花街・宮川町の外れにたたずむ、どこか懐かしい「喫茶noho」

シュワシュワとはじける透明なソーダのグラスに添えられた、レモンとさくらんぼ。どこか懐かしく、梅雨の空気を吹き飛ばしてくれるようなルックスのレモンスカッシュが、「喫茶noho(ノホ)」の名物です。五花街のひとつ・宮川町にほど近いかいわいは、花街の華やぎの気配を感じつつも、落ち着いたレトロな街並み。ここに暮らす人々に愛される小さな喫茶店が、今回の散歩の行き先です。
■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、京都の素敵なスポットをご案内しています。
小さいころ連れられて行った、喫茶店の風景を再現

通りに開けた店の入り口からは、近所のおばあさんや子どもたち、時に普段着の舞妓(まいこ)さんたちが行き交い、あいさつを交わす風景が見られます。2020年9月にオープンした「喫茶noho」は、カウンターと8席ほどのテーブルだけの小さな喫茶店。コロナ禍のさなか、営業縮小を余儀なくされた花街でひっそりとスタートするも、オープンで親しみやすい雰囲気で着実にファンを増やし、今では地域になくてはならない存在になりました。

ナポリタンスパゲティ、あんバタートースト、クリームソーダなど、メニューに並ぶのは昔懐かしい喫茶店の味。コーヒーは、ハンドドリップが主流の昨今では珍しい、サイホン式でいれられています。
「小さい時、じいちゃんに連れて行ってもらった純喫茶のモーニングが、僕の喫茶店の原風景なんです。5、60代になったら喫茶店をやりたいなと思っていたんですが、たまたまこの物件に出会って、お年寄りや子どもたちが多い町の雰囲気がいいなと思って」

そう語るのは、オーナーの齋藤浩文さん。市内で和食店を数店舗経営しながら、畑違いの喫茶店を手掛けることにしたのは、そんな自身の温かい思い出があったからでした。王道のメニューも、カウンターのサイホンも、齋藤さんの記憶の中にある喫茶店そのもの。地元の常連客が1人、2人と増えるにつれ、あのころの喫茶店の風景は現実になっていきました。
宮川町の“素”の日常に根ざして

メニュー自体は「どこにでもある」喫茶店らしい品々ながら、その一つひとつは「ありそうでない」シンプルで素材を大切にした味わい。澄んだ色が涼しげなレモンスカッシュは、国産レモン果汁をぜいたくに使い、甘さは好みで調節できるよう別添えのシロップを加えていただきます。

コーヒーゼリーは、ゼリー用にハンドドリップでいれた深煎りコーヒーに7〜8分立ての生クリームを合わせてクラシカルな装いに。ご近所の人気店「Nitta Bakery」の食パンを使ったトーストメニューは、モーニングや軽食に欠かせません。
「オープンしたばかりの頃は、コロナでこの辺りもさびしくなって。でもひらけた空間やから、ご近所さんや宮川町の人らが『喫茶店できたんか』って気にかけてくれたり、手を振ってくれたり。この地域ならではの時間が流れていると思います」(齋藤さん)

にぎやかな夜の花街から少し視線を移せば、街の素の顔があります。喫茶店は、昼間の街のありふれた日常を重ねる場所。暮らす人に愛されたどこにでもある喫茶店こそ、大人になっても忘れない特別な店になるのでしょう。
■ 喫茶noho https://www.instagram.com/noho_kyoto/
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BOOK
大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&Travelの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。