毎日食べたくなる! 花も酵母も慈しむ店主の軽快なごほうび感/ベーグルスタンダード

山手通りと目黒通りが交差する大鳥神社の交差点のあたり。なにやら行列ができている。それが「ベーグルスタンダード」だ。白いタイルと板張りのファサードは、NYの雰囲気。歩道に面したガラスケースにたくさんのベーグルが並ぶ。

「ベスト」と名乗らず、謙虚に「スタンダード」と。その真意はなにか? 食べてみれば、ベーグル自身が教えてくれるはずだ。
うにーと、ゆっくり沈む。めりめりとめり込む前歯。どこまでいくんだと不安がよぎる瞬間、ぱつん。弾力から歯切れの間合いがいい。噛(か)ませるが、負担ではなく、純粋に快楽なのだ。奥歯ではぎゅっぎゅと、今度は噛み潰す快楽。そうしているうち、とろんとろん溶け、小麦のミルキーさがあふれだす。
チュウイー(もちもち)であり、クリスプ(歯切れがいい)。両者にバランスがあり、毎日食べられる軽快さは、たしかに、ニューヨークの〝ありふれた〟ベーグルによく似ている。

この店の3代目オーナー、国分誠司(こくぶんさとし)さん。実はホテルや商業施設、個人宅などの庭づくりをするガーデンデザイナーと二足のわらじを履く。
今でも、ベーグル製造の合間を縫って、庭づくりをしている。ガーデンデザイナーとベーグル職人。まったくちがう仕事に思えるが「花も酵母も、生き物を育むという意味で通じるところがあります」という。
「ベーグルでいちばんむずかしいのが、酵母がかかわる発酵。植物を植えるときは、土の中の状態を見て、ちゃんと育つように植えます。パンも同じ。毎日条件(温度や湿度)が変わるので、パンの状態を見ながら調整しています。ささいなミスがあれば、いい匂いや食感は失われてしまうんです」
スタンダードといえば、フィリング(具材)の量もそうだろう。昨今、日本で流行する、具材を盛り盛りにした〝映える〟ベーグルと一線を画し、ベーグルとフィリングのバランスは極めて的確である。

たとえば、ベーグルサンド「プレーン×トリプルベリークリームチーズ」。口溶けのあいだずっと、ブルーベリージャムをミックスしたクリームチーズと、ベーグルから滲(にじ)む小麦のミルキーさ、一方に偏らず、その両方を感じることができる。溶け合いつつ、せめぎ合う絶妙さ。そこに、レーズン、ブルーベリー、クランベリーという3種のドライフルーツを噛むたびに、あふれだした果汁によってそれぞれの味変を繰り広げていく。

新作の「プレーン×くるみゴルゴンゾーラ ローストキャベツ」もバランスの勝利だろう。マニキュアの香りにも似た妖しいゴルゴンゾーラの一撃。チーズの塩気に対し、甘さがほしいところへ、小麦の甘さが覆いかぶさってくる。アクセントがほしいところには、くるみがかりっ、キャベツの芯もかりっ。爆裂の連鎖で応えるのだ。
受け継ぐとともに、変えていこうとするところもある。
「オーガニックの素材にこだわるつもり。自分がおいしいと思う味を守りたいという気持ちが強いですね」
「プレーン×有機ピーナッツバター&チョコレート」は、アメリカ産のオーガニックピーナッツバターと無添加のチョコスプレッドを使用。ぎゅっぎゅっと噛み潰すごとに、滲みでるピーナッツのナッティさがベーグルの皮の香ばしさを輝かせる。砂糖不使用のピーナッツバターの、甘さの足りなさを埋めてくれるチョコ。カカオの芳香とナッツ感が重なりあう心地よさ。そこへベーグルの塩気が、コクのアクセルをぎゅいんと踏み込む。
パン屋さんはパンを食べない人が意外と多いが、国分さんはちがう。味見ではなく、おいしくて食べる。
「まかないで毎朝食べても飽きない。スタッフもみんなよろこんで食べてます。ユダヤの人が食べつづけてきた健康食。ベーグルってすごいなーと思います」
YouTubeチャンネル 「パンラボ」
今日を生き抜く活力になる小さなごほうび。それが毎朝やってくることがスタンダードだなんて、目黒の人は恵まれている。
ベーグル スタンダード
東京都目黒区目黒3-8-6 山崎ビル 1F
03-5938-0764
11:00~売り切れ終了(月火休み)
動画も拝見しましたが、生地のモチモチ具合がすごいですね!ベーグルを大切に育ててらっしゃるお気持ちが伝わってきました。