スポーツカーのような痛快な走り アストンマーティンのSUV「DBX707」サルデーニャ島で試乗

SUV人気が止まらない自動車界。スポーツカーメーカーもこぞって参入し、百花繚乱(りょうらん)というべき状態だ。なかでも昨今の注目株が「アストンマーティンDBX707」。あのボンドカーのメーカーが送り出した707馬力のSUVである。
DBXは、1913年に設立されて以来スポーツカーを作り続けてきたアストンマーティンが初めて手がけたSUVとして、2020年に発売された。同社のスポーツカーの要素をうまく採り入れたスタイリングと、力がたっぷりあるエンジンによる、かなり痛快な走りが魅力的なモデルだ。
2022年2月に発表されたDBX707(V8)は、従来のモデルと同様、4リッターV型8気筒を搭載するものの、最高出力は405kWから520kW(707ps)に、最大トルクは700Nmから900Nmに上がった。900Nm! これはすごい力だ。
私は、22年4月初旬に、じつに久しぶりに海外に出て、DBX707に試乗した。アストンマーティン本社が選んだのは、ローマから飛行機で30分ほどのサルデーニャ島。

私は学生のころ、英国の作家、D. H. ロレンスによる紀行「海とサルデーニャ」(1921年刊)を読んで、雨ばっかり降っている、ちょっとしょっぱいところなんだなあと思っていたが、今回でかけたコスタスメラルダなど、欧州の富裕層にとって別荘地として人気と、あとで知った。そのあとは何度も訪れる機会に恵まれた。
ゴロゴロとした岩山と、そこに這いつくばうように生えた木と、至るところで出合う海の風景。独特の雰囲気がある場所だ。食事についても、サルデーニャ料理はユネスコの無形文化遺産に登録された地中海料理であり、たいてい粗っぽいけれど印象に残る。

自動車関連のエピソードとして、工業デザイナーのジョルジェット・ジウジアーロが、フォルクスワーゲン取締役会会長のカール・ハーンの隣りに別荘をもっていて、そんなよしみで話をするうちに、同社の仕事をいろいろ依頼されるようになったとか。「ふたりがサルデーニャに別荘を持っていなかったら名車「ゴルフ」は生まれなかったのか?」なんて考えるのが、私は好きなのだ。妄想の世界だけれど。
アストンマーティンDBX707は、まるでスポーツカーのように走るクルマだ。これまでのV8もすごかったけれど、輪をかけて速い。軽くアクセルペダルを踏み込んだだけで、空気を切り裂くようなするどいダッシュを見せてくれる。
ドライブモードを切り換えるダイヤル式スイッチがついているので、まず「GT」(標準モード)を選んでみた。速い。ためしに「スポーツ」に切り替えると、より上のエンジン回転域を使うので速すぎるぐらい。さらに上の「スポーツプラス」にしてみると……サーキットで走るときのためにこのモードはとっておこうと思った。

というわけで、サルデーニャの一般道、わりと車線が狭くて緊張する高速道路、それに山岳路どこでも、GTモードでじゅうぶん。最大トルクが発生するエンジン回転は6000rpmなので、まさにスポーツカー的。それでも、ごく低回転域で、力不足を感じる場面はなかった。
どうしてもより強い刺激が欲しいときは、加速や操舵のダイレクト感がより強くなるスポーツモードもいいかもしれない。でも、アストンマーティンのSUVに乗っていたら、多少はエレガンスも必要じゃないだろうか。

なんて、考えながら、いい音がする純正オーディオで、むかしのロバート・グラスパー(2005年の「Canvas」)を聴きながら、霧がただようサルデーニャの山岳路を流すように走ってみた。グラスパーのピアノも、マーク・ターナーのサックスも、とてもいい雰囲気で再生される。こういうドライブにも、DBX707はよく応えてくれる。

ちなみに「なんで707って車名にしたのか」と、アストンマーティンの広報担当者に訊いたら、おもしろい回答が返ってきた。
「AMGから移ってきたいまのトビアス・ムアーズCEOの肝煎りでパフォーマンスSUVを開発することになって、エンジニアが”700馬力は出ますよ”と言ってきたとき、”うーん、語呂的には707がいいなあ、(出力を)出せるかい?”とムアーズCEOは切り返したんです。007も頭のどこかにあったんでしょうね」。人間くさくて、私の好きなエピソードだ。
写真=Aston Martin Lagonda 提供
【スペックス】
車名 Aston Martin DBX707
全長×全幅×全高 5039×2050×1680mm
3982ccV型8気筒 全輪駆動
最高出力520kW@4500rpm
最大トルク900Nm@6000rpm
価格3119万円