国境なき衣食住
連載をフォローする

覚悟を背負って赴任したアフガニスタン 宿舎のガーデンで出会った子猫

一通り遊んだあとは私にもたれてお昼寝© MSF

国境なき衣食住」は、国際NGO「国境なき医師団(MSF)」の看護師として紛争地や危険地に赴任してきた白川優子さんが、医療・人道援助活動の傍(かたわ)らで出会った人々、触れ合った動植物、味わった苦労や喜びについて、哀感を込めてつづるエッセイです。

2021年8月26日。国境なき医師団(MSF)の人道援助活動のため、イスラム主義勢力のタリバンが権力を握ったアフガニスタンに入った。その日は空港に向かうバスを狙ったテロが起きた日だった。

MSFは、医療が必要にもかかわらず、その医療が届いていない場所で活動をしている。人道援助が入りにくい場所にこそ大きなニーズがある。この時のアフガニスタンも例外ではなかった。

3年ぶりとなる紛争地への派遣

アフガニスタンのカブール国際空港が閉鎖されるという状況のなか、隣国のタジキスタンから、カンダハール国際空港にチャーター機で入国した。世界各国からきたMSFの7人の医療従事者を乗せた、アフガニスタンに向かうチャーター機の中で私は、髪や肌が露出してはいないかなど身だしなみを振り返った。タリバン政権とその政治執行がどこまで社会に及んでいるのかは分からないが、1人の規律違反が、チーム全体のセキュリティーにかかわる。

警戒度を最高レベルに保ちながら、目的地のヘルマンド州の州都、ラシュカルガに到着した。紛争地での活動を何度も重ねてきた過去があるとはいえ、アフガニスタン行きは大きな覚悟を背負って臨んだ。前回の紛争地への派遣からは3年が経過していた。アフガニスタンの病院での私の役割は、看護師長だった。

空港から街へ向かう車中、目に入ってくる光景に、私は拍子抜けした。野菜や果物を積んだ露店が並び、市民たちが買い物をしていた。川では若者たちが水浴びをしていて、子供はたこ揚げをして遊んでいた。女性たちが顔を隠すことなく、男性の付き添いなしに歩いている光景も目にした。そこには「日常」があった。報道で見てきた映像から受けていた印象とのギャップに力が抜けた。

救急室に押し寄せる患者

到着したMSFが支援している病院で予想すらしていなかった問題を目の当たりにした。この時、国際社会はタリバンに対する制裁の動きをいち早く見せており、アフガニスタンへの資金援助を停止してしまっていた。このため、2000を超す医療機関が運営を継続できなくなった。

一方で、MSFは民間の寄付によって活動しているため、資金凍結の影響を受けることなく活動を継続していた。医療アクセスを失ってしまった多くの別の地域の人々が医療を求め、300床を備えるMSFが支援する病院に殺到した。

私は50人のスタッフを管理しながら、手術室全体を機能させることが与えられた任務だった。現場の手術室では二つの手術室を24時間稼働させても追いつかない。緊急手術を優先しているため、手術を待っている患者さんの数はどんどん膨れ上がった。

覚悟を背負って赴任したアフガニスタン 宿舎のガーデンで出会った子猫
MSFがヘルマンド州の州都ラシュカルガで支援する病院で手術を行う外科チーム。左から2番目が白川さん© MSF

コロナの感染拡大を警戒している時期なのに、救急室には24時間で800人の患者が押し寄せ、小児科病棟では一つのベッドに2人の子供を収容する措置を取らざるを得ない事態が起こっていた。一方で、タリバン政権とは「医療活動を今まで通り継続する」という合意が取れており、病院全体で総勢800人の現地スタッフはこの混沌(こんとん)に向き合い、奮闘していた。

昼間は病院で働き、夜勤スタッフが出勤してくると、あとは彼らに任せ、退勤した後は宿舎に戻り、パソコン業務に向き合うのが日課だった。看護師長という役割は、医療現場での実務とは別に、データ収集や活動報告書の作成、業務改革、スタッフの勤務管理などの管理業務もあった。

NEXT PAGEどこからともなく現れた子猫

REACTION

LIKE
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら