貧困、暴力……時代を超え露呈する社会の死角 「女性同士の絆」とは

『覚醒するシスターフッド』
30年ぐらい前の映画になるが「テルマ&ルイーズ」が好きだったのを思い出した。友達とビデオを借りて夜中に観たりした。なんとも言えない結末に、雨戸のない窓の外が少し明るくなってきて余計に切なくなったのを憶(おぼ)えている。特に感想を言い合うわけでもなく、お昼までそのまま友人の部屋で寝てしまい休日をダラダラと過ごしていた時代だ。昨今の「シスターフッド」に注目が集まり、自身もいろいろと読んだりしている中で、ふと思い出した映画だった。
当時は「シスターフッド」という言葉は知らなかったが、70年代(第2波フェミニズム)に少し流行(はや)った言葉だそうだ。男女雇用機会均等法に一抹の希望を感じながらバブルの余韻に溺れていた時代に、「何とも言えない切なさ」を感じたのは、言葉は知らずとも“何か”を感じ取っていたからだろう。
とはいえ、まだまだその言葉を知らない人は多い。こんなにSNSや本、雑誌、映画で取り上げられ手元(スマホ)でもそれが溢(あふ)れているのに、ビデオレンタルしていた時代から動いていないかのようだ。
『覚醒するシスターフッド』は、『文藝』(河出書房新社)20年秋号に書き下ろしを加え翌年に単行本化された。名だたる作家による切り口が様々な「シスターフッド」がこの中にあり、これもか、あれもそうかという関係を見つけられるとても贅沢(ぜいたく)な内容だ。馴染(なじ)みのある作家作品から読むのもよし、気になっていた作家作品を読んでみるのも短編の醍醐味(だいごみ)である。
私自身も短編集は、順番にかかわらず気になるところから最近は読んでいるのでそのようにした。中でも今まで気になっていたが、鮮烈な内容が世代的にどこか現実と重なるため避けていた桐野夏生さんの作品を拝読することができた(「断崖式」桐野夏生 p.235〜)。ドラマになった有名な作品もあるのに、それも見ることが出来なかった。初めて読んだこの作品は、読み終えた瞬間私の眉間(みけん)に突き刺さってきた。
雑誌「VERY」(22年4月号)の座談会「拡散するシスターフッド」の中で、小島慶子さんが桐野さんに「どうして私のことを知っているんだろう」と、ある小説を読んで思ったという内容が座談の中に書いてあったが、まさに小説の中の話でありながら、生々しい現実を受け取ってしまうのだ。
『燕(つばめ)は戻ってこない』
そんなタイミングで発売された桐野さんの新刊である本書『燕は戻ってこない』を一気に完読した。貧困、暴力、不妊、代理出産など様々な立場で問題に晒(さら)される女性たち。実際にある現実の死角がそこには書かれている。女性についてまわる「時間」に追われる中で、お互いに同情や共感をしていくのではなく、相手を理解しようとする想像力がそこには存在していた。
半ば過ぎたあたりから頭の左側で結末が気になり始める。このように原稿が控えている時は、自ら結末をあえて先に読んだりするのだが当然そんな気にはなれず、間違っても手が滑って最後のページがめくれて見えたりしないよう注意を払った。覚悟して最後のページをめくったが、自分の想像とは違っていた。眉間は熱くなり、その瞬間に登場人物たちへのエンパシー(共感)が働いた。
コロナ禍も3年目に入り、格差や貧困など様々な社会問題が露呈している。そんな沈殿している現実を底から汲(く)み取った、本書のような作品に目を背けることなく、あの時感じた“何か”を明瞭にしていくために手に取っていきたいと今更ながら思う。
決して、同じことを思わなくてもいい。「そうだよね」の後に「でも自分はね」と、付け加えて良いということ、テルマとルイーズのような結末が全てではないのだということを、幼き世代に伝えたい。

いわさ・さかえ
二子玉川 蔦屋家電 健康・美容コンシェルジュ
女性向けフィットネスジムにて健康・美容相談を受けながら、様々なイベントやフェアを企画。自身がそうであったように、書籍を通して要望にお応えできたらと思い、蔦屋家電のBOOKコンシェルジュに。「心と体の健康=美」をモットーに勉強の日々。