海と富士山を同時に望む幸せ 千葉県の竹岡駅と浜金谷駅

海の見える駅は日本全国にあまたある。そして富士山が見える駅も数多い。しかしその両方を同時に見られる駅は、実はとても少ない。そんな貴重な駅を千葉県富津市の房総半島で見つけた。JR内房線の竹岡駅と浜金谷(はまかなや)駅だ。しかし、富士山まで見えるかどうかは運次第。2020年3月、初春の澄み渡った空のおかげで、思いがけず“海と富士山”を存分に味わうことになった。
連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。
房総で屈指の眺望を誇る、竹岡駅
内房線の駅を巡る旅に出たこの日、最初に訪れたのは竹岡駅。標高およそ20メートルの高台にあり、房総でも屈指の眺望を誇る無人駅だ。背後に森を抱え、屋根もない二つの長いホームが静かに向かい合っている。
正午前、快晴の空のもとホームに立つと、開けた海のほうへ自然と目が向いた。眼下に広がったのは、深く鮮やかな青色の東京湾。対比するように、強い西風にあおられた白波がくっきりと浮き立つ。その先には、対岸にある神奈川県の街並み。30キロ以上離れた横浜・みなとみらいのビル一つひとつさえ、小さいながらもはっきりと見える。まるで精巧な模型を眺めているかのようだった。

3月にもかかわらず、幸運にも春霞(はるがすみ)とは無縁の澄んだ視界。強風に加え、前夜に雨が降ったおかげもあるのだろう。
竹岡駅の駅舎は、ガラスと格子に囲まれた簡易なもの。駅前に高い建物はなく、一本の坂道が海のほうへとまっすぐ伸びている。それらのおかげで、駅舎越しの視界も良好だ。出口のはるか先には、横須賀市の観音埼灯台。東京湾沿いには目印になる建物があまたあるため、手元で地図と照らしながら景色を眺めるのも、なかなか楽しい。

今度は二つのホームに架かる跨線橋(こせんきょう)へ。道路の歩道橋のように、屋根が一切ないのもうれしい。登り切ると期待通り、大パノラマが広がった。
ただ、ホームでは気づかなかった意外なものが見えた。富士山が顔を出したのだ。

青々とした東京湾の向こうに、たっぷりと雪を身にまとった白い富士。今までは海が景色の主役だったが、美しい稜線が現れた瞬間、ついそちらに目を奪われてしまうのだから、富士山の美しさは侮れない。
数々の駅を巡ってきたが、駅の中から海と富士山を同時に見たのは、これが初めてのこと。竹岡駅には10年以上前にも訪れたが、当時富士山が見えた記憶はない。富士山と海、そして駅が一直線に並ぶという奇跡的な位置関係。それに加え、天候の好条件が重なったことで出会えた風景だった。
大都会の目と鼻の先に、思わぬ絶景が隠れていた。
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