「言われたことは一生懸命やります」からの脱却

「自分たちだけで考えるなんて無理です。言われたことは一生懸命やりますから、とにかく『こうしろ』と指示してほしい」。組織風土改革を支援するスコラ・コンサルトの若山修さんは、支援先の会社で女性の契約社員3人から告げられた。「どうしたものか……」。その企業が求めている目標と正反対の言葉に、若山さんは戸惑いを感じざるを得なかった。
その会社は、顧客満足度を高める施策を現場で働いている人たち自身が考え、上からの押し付けではない内容にしたいと考えていた。そのために、各支店ごとに委員会を立ち上げ、現場で働く人たちによる会議を通して、アイデアを出すことになっていった。
ところが、訪ねた支店で会議の狙いについて説明していると、最初から「自分たちだけで考えるなんて無理です」と言われた。
「なぜできないのか」徹底的に聞いた
若山さんは、戸惑った。ほかの支店にも行かなくてはいけないからだ。与えられた時間は2時間。限られた時間で、彼女たちが現場での経験をもとに自分たちで企画を考えることに前向きになってもらうための道筋を一緒に編み出す必要があった。
まずは、スコラ・コンサルトの手法である気楽でまじめな話をする「オフサイトミーティングⓇ」について、3人の契約社員とその上司にあたる女性の支店長に説明をした。しかし、実際に議論し、発案する当事者になる3人は「私たちは何もできません」という態度を変えなかった。

若山さんはどうしたか。とにかく、彼女たちが「なぜできないのか」と考える理由について、徹底的に聞くことにした。
若山:「なぜ、自分たちは考えられないと思うのですか」
社員:「いままで指示に従う形で仕事をしてきたからです」
若山:「なぜ、いままで指示に対して意見を言わなかったのですか」
社員:「その方がスムーズに仕事が進むし、お互いに楽じゃないですか」
若山:「意見を言わない方が結果的に苦しくなることはなかったですか」
このように、若山さんはヒアリングをして、彼女たちが「自分たちが考えるのは無理」と考える理由について、2時間かけて掘り下げていった。そこから見えてきたのは「責任が生じない仕事は楽である」という彼女たちの本音だった。若山さんは最後に「責任が生じない仕事が本当にやりたい仕事ですか」と聞いた。すると、3人は「そういわれると……」と答えにつまった。

責任が生じない仕事は、楽だけれど、楽しいとはいえないかもしれない――。それが結論だった。若山さんと3人の契約社員、支店長の計5人が参加した会議は予定していた2時間で終わった。
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