茶を飲んでいたと振り返ります。アメリカに留学した時や、日本でさまざまな抹茶スイーツが流行するたびに、「自分が飲み慣れてきた日本茶がどこにもない」ことをさびしく感じていたという須藤さん。日本茶の楽しみを伝えるというビジョンはそこから始まりました。
個性豊かな日本茶と季節の甘味のマリアージュ

京都の宇治や和束(わづか)、滋賀の朝宮など、お茶の産地から届く厳選されたお茶と甘味のセットが「YUGEN」のお茶時間の定番。爽やかな渋みを持つ露地もの、まろやかな口当たりのかぶせ茶や炒りたての焙じ茶、和紅茶など、その時々で入ってくる銘柄から好みの味を選ぶことができます。

目の前でお茶がいれられ、立ち上がる香りや煎(せん)ごとに変化する味わいを楽しむことは、心まで満たされるよう。旬のフルーツやオーガニックの素材から作られる甘味も、作り置きせずできたてを提供しています。

「懐石料理のデザートに出てくるような、温度やみずみずしさ、季節を伝える甘味を出したくて」と須藤さん。5月には新茶のコースメニューも予定されています。
味わう、買う、体験する 日本の文化をさまざまな角度から

ビルの全階層を使った「YUGEN」では、カフェに加え、ワークショップやお茶会、ゆかりある陶芸家などの作品を展示するギャラリースペースも。例えば、欠けたり割れたりしてしまったうつわを修繕する金継ぎのワークショップ、カフェで使う茶器を探す中で出会った多彩な陶芸家の作品の展示販売など、お茶の世界を一歩広げた、暮らしそのものを豊かにする取り組みです。

季節の甘味のもてなしも、繕ったうつわを大切に使うことも、日々の食卓に手仕事を取り入れることも、それらはゆるやかにお茶を楽しむことへとつながっています。総合芸術であるお茶の世界は、そうして日本の文化と美意識を育んできたのでしょう。須藤さんはこう話しています。
「お茶には三つの側面があります。嗜好(しこう)品としてのお茶、体に良いものとしてのお茶、歴史・文化としてのお茶。こんなに身近なのに奥深く、健やかで、日本の文化に欠かせないものだと知っていただける機会になれたらうれしいです」

■ YUGEN https://www.yugen-kyoto.com/
フォトギャラリー(クリックすると、写真を次々とご覧いただけます)
BOOK
大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&Travelの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。
日頃から新茶などを買って飲みますが、美味しい淹れ方を熟知した人からいただくお茶は格別でしょうね。
お菓子や器も楽しめる至福のひと時でしょうね。