出会って25年。彼女がありのままの私を受け入れてくれるから

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
中山尚さん(仮名)40歳 女性
パート
大阪府在住
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あいさつをする程度だった彼女との仲が近くなったのは、中学3年生で席が前後になった時。受験も控えた大変な時期だったのに、次の日学校へ行くのが楽しみ過ぎて、毎晩ワクワクしながら眠るような最高の1年でした。
2人でこっそり先生のモノマネをしたり、秘密の場所でボール遊びをしたり。高校、大学とそれぞれの道を歩き、簡単に会えない距離になってしまっても、お互い心の支えであることに変わりがありませんでした。とくに大学時代は、私は関西、彼女は関東と遠く離れてしまいましたが、長く話せて低価格なPHSを2人の連絡用にお互い持っていたくらいです。長期間の休みに入ると、お互いの家で泊まりあったり、旅行をしたり。社会人になっても、彼女とのつきあいは同じように続いていました。
この25年間で、彼女の存在に何度助けられたことかわかりません。例えば6年ほど前のことです。結婚して数年後、夫の転勤で会社を辞めて少ししてから、私は体調をガクッとくずしてしまったのです。常に不安感がつきまとい、動悸(どうき)も止まらない。買い物の列に並ぶ少しの待ち時間でもパニックになりそうになっていました。
動きたいのに動けない。外出は不安でできないし、だからといって家にいても頭の中の考え事ばかりが先走り、もうどうしていいかわからない状態に。病院を受診すると、不安症との診断でした。
そんな時でも親友とのテレビ電話は、私の心に笑いを呼び戻してくれる大切なひと時でした。とくに私が病に苦しんでいたときは、忙しい彼女も時間をやりくりしてくれて、私の体調や不安なことについて、何度も同じ話を聞いてくれました。
「ずっと不安が頭から離れなくて考えすぎちゃうねん……」。私がそう打ち明けると、「よく考えることって尚の良いところやん! そこは変えなくていいで。何か楽しいと思えることに没頭することで、その不安が消えるといいんやけどなぁ」と言ってくれた親友。
え! 考えすぎてもいいのか! 私はそういう性格なのだから、変えなくてもいいのか!
そう思ったとたん、スーッと気持ちが楽になりました。私のことを昔からわかってくれているからこその、彼女の一言。中学の頃の私はポジティブの塊で、親友を励ますほうの役が多かったけれど、年齢を重ねてたくましくなっていく親友がますます大事に、いとおしく思えました。本当に彼女と出会えて良かった。感謝の気持ちがあふれ出てきて、いっぱいになりました。
その後私は、ありのままの私を受け入れてくれる親友の言葉に励まされ、また親友とのテレビ電話の時間を快く作ってくれる夫にも感謝しながら、少しずつ動きたい気持ちが芽生え、3年前には近所で短時間の仕事をし始めました。今はずいぶん自信がついて、不安感ともうまく付き合いながらマイペースに行動範囲を広げているところです。
彼女といえばバリバリ仕事をしていて、今はリモートワークが多く会議も英語でこなしながら、私のことをいつも気にかけてくれます。そんなカッコいい面とたくましさの一方で、繊細さややさしさも持った親友に感謝を込めて、出会って25周年の記念にお花を贈っていただけないでしょうか?

花束をつくった東さんのコメント
ご友人の存在をイメージした「断崖の女王」(シンニンギア)というユニークな多肉植物を、アレンジの真ん中にシンボリックに置きました。実は「断崖の女王」は球根から芽が出たもの。花が終わったあとは、球根を取り出して育てて楽しんでもらえると思います。
この花のように明るくたくましいご友人のイメージで、アレンジのベースにしたのはビタミンカラーのオレンジ色です。その一方で、やわらかいベージュを使うなど、彼女の繊細でやさしい一面もミックスしました。
最後に全体を囲ったのは、かわいらしいイルカの形をした「ドルフィンネックレス」。中学時代から続く2人の絆に思いをはせながら、まとめ上げたアレンジです。




文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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