(157) 月へ駆け上る少女の未来 永瀬正敏が撮った台湾
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。前回に続いて台湾の嘉義市で撮った一枚です。にぎやかな迎春の街で涙する少女を見かけたその場所で、永瀬さんが目にしたものとは……。

空には一筋の光が駆け上っていた。
前回書いた台湾・嘉義市のカウントダウンイベントで出会った少女。
泣きながらうずくまっていた彼女が去ってから、
僕は彼女がいた場所まで行き、彼女を思いながら空を見上げた。
カウントダウンイベントで高揚した人たちで埋め尽くされた街。
喜びあふれる人々の笑顔、歓声。
それと対照的に一人うずくまり泣いていた少女……。
そのギャップに心が痛かった。
日本語しか話せない自分……。
声をかけたかったが、なかなか勇気が出なかった……。
彼女のことを思いながら1枚だけ写真を撮って、
少し離れたところから、その少女をずっと見守っていた。
彼女はそばで寄り添っていた友達(おそらくだが)と、
やっとの思いで、その場を後にした。
彼女の思いがまだ残る場所で、僕は天を見上げた。
そこには地上から月に向かって、一筋の光の道が輝いていた。
僕はその光が、なんだか少女の未来のような気がした。
「今はつらいことがあってもきっと大丈夫」
その光を見ながら心の中で、僕は静かに、
彼女にエールを送っていた。
言葉の壁があったとしても、永瀬さんの想いがこもった写真をいつか彼女がたまたま見た時、伝わると良いなぁと思います。
思いは… エールは… 届いて、今年のカウントダウンでは月に向かう光の道をバックに笑顔の記念写真を撮っていますように✴️