43年前の前衛、再評価される 古典車コンクール「ヴィラ・デステ」

世界屈指の古典車コンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」が、2022年5月21-22日にイタリア北部コモ湖畔で催された。今回は51台のヒストリックカーと7台のコンセプトカーが参加。そのなかの1台が示したものとは?
40年行方不明だったエンジン
昨2021年のヴィラ・デステは、イタリアの新型コロナウイルス規制に配慮したスペシャル・エディションとして10月に開催された。いっぽう今回は、2019年以来ようやく恒例の初夏に戻された。ただし前年に引き続き、一般公開日の復活は見送られ、出展者と審査員そしてゲストのみで行われた。
会場であるグランドホテル・ヴィラ・デステの強烈なジャスミンの香りと、真夏を思わせる日差しに目眩(めまい)さえ覚えながら庭園内を歩く。
7つのクラスには、それぞれ以下のように魅力的なタイトルがつけられていた。
A: アール・デコ時代と自動車デザイン
B: スーパーチャージャー付きメルセデス・ベンツ
C: (グランドホテル)ヴィラ・デステの150年
D: フェラーリの75年
E: “日曜日に勝ち、月曜日に売れ”
F: BMW「M」と、その祖先たち
G: 魔法の時速300キロメートルを追い求めたパイオニアたち
審査員団には今回、フィアットで1998年「ムルティプラ」や2007年「500」をデザインしたロベルト・ジョリートも加わった。
2022年のベスト・オブ・ショーに輝いたのは、上述のクラスAでウィナーになった1937年「ブガッティ57Sカブリオレ」だった。その形態は、当時フランスの車体製作者たちが競うように採り入れていたアール・ヌーヴォー風の曲線基調と一線を画した、鋭利ともとれるラインをもつ。過去のオーナーは10人で、そのうち1人である、米国ゼネラルモーターズ社の副社長によって、エンジンをパワフルな米国のビュイック製に換装されてしまった。だが近年、インターネット検索を含む丹念な捜索の末、オリジナル・エンジンの発見に成功し、40年ぶりに元に戻された。

“ソフィア・ローレンのメルセデス”も
クラスGは、会場であるグランドホテルが150年を迎えたことを記念するもので、時代ごとのゲストたちが横づけしたであろう車たちが参加した。ガルウィング・ドアをもつ1955年「メルセデス・ベンツ300SL」は古典車イベントの常連である。だが、今回スイスのオーナーが持ち込んだ車両は、当時イタリアの大物映画プロデューサー、カルロ・ポンティのプロダクションのもとにあった。そして、彼のパートナーであった俳優ソフィア・ローレンのピンナップ撮影のほか、彼女が参加したラリーにも用いられた。

クラスE “日曜日に勝ち、月曜日に売れ” とは、週末のレースにおける好成績が、翌週の販売に直結していた時代、頻繁に用いられていたフレーズである。こちらの最古のモデルはまさにメーカーがコンペティションの結果で名を馳(は)せていたときを象徴する1954年「マセラティA6GCS MM」だった。また、同じクラスには、かつてル・マン24時間レース用に開発された1998年日産R390GT1もいた。見るからにレーシングカーの出(い)で立(た)ちだが、公道走行用の認証を取得済みで、現在はスイス在住の元F1ドライバー、エリック・コマスのもとにある。

クラスFに参加した、1981年「BMW M1」に関しては、その数奇な運命をオーナーのハリー・ファン・デン・アンカー氏が話してくれた。
「この車はシチリア島で僅(わず)か6年前に発見されたものです」。初代オーナーは、このスーパースポーツカーの納車を見届けたものの、しばらくして不慮の死を遂げた。「以来35年、走行距離計は7329キロメートルで止まったまま、車庫で埃(ほこり)にまみれていました」。惰眠をむさぼっていた車の晴れ舞台である。

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