いしわたり淳治のWORD HUNT
連載をフォローする

imaseから見る、さらりと楽しんで作られた音楽の魅力

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の4本。

 1 “戻れないね 離れないで 喜びも驚きもないままで”(imase『Have a nice day』/作詞:imase)
 2 “ドンズバやん”(アンミカ)
 3 “感じたことのない返球の速さ”(オードリー 若林正恭)
 4 “人間の脳は自分の解釈の3倍までしか理解できない”(株式会社テクニカン社長 山田義夫)

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

imaseから見る、さらりと楽しんで作られた音楽の魅力

TikTokで総再生回数3億回を突破したimaseさんの『Have a nice day』。「戻れないね 離れないで 喜びも驚きもないままで」とコロナ禍を憂(う)いつつも軽やかな歌声と佇(たたず)まいがすてきだ。メロディーセンスもいいし、地声もファルセットもいい。

音楽を初めてまだ1年ちょっとだそう。初めはギターを練習したのだそう。その後「かっこいいコード進行」とネットで検索して、機材を揃(そろ)えて、作曲を始めたのだそう。そして、あれよと言う間にメジャーデビュー。この夏はポカリスエットのCMソングを担当するというから、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。まるでシンデレラストーリーのようだけれど、現れるべくして現れたアーティストのようにも思う。

私が十代の頃はミュージシャンという職業は「夢」だった。地元でバンドを組み、ライブをし、インディーでCDをリリースし、徐々に人気を得て、メジャー契約を手にする。そして誰もが知るヒット曲を作り、ライブをし、ずっと音楽の世界で生きていく。そういうのが一応のサクセスストーリーだったと思う。

でも、今の若者にとってミュージシャンというのは、明確な「夢」でもない気がする。もちろん、今でも生涯をかけて「音楽“だけが”やりたいこと」である人はたくさんいると思うけれど、それよりも「音楽“も”やってみたい」という感覚で音楽をやっている人の方が圧倒的に多い気がする。でもそれは、音楽がそもそも娯楽である以上、私はむしろものすごく健全な状態だと思う。

ある時から、メジャーシーンの音楽は、暗くてシリアスな曲が多すぎるように思っていた。それはもしかしたら、ミュージシャンという、なかなか叶(かな)わない夢を追い続けるうちに、誰しも自分らしさや特別な表現みたいなものと過剰に向き合うようになっていってしまうのが、原因の一つなのではないかと思っている。

音楽は基本的には「娯楽」なのだから、もう少し気楽に作られた音楽を聴きたい人も世の中には多いんじゃないか。前々から私は心のどこかではそう思っていた。でも、音楽で暮らしていく覚悟を決めた人には、「ちょうどよく力を抜く」というのは、結構難しいことである。

imaseさんのようなアーティストがさらりと楽しんで作った音楽が、メジャーシーンを颯爽(さっそう)と飛び越えて、たくさんの人へ広がっていくのは、ある意味で理にかなっていると言うか、ごく自然なことのように思うのだけれど、どうだろう。

imaseから見る、さらりと楽しんで作られた音楽の魅力

4月7日放送のフジテレビ『トークィーンズ』でのこと。放送の冒頭で指原莉乃さんが「トークィーンズって名前がとにかく私は恥ずかしいんですよ……」と言うと、それを聞いていたレギュラーメンバーのアンミカさんがカットインして「でもこのメンバーさぁ、トークィーンズ、ドンズバやん!」と、一瞬でスタジオの爆笑をかっさらっていた。

ドンズバ。久々に聞いた。忘れていた懐かしい言葉を一点の曇りもなく使われると訳もなく笑ってしまう。今の若者は聞いたことがない言葉かもしれないので補足すると、ドンズバは「どんずばり」の略で、「どん」は「どん底」などと同じ使われ方の強調の意味、「ずばり」は言うまでもなく「ぴったり・ちょうど」の意味である。それに似た言葉に「どんぴしゃり」の略語「ドンピシャ」があるが、そちらはまだ現役感があるのに対して、ドンズバはいわゆる死語という印象である。

意味も用法もよく似ているから、片方が淘汰(とうた)されていくのは仕方がないけれど、語感や言葉のンパクトで考えたら「ドンズバ」の方が圧倒的に強かった気がする。それでも「ドンズバ」が生き残れなかったのは、女性票みたいなところの差なのかなと思う。「ドンズバ」より「ドンピシャ」の方が可愛らしいし、語感もお上品で、口にしやすいことは間違いない。

でも、そのおかげでというか何と言うか、誰も使わなくなったがゆえに今になってあえて使う「ドンズバ」は、「ドンピシャ」なんかより何倍も「そのものずばり」の意味を強調しているような感じがする。これからは、これ以上ないくらいにものすごくぴったりな表現に出会ったら、これからは「それ、ドンズバやん!」と使ってみようと思った。

NEXT PAGE「会話の返球の速さ」にあたふた

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら