いしわたり淳治のWORD HUNT
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くだけた言葉とやさしさと男気の三つ巴『辛』

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の6本。

 1 “辛、マジで辛”(今市隆二『辛』/作詞:RYUJI IMAICHI・Chaki Zulu・JAY’ED)
 2 “もんっ。”(藤田ニコル)
 3 “本人になりたい。”(専門ものまね師)
 4 “おじさん認定”
 5 “まだ僕だけこりん星にいる。”(ザ・マミィ 酒井貴士)
 6 “取り返しのつかない挨拶”(オードリー 若林正恭)

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

くだけた言葉とやさしさと男気の三つ巴『辛』

今市隆二さんの新曲『辛』が頭から離れない。大人っぽい曲調の歌なのだが、サビのパンチ力がすごい。「辛、マジで辛 と思う前に俺に鬼電してよ ごめん、マジでごめん 気づいてあげられなくて」と歌われるのである。くだけた言葉とやさしさと男気の三つ巴(どもえ)。新鮮な響きである。

思えば、君からの電話に気づかなかったことをここまで悔やむ歌というのは、今までにありそうでなかった気がする。今っぽい新しい視点だと思う。若者はメールやLINEなどで何かしらの短いメッセージを文字で送り合うのが基本で、電話はほとんどしないという。なので、突然電話が来て留守電もなく着信履歴だけが残っているのは、40歳オーバーの私たち世代には当たり前でも、今の若い世代にはある種の緊急事態のような焦りを感じさせるものがあるのだろう。

サビの汎用性(はんようせい)の高いフレーズもいい。一般的に、Adoさんの「うっせぇわ」しかり小島よしおさんの「そんなの関係ねえ」しかり、いわゆる汎用性の高いフレーズがメロディーに乗る時は、メロディー自体もまたその言葉の心情や勢いに寄り添っているものである。が、この歌は違う。「辛、マジで辛 と思う前に……」と、相手を思いやって発している言葉なので、「辛、マジで辛」と歌われている時のメロディーは辛さや切迫感のあまりない、むしろラグジュアリーでスイートなメロディーなのである。それゆえに、言葉とメロディーの間に不思議な違和感が生まれていて、耳に残るのだ。

最近、自分に何か辛いことがあった時は、この「辛、マジで辛」の部分を口ずさんでいる。この言葉とメロディーには、辛さをやわらげる魔法が宿っている気がする。

くだけた言葉とやさしさと男気の三つ巴『辛』

5月8日放送のテレビ朝日『あざとくて何が悪いの?』でのこと。モテ男のあざとい部屋を紹介するコーナーで、銀座の美容室で働く美容師の部屋を取材したVTRが流れた。洒落(しゃれ)た玄関、こだわりの家具、飼い猫、猫の毛が付くから着替えちゃってと差し出された部屋着、本棚に並んだ本、コーヒーとその器。そこかしこに漂うモテそうな雰囲気。そして、レコードをかけようとした時である。「レコードかあ……」と、スタジオでVTRを見ていた藤田ニコルさんがつぶやいた。「音楽がかかってる部屋って何か気まずくないですか? 最初からムーディーなのがかかってると……なんか、もんっ。って感じ。紫感が強いっていうか。無音で普通に喋(しゃべ)れる人がいいなって思っちゃう」と続けた。
 
音楽をレコードで聴くというこだわりが余計なのかと思ったら、そうではなく音楽そのものが余計だったようである。誰かを部屋に招いた時、音楽なんかないよりはあるに越したことはないと思っていたけれど、無音の方がいいという人もいるのだというのには正直驚いた。そして、彼女のその意見をスタジオで誰も珍しがらなかったのは、無音派が決して少数派じゃないことを物語っているようにも見えた。
 
私は職業柄、音楽が身近すぎてよく分からないのだけれど、たしかにあまり音楽に詳しくない人によるいかにもモテそうでムーディーな選曲は、あざといを通り越してちょっとキツいものがあるのかもしれない。そう考えると分からなくもない気もする。

それにしても、ムーディーがすぎるということを「もんっ」という短い擬音で表現したのはすてきだなと思った。初めて聞く擬音なのに、ちゃんと伝わる。

くだけた言葉とやさしさと男気の三つ巴『辛』

5月6日放送のフジテレビ『私のバカせまい史』でのこと。今まで誰も調べたことのないようなせまい歴史を紹介する特番だった。その中でバカリズムさんは、一人の有名人のものまねだけをし続ける“専門ものまね師史”について調べていた。

番組によると、その歴史は1973年の五木ひろしさんのものまねを始めた三木ひろしさんが起源なのだそう。その頃はまだ「モノマネ芸人」という呼称がなかったため、「偽物そっくりさん」という残酷な名前で呼ばれていたのだそう。その後、プリティ長嶋さん、たっちひろしさん、ビトたけしさん、轟進一さんといった専門ものまね師が登場していくことになるのだが、時には専門にした有名人がカブることも珍しくなく、美川憲一さんのものまね師は、美川憲二さん、そのまんま美川さん、美川憲ちゃんさん、魅川憲一郎さんなどがいるらしい。こうなるとお互いの関係性が気になるが、お互いの舞台を観に行ったり、LINEで繋(つな)がっていたり、概(おおむ)ね関係性は良好なのだそう。専門ものまね師は本人と運命共同体なので、スキャンダルなどの影響をモロに受けることもあり、小石田純一さんなどは大変なことも多いという。

最後に番組から専門ものまね師の皆さんにアンケートを取っていた。「生まれ変わっても同じ人のものまねをしたいですか?」という質問に、197人中71%の人が「やりたい」と答えた。そして、「やりたくない」と答えた残りの29%で多かった理由が「本人になりたい」だったという。

世間では昨今、自分らしさを大切にする生き方こそが美しいとされがちだけれど、その対極にある「本人になりたい」というピュアなリスペクトもまた、ものすごく美しいものなのだとハッとさせられた。

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