ニッポン銭湯風土記
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レトロ銭湯、手探りルネサンス 挑む若者 京都「源湯」

1928(昭和3)年創業の源湯(みなもとゆ)。(左から)店長・鈴木伸左衛門さん(31)とスタッフ・柳瀬大河さん(30)が笑顔でお出迎え=京都市上京区

旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。

【動画】のれんから「源湯」の中へ

紙屋川の近くで、京菓子「水無月」を買う

梅雨に入り、連日の雨となった。“うっとうしい天気”ではあるが、雨は恵みでもあり、この季節を機嫌よく過ごすことは日本に住む私たちにとっての作法の一つでもあるだろう。

曇天の下、学生時代に住んでいた思い出深い京都・西大路通かいわいへぶらりと出かけた。JR嵯峨野線を円町(えんまち)駅で降り、そばでも食べようかと思ったら、目当ての店が定休日。仕方なく通り過ぎると紙屋川(天神川)の橋にさしかかる。紙屋川は北山の鷹ヶ峰(たかがみね)あたりから発して北野天満宮をかすめて流れる小さな川だ。私が住んだ学生時代は、周辺の西陣織の染物屋さんからの排水で紫色の水が流れていたこともあったが、今はそういうこともなく、護岸の石垣に緑が茂って、市街地に一服の涼風を運ぶ水路ともなっている。

【動画】紙屋川のたたずまい

川の左岸をぶらぶらと北上すると、すぐ右手に、約8000体ものダルマがぎっしりと居並ぶユニークな寺、法輪寺(通称だるま寺)がある。さらにもう一つ上の橋の近くに、いかにも京都らしい風情ある和菓子屋さんがあった。「みな月」の招き布が揺れている。

松川屋
松川屋

京都で梅雨時に登場するおいしいものといえば、京菓子の水無月だ。お昼を食べ損ねたこともあり、これを買ってどこかで食べようと思った。水無月(みなづき)は本来6月30日の夏越(なごし)の祓(はらい)に無病息災を願って食べられるものだが、6月に入ると京都のどこの和菓子屋さんの店先にも並んでいる。蒸し暑い曇り空の下でも、それを目にするだけでふと涼しさを感じたりするから、人の心とは不思議なものだ。

老朽化を克服、よみがえったレトロ銭湯

水無月を買ってほんの3分ほど川沿いを北へ上がった橋のたもとに、1軒の古い銭湯がある。紙屋川の護岸すれすれにそびえる真新しい煙突からは、薪をたいた白い煙が細く流れている。1928(昭和3)年創業の源湯(みなもとゆ)だ。橋のたもとの化粧地蔵を懐に抱くように建てられた町家造りの建物は、どこか旅館を思わせる風情を漂わせている。銭湯ではあるが、この中にはちょっと特別な空間がある。

【動画】橋のたもとの化粧地蔵と源湯

長い歴史を歩んできた源湯だが、建物と設備の老朽化は甚だしく、前経営者は2019年4月半ばに継続を断念。それを引き継いだのが京都を中心に全国で7軒の銭湯の運営にかかわる若者グループ、ゆとなみ社だ。漏水がひどかった配管などを自分たちで修理し、番台式からロビー式への転換などのリニューアル工事を経て、同年7月13日に再開させた。

(左)ロビーでお客さんと(右上)男湯脱衣場 (右下)天井は伝統的な折り上げ格天井(ごうてんじょう)
(左)ロビーでお客さんと(右上)男湯脱衣場 (右下)天井は伝統的な折り上げ格天井(ごうてんじょう)

この日も2人の若者が客を迎え入れていた。じめじめした天気には風呂が一番。京都の銭湯は水が良い。源湯も地下90メートルからくみ上げた地下水を薪で沸かしており、肌にしみこむような心地よさがある。地下水をそのまま掛け流しの水風呂もたまらない。そして、これを日の高いうちから堪能するというぜいたく感。

女湯浴室。奥壁にアルプスのモザイクタイル画がある。その横のサウナは休止中
女湯浴室。奥壁にアルプスのモザイクタイル画がある。その横のサウナは休止中

【動画】水吐と鯉(こい)タイル

熱い湯と水風呂の交互浴をさんざん繰り返して大満足。服を着て、サラッとした自分の肌をなでながら脱衣場を出る。ここ源湯には、一般の銭湯ではまず味わえない風呂上がりの楽しみがある。それが「ととのいスペース」と呼ばれる広い休憩室だ。

【動画】「ととのいスペース」と呼ばれる休憩室

ここは源湯と一体化して隣接する家屋部分で、リニューアル以前は経営者が住んでいた。その壁を取り払って大広間とし、ロビー直結の休憩室に造り変えた。この部屋も源湯本体と同じく100年近くの年月を歩んできた歴史空間で、この部屋の存在が源湯の最大の特徴だ。窓辺のソファにいい光が入っている。ここでさっき買った水無月の写真を撮らせてもらうことを思いついてスタッフに聞くと、それを買った松川屋のご夫婦は源湯の常連客だという。へぇ、そうだったのか。

水無月、口いっぱいに甘くやわらかな京都が広がる(※源湯への飲食物持ち込みは不可。撮影のため特別に許可をいただきました)
水無月、口いっぱいに甘くやわらかな京都が広がる(※源湯への飲食物持ち込みは不可。撮影のため特別に許可をいただきました)

ギャラリーや雑貨店、2階に4テナント

源湯の魅力はそれだけではない。以前は物置になっていた2階を改修し、雑貨店やアトリエなど現在四つのテナントが入っている。そのうちの一つ、アートギャラリー「氵(さんずい)」では、絵画作品の展示が開催中だった。古い建物の眠っていた部分をよみがえらせ、その蓄積された魅力を引き出して、風呂とともに「銭湯空間」全体として楽しめるようにする。それがゆとなみ社の手がける銭湯に共通する基本理念ともいえるだろう。

源湯の中2階に入居するアートギャラリー「氵(さんずい)」
源湯の中2階に入居するアートギャラリー「氵(さんずい)」

源湯は前述の通り設備老朽化が甚だしい。サウナも壊れたままだし、あちこちから漏水もある。しかも周囲には設備の整った人気銭湯がいくつも近接する。それを引き継いだ若者たちは相当苦労しているに違いない。スタッフたちは何を思ってここで働いているのだろう。

NEXT PAGE厳しい現実と、若者たちの銭湯への関心・情熱

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