あなたがくれた優しさの花束。寄り添ってくれた同僚へ

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
福岡有希恵さん(仮名)65歳 女性
教職
東京都在住
◇
青天の霹靂(へきれき)とはこのことだと思いました。
私と夫は、大学時代に友人として知り合った同い年。「2人一緒に定年退職したら、シベリア鉄道に乗ってヨーロッパへ行こう」なんて話していた夫が、退職して1年もしないうちに突然病で亡くなってしまいました。
現役時代の私は、忙しいながらも張り合いや誇りのある教師という仕事に打ち込み、充実した日々を過ごしていました。ところがその仕事をやり遂げて引退したとたん、友だちであり、子どもたちの父親でもあり、相棒でもあった夫を亡くしてしまいました。
夫が趣味で描きためた絵画を画集にして親しい方々にお届けし終えると、大空のように私を包んでくれていた夫を失ったことが現実として重くのしかかって、ぼうぜん自失の日々を過ごしました。何もやる気が起こらない毎日は、どんよりと分厚い雲に覆われたようでした。
そんな日々が続いた頃、1枚のはがきが届きました。職場の同僚だった女性からです。15年ほど前に同じ学校の教師として知り合い、転勤やコロナなどで、ここ4〜5年は連絡も途絶えていました。
「会ってお茶しませんか?」
はがきに書かれたそんな言葉に引かれ、2人の家の中間地点のおしゃれなカフェで会うことになりました。先に着いた私が待っていると、彼女は満面の笑みで現れました。そしてその腕には、私が好きで、以前よく職場にも飾っていた「カサブランカ」の大きな花束がありました。
彼女は、「元気出してね。はい、あなたに」と言って、その花束を渡してくれました。抱えきれないくらいのたくさんの花々の甘い香りに、思わず涙がこぼれました。その後彼女の近況を聞きながら、涙ぐんだり、久しぶりに大笑いをしたり。
聞けば彼女は退職して、ご家族の介護のために日々遠距離を移動しているとのこと。とはいえ、その帰りに折れそうになる気持ちをリセットするために寄った温泉にはまり、今は遠く北海道の温泉にまで足を延ばすこともあるそうです。そんなパワフルな彼女に元気をもらいながら、同僚時代、何でも前向きで頑張り屋だった彼女の姿を思い出していました。
例えば東日本大震災のときです。子どもたちから発案された救援物資を現地の学校に送るプロジェクトを、奔走して実現したのが彼女でした。実行力がある情熱の人なのです。そんな彼女と楽しい時間を過ごし、帰る頃には体の底から力がみなぎってくる気がしました。
あとで知ったことですが、このときも彼女はご家族の介護やご家族の闘病で苦労もたくさんしていたのに、それをおくびにも出さず私を元気づけてくれていたのです。この頃から私の心を覆っていた分厚い雲から少しずつ光が差し始め、今は教育に関わる仕事に復帰するまでになりました。
そんな彼女に花束を贈りたいと思います。「ありがとう」の気持ちを込めた花束です。

花束をつくった東さんのコメント
元同僚との久しぶりのおしゃべりに「体の底から元気がみなぎった」というご投稿を読み、パワフルな元同僚の彼女をイメージしたアレンジに仕上げました。
見るだけで元気が出るようなカラフルな花材は、ランの一種でスパイダーランとも呼ばれるブラッシアや、同じくランの一種のパフィオペディラム、南アフリカに生息するプロテア、またダリアなど情熱的な赤い花をメインに、ほかにもユニークな花材をちりばめています。
いくら見ても飽きない形をしたお花も多いので、「これは何だろう?」とひとつひとつじっくり楽しんでいただけると思います。




文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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