派遣先のスリランカで夢中になった「パンジャビドレス」

「国境なき衣食住」は、国際NGO「国境なき医師団(MSF)」の看護師として紛争地や危険地に赴任してきた白川優子さんが、医療・人道援助活動の傍(かたわ)らで出会った人々、触れ合った動植物、味わった苦労や喜びについて、哀歓を込めてつづるエッセイです。
海外での派遣生活は、現地でしか体験できない楽しみがたくさんある。その一つが、民族衣装を身につけることだ。
MSFに参加する前、東南アジアを回るバックパッカーの旅に出たことがある。その時もその土地、その土地で手に入れた民族衣装を身にまといながら放浪していたが、ややミーハー的な感覚があったと思う。ちょっとその土地を通り過ぎただけなのに、知ったかぶりをしていたかのような自覚がある。
MSFの派遣では、一時の旅人ではなく、そこで仕事や生活をしていたから、「かぶれ感」を恥じることなく、民族衣装を身につけていた。現地で民族衣装を日々身につけると、「人と違うおしゃれ」をしている楽しさがあり、気分も引き締まって、仕事のやる気がわいてくるのだ。
ワクワクしたスリランカでの経験
長年の夢をかなえて参加したMSF。2010年に派遣された、スリランカでの初めての活動体験の感想を聞かれることは多い。きっと「大変だった」という言葉を予想して聞いてくる相手に私は「すごく楽しかったです!」と言う。もちろん大変だったエピソードはたくさんあるが、それよりも出会った人々との楽しい会話やその時に感じた味、目にうつる景色、浮き立つ心の感覚は、心の中にいまだに色濃く収められている。
10年以上が経過した今でも、思い出すだけでワクワクしてしまうのは、サリーとパンジャビドレスと呼ばれる、スリランカの衣装。私は8カ月の間、これらを日常的に身につけていた。

サリーもパンジャビドレスも、ヒンドゥー教徒の女性が着用する色鮮やかな民族衣装だ。サリーは5メートルほどある細長い一枚の布で体を包み込むようにまとう。日本の着物にも様々な着付けのスタイルがあるように、サリーにも包み方のスタイルが様々あるという。布地を裁断せず身にまとうことで、ヒンドゥー教の教えではサリーは「浄」とされるらしい。
ピッチリと体に巻き付けるので、両足や体の可動域はあまり良くないだろうが、現地の女性たちはこのサリーを日常的に着用していて農作業もしていた。素人の私にはサリーは少々躊躇(ちゅうちょ)を覚えた。

私が夢中になったのは、断然着やすいもう一つのパンジャビドレスの方だった。ひざ丈まであるチュニックと、ズボンを合わせ、長いスカーフを首に巻く。サリーと比べても動きやすいので病院の仕事にも差し支えがなかった。
