貿易がもたらした豊かさと自由の気風 大阪府・堺市

大阪市の南に隣接する堺市は、大山古墳(伝仁徳天皇陵)に代表される巨大な古墳群や環濠(かんごう)で街を防備した自治・自由都市で日本史に大きな足跡を残す町である。今は人口80万余を数える政令指定都市である。
千利休と与謝野晶子ゆかりの地
アプローチは南北に貫く5本の鉄道。なかでも歴史探訪は古墳エリアを走るJR阪和線と環濠エリアに数多く停留所をもつ路面電車の阪堺(はんかい)電軌。宿院駅かいわいは納屋衆と呼ばれた豪商ら多くの商人や職人が集まり、大いに栄えた。

その納屋衆の家に生まれたのが茶の湯の大成者の千利休。屋敷跡地が今も残っている。すぐ近くに明治に誕生したのが『みだれ髪』で知られる情熱の歌人・与謝野晶子。明治・大正・昭和を通して活躍。郷土の誇る2人の名前の頭文字を名称にした文化施設「さかい利晶(りしょう)の杜」が2015年にオープンしている。

1階には茶の湯の歴史文化や人物像を伝える「千利休茶の湯館」と茶の湯体験室、2階には人と作品をたたえる「与謝野晶子記念館」。和菓子屋だった生家も再現され、帳場に座った晶子が思い浮かぶ。
路面を走るちんちん電車の阪堺線沿線には古寺社や歴史ゆかりの地が多くある。北の「ザビエル公園」は、フランシスコ・ザビエルが京都での布教を目指して上陸した堺に1カ月滞在した縁で名付けられた市民の憩いの場である。

室町末期の堺は、宣教師の書簡に書かれた自治都市。明(中国)やカンボジア、フィリピンなどとの交易で殷賑(いんしん)を極めた。

南蛮貿易香る菓子に、名物のあなごも
東に少し入った大阪府立泉陽高校は与謝野晶子が学んだ旧堺女学校。「君死にたまふことなかれ」の詩碑がある。短歌や評論、言動など世間にとらわれない自立と自由の精神は自由都市の歴史で育まれた。同校からは脚本家の橋田寿賀子、直木賞作家の西加奈子、俳優の沢口靖子が巣立っている。

学校の近くにある創業200年余の八百源来弘堂の「肉桂餅」や小島屋の「けし餅」には南蛮貿易の時代が香る。またここは全国屈指のあなごの町。伝統の技と味をうたう松井泉の「焼あなご」が名物である。

近くには堺事件に連座した土佐藩の切腹で知られる蘇鉄寺の妙國寺、町家歴史館山口家住宅が、20ヶ寺ほど連なる寺々とともにしっとりした町並みをつくっている。折にふれて訪ねたくなる町である。

〈交通〉
・南海本線堺駅、阪堺電車宿院など下車
〈問い合わせ〉
・堺観光コンベンション協会
072-233-5258
※都道府県アンテナショップサイト「風土47」より転載。