京都ゆるり休日さんぽ
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アートとして、日用品として 京うちわの新たな風 「蜂屋うちわ職店」

京うちわとは、中国・朝鮮半島のうちわにルーツを持ち、京都で独自の進化を遂げた工芸品のこと。うちわの面と持ち手を別々に作ることが特徴で、古来より涼をとるためだけでなく、貴族が顔を隠すための装飾品として用いられてきました。そんな京うちわの伝統をくみつつ、工芸品として新たなレイヤーを加える作り手がいます。今回は、若きうちわ職人が週末にオープンする「蜂屋うちわ職店」を訪ねました。

暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、京都の素敵なスポットをご案内しています。

京うちわに魅せられ、導かれるように京都へ

哲学の道の西側裏に当たる路地奥にたたずむ
哲学の道の西側裏に当たる路地奥にたたずむ

哲学の道にほど近い路地。この土地らしい、坂の細道をのぼった奥に「蜂屋うちわ職店」はあります。オープンは主に週末のみ。京うちわの職人・蜂屋佑季さんの工房を兼ねたうちわ店です。12畳ほどの和室の壁や床の間に並ぶのは、京うちわ伝統の技法の中でも一般的な、細く割った竹の骨を60本配した作品たち。そのたたずまいは、和でありつつモダン。それでいて、伝統工芸の型を踏まえたトラディショナルな雰囲気をまといます。

藍染めや和紙、金箔(きんぱく)やプラチナ箔などを使ったオリジナルの意匠のうちわが並ぶ
藍染めや和紙、金箔(きんぱく)やプラチナ箔などを使ったオリジナルの意匠のうちわが並ぶ
京うちわを作る道具の一部。半円状の刃は紙や生地をうちわの形に切り抜くためのもの。日本でも数少ない道具の職人が、わずかなフォルムの違いにまでこだわった蜂屋さん流のうちわの形に仕立ててくれる
京うちわを作る道具の一部。半円状の刃は紙や生地をうちわの形に切り抜くためのもの。日本でも数少ない道具の職人が、わずかなフォルムの違いにまでこだわった蜂屋さん流のうちわの形に仕立ててくれる

「どうして京うちわにたどり着いたのか、自分でも不思議なんです」。そう笑う蜂屋さん。子どものころから、手を動かして何かを作るのが好きだったといいます。大学で建築を学ぶも、興味の対象は次第に、規模の大きな空間デザインから机の上で完結するものづくりへ。そんな時、偶然目にした京うちわに心奪われ、導かれるようにして宮城から京都へと移り住んできました。

蜂屋佑季さん。2021年12月には友人のフランス人デザイナーとともにパリで展示を行った
蜂屋佑季さん。2021年12月には友人のフランス人デザイナーとともにパリで展示を行った

京うちわの老舗「阿以波(あいば)」の門をたたくも、採用はなし。別の店で2年間経験を積んだのち、再度「阿以波」を訪ねリベンジを果たします。職人業と並行して、世界各国の民芸を扱う店で働いた経験が制作のインスピレーションに。そこで出会った(李氏)朝鮮文化やアジアの染織工芸などが、京うちわの次なる表現を見いだす糧となりました。

アートとして思い出として、飾れるうちわを

桂離宮の襖(ふすま)の市松模様のうちわ(藍、4400円~。以下税込み)
桂離宮の襖(ふすま)の市松模様のうちわ(藍、4400円~。以下税込み)

建築好きならピンとくる市松模様のうちわは、桂離宮・松琴亭(しょうきんてい)の襖(ふすま)へのオマージュ。うちわの小さな面積の中に、松琴亭の襖と全く同じ比率の市松模様を手摺(ず)りしています。他にも、藍染めの布やインドの更紗(さらさ)、日本各地の産地から取り寄せた和紙など、素材となる紙や布はさまざま。金箔(きんぱく)やプラチナ箔、緑青(ろくしょう)の出た銅など、異素材を用いて表現することもあります。

細い竹の骨を60本用いてうちわの面を作る。かつては竹を裂くのも分業制だったが、蜂屋さんは自身で行う
細い竹の骨を60本用いてうちわの面を作る。かつては竹を裂くのも分業制だったが、蜂屋さんは自身で行う
一本一本貼り付けていく作業は、地道ながら最もうちわ制作らしい過程
一本一本貼り付けていく作業は、地道ながら最もうちわ制作らしい過程

「限られたうちわの面積に、素材や図案をどう切り取るかで印象が変わります。額装に近いかもしれません。日用品としての用途が減りつつあるいま、美術品として飾って楽しんでもらうことが大切だなと」

窓辺には、歴代の京うちわを収めた図録が。驚くような技法や図案も数多くある
窓辺には、歴代の京うちわを収めた図録が。驚くような技法や図案も数多くある

そう話す一方で、日用品でも美術品でもあるあいまいさもうちわの魅力の一つ、と付け加える蜂屋さん。あおぐことができないような装飾や、うちわの形を逸脱することはありません。先人が築き上げた造形と技術にリスペクトを持ちつつ、現代のインテリアや海外の顧客のニーズに寄り添うものづくりは、この美しい工芸品の未来が明るいものでありますようにという、願いの形でもあるのです。

でんぷんのりで和紙を貼り、一本一本竹の骨を押さえて密着させていく。でんぷんのりを用いるのは貼り替えや修理が容易なため
でんぷんのりで和紙を貼り、一本一本竹の骨を押さえて密着させていく。でんぷんのりを用いるのは貼り替えや修理が容易なため

「今は、お客様が持ってきてくれた素材でオーダーメイドのうちわを仕立てることがおもしろいんです。例えば、着なくなってしまったけどテキスタイルが気に入っている洋服や、版画家さんの作品、お子様の足形など。これだけ(うちわの面)の面積さえあれば作ることができる。自分一人では開けなかった世界が広がります」(蜂屋さん)

編み込んだ和紙やバティック(ジャワ更紗)、シルクスクリーンで図案を摺(す)ったものなどさまざま。貼り地の持ち込みによるオーダーメイドは1本3300円〜
編み込んだ和紙やバティック(ジャワ更紗)、シルクスクリーンで図案を摺(す)ったものなどさまざま。貼り地の持ち込みによるオーダーメイドは1本3300円〜

職人の減少とともに、かつて当たり前だった分業制も、蜂屋さんのように一人で最初から最後まで制作するスタイルへと変遷してきました。けれど、人と人とが関わることで化学反応が生まれる、ものづくりの醍醐(だいご)味は変わりません。使い手とのコミュニケーション、異なる分野の作り手との交流。新しい風を取り込んで、京うちわは進化し続けています。

■ 蜂屋うちわ職店 https://www.instagram.com/hachiya_uchiwa/
          https://hachiya-uchiwa.jp/

フォトギャラリー(クリックすると、写真を次々とご覧いただけます)

BOOK

アートとして、日用品として 京うちわの新たな風 「蜂屋うちわ職店」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&Travelの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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