花のない花屋
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スペインから父へ。直接その手を握る代わりに

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
中山かおりさん(仮名) 55歳 女性
翻訳・通訳
スペイン在住

    ◇

コロナで以前のように、国をまたいで自由な行き来ができなくなり、もう2年以上も日本に帰省できないでいます。今、92歳になった父に会ったのも、2年以上前。最後に会った日、入院中の父が起き上がって部屋の入り口まで見送ってくれた姿が、今も目に浮かびます。弱々しく手を振っていた父。私が振り返ると、父は私が見えなくなるまで、部屋の入り口から私の後ろ姿を見送ってくれていました。

約三十年前、私が仕事を辞めてスペインに語学留学したいと希望した時、反対もせず背中を押してくれたのは父でした。戦時中に学生だった父は、自分が本当にやりたいことができなかった世代。せめて私には好きなことをさせたかったのだと思います。

今、私がスペイン人の夫と結婚して家族を持ち、スペイン語の仕事をしながら幸せに暮らしているのも、この父の理解と経済的協力のお陰だと感謝しています。

父は、真面目な銀行員で、退職まで全うしましたが、退職後は、墨絵を習ったり、畑仕事に精を出したり。もともと、スポーツが得意で足も速く、運動会の保護者リレーではアンカーを走り、他の走者をごぼう抜きするようなカッコいい父でもありました。

本好き、映画好きで、私が帰省するたびに、夜遅くまで一緒に映画を見たり、最近読んだ本の話に花が咲いたりして、楽しい時間を共有しました。と同時に、ちょっと天然なところもあって、よく一緒に大笑いしたのも、楽しい思い出です。

その父が70歳を過ぎてから習い始めたのがピアノ。私の2人の子供たちも、小学生のころにビオラとクラリネットを習い始め、スペインから私たち家族が帰省する度に孫と一緒にファミリーコンサートを楽しんでいました。

2人の子供たちにとっても日本のおじいちゃんと一緒に楽器を演奏するのは、日本での楽しみのひとつ。遠い国にいながらも、音楽を通して祖父と孫の絆がしっかり結ばれていく姿は、娘として母親として、本当にうれしいものでした。

そんな父も、自身が介護をしていた母が8年前に亡くなってから、ガクッと弱くなってしまいました。2年後には脳梗塞(こうそく)で倒れ、ピアノからも離れてしまいました。いろんな意味で不自由になり、グループホームに入居。最後に私が病院を訪ねて間もなく、コロナ禍と重なり、家族の面会もほとんどできない状況が2年以上続いています。

認知症がすすんでいる父は、私が誰なのかもう分からないかもしれません。直接会って父の手を握りしめて、「お父さん、久しぶり!」といつものようにあいさつしたい。でもそれができない今、せめて、父へ花束を贈りたいのです。

実は、偶然ですが、娘も東さんのファンで、数年前に「インターネットで素晴らしい花のアレンジメントを作っている日本人がいるよ!」と言って見せてくれた作品が東さんのものでした。それ以来、娘とも東さんの作品で話が盛り上がります。

グループホームにいる父にも見せて「わー、すごい花束だね、誰からだろう」と、驚かせたいです。ちょっとビックリした父の顔を思い浮かべながら、そして父への感謝の気持ちを添えて。

スペインから父へ。直接その手を握る代わりに
≪花材≫キングプロテア、ゼンマイ、ヘリコニア、グズマニア、パフィオペディラム、アマリリス、多肉植物、ウツボカズラ、ピンクッション、カンガルーポー、アリウム、ナデシコ、アルストロメリア、ハラン

花束をつくった東さんのコメント

お花でお父様を驚かせたい……そんな投稿者様のご希望に添えるよう、珍しい花材をたくさん入れて、「この花はなんだろう」とのぞき込んで楽しんでもらえるようなアレンジに仕上げました。

真ん中に置いたのはキングプロテアという南アフリカの国花。またカンガルーの足という意味があるオーストラリア原産のカンガルーポーなど、ネイティブフラワーがたくさん入っています。ネイティブフラワーは茎もしっかりしていて強さもあり、普通の切り花より長く楽しめるものも少なくありません。

見るからに生命力がみなぎるそんなアレンジから、投稿者様から遠く離れたお父様に、元気を送れることを期待しています。

スペインから父へ。直接その手を握る代わりに
スペインから父へ。直接その手を握る代わりに
スペインから父へ。直接その手を握る代わりに
スペインから父へ。直接その手を握る代わりに

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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