(167) 日暮れが迫る、時間勝負の撮影 永瀬正敏が撮った台湾
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回も台湾の金門島で撮影した一枚。映画撮影中、ぬかるんだ海岸をものともせず作業する人たち。どういう状況なのでしょうか?

映画はスタッフ・出演者の誰一人が欠けても成立しない。
僕は俳優も映画撮影の一部署、
他のスタッフの皆さんと同じ俳優部の一員だと思っている。
前回も少し同じようなことに触れたが、
映画はスタッフの皆さんの並々ならぬ努力の上に成り立っている。
しかも全ての現場が恵まれているわけではない。
ふんだんな時間やさまざまな物をかけて制作できる映画は、
ごくごく一部に過ぎない。
ほとんどの作品は、潤沢な時間と予算をかけられない分、
それぞれの部署のスタッフさんのマンパワーとアイデアで乗り切る。
監督のイメージする作品に少しでも近づけようと、
また、そのイメージを超えたものにしようと日々努力し撮影に挑む。
この時も、今や中華圏で売れっ子となった台湾の女性撮影監督ユー・ジンピンさんが、あるシーンでじっと海を見つめていた。
このシーンに合ったカメラアングルを探していたのだ。
そして靴と靴下を脱ぎ捨て、引き潮でぬかるんだ浜辺の中を、
ズンズン突き進んでいった。
前回書いたカメラアシスタントの女性もその後に続く。
そして、僕らからかなり離れた場所で、彼女はアングルを決めた。
二人はまた急いで機材の方へ戻り、先ほど決めたポイントへと向かう。
記録係も兼ねていたスタッフがその後を追った。
だんだんと日暮れが近づいている、時間勝負の撮影だ。
その日の出番を終えていた僕は、そんな彼女らの姿をスマホで撮影し続けた。
この中国・台湾・日本の合作映画「ホテルアイリス」。
この作品は撮影が終了した後もしばらく情報公開できないでいた。
劇場公開が決定するまでかなりの時間を要した。
今現在も僕が出演させていただいた、そういう作品たちが何本もある。
さまざまな事情が絡み合っているのも映画だ。
ただ、映画は観客の皆さんに観(み)ていただいて初めて成立する。
いくら作品が出来上がっていたとしても、
それまでは永遠に未完のままなのだ。
未完のままで劇場公開できずにいる作品たちの、
素晴らしいスタッフ・出演者の思いも、
早くスクリーン越しに皆さんに伝えられる日が来ることを切に願っている。
(台湾・金門島にて スマートフォン撮影)
劇場公開出来ずにいる作品を、私は楽しみにしています!
永瀬さんのフィルターの向こうには、素晴らしいスタッフ・キャストの皆さんの努力が写されているので好きです!
この連載でたくさん見せて頂いた撮影中に永瀬さんが撮られた写真を胸に、また『ホテルアイリス』が観たくなりました。
そして、出番を待っている作品たちのスクリーンデビューの日が早く訪れますように。