30代女性に刺さる女性マンガ家とは 無類のマンガ好き・宇垣美里さんに聞く手塚治虫文化賞受賞作

生き方も雑学もマンガから教わった

――マンガだけでなく、さまざまな「物語」に触れてこられたのですね。

私は、マンガと小説と舞台と映画は「出力方法が違うだけ」だと思っています。マンガの長所は、主観をデフォルメできることです。たとえば、出会った人がまるで花を背負っているように見えたというのは、現実ではあり得ないし実写でやるとコメディーになってしまうけれど、マンガでは許されます。

「ある人の言葉で世界が輝いてみえた!」という感情を、美しい朝焼けのシーンを描くことで視覚的に表現できる。その人の主観を、読者が体感することができる。言葉にできない気持ちを伝えるのにマンガは最適なメディアだと思います。

物語のなかでは自分と全く違う状況にいる主人公たちが、自分と同じような悩みを抱え、それに対する解決法を言語化してくれています。「問題をどうやって乗り越えるか」を読み、知ることが、好きなのだと思います。

30代女性に刺さる女性マンガ家とは 無類のマンガ好き・宇垣美里さんに聞く手塚治虫文化賞受賞作

――宇垣さんの生き方や人生観に、マンガは影響していますか。

もちろんです! 幼稚園のころから「美少女戦士セーラームーン」や「カードキャプターさくら」を読んで育ちました。自分の大切な居場所や大切な人を守るために戦う女の子たちを見ながら、自分の足で立つことは当たり前だと感じてきました。誰かに守ってもらうとか、助けを待っている時間があるなら「自分で立ち上がるのが早い!」って。良くも悪くもこういう人間になったことに大きく影響していると思います。私の周りには自立した女性が多いです。

雑学的な知識は「金田一少年の事件簿」と「MASTERキートン」から学びました。折れた銃身から弾を撃つ方法とか、砂漠にスーツ姿で放り出されたときどうするかとか。一切使ったことがない知識ですけれど。

高校生のころは、「窮鼠(きゅうそ)はチーズの夢を見る」や「同級生」を読んで、恋愛のままならなさや人間の業(ごう)のようなものを考えさせられました。大学時代に吉野朔実さんの「恋愛的瞬間」を読んで、「大体の人間関係の答えはここにある!」と開眼し、いまも思い悩むたびに読み返します。

30代女性に刺さる女性マンガ家とは 無類のマンガ好き・宇垣美里さんに聞く手塚治虫文化賞受賞作

――社会人になってからはいかがですか。

おかざき真里さんの「サプリ」は、働く女性の心理や言葉がすごく心に刺さりました。就職前に働くってこういうことなのかと思いましたし、会社員になってからも、自分のやりたい仕事が会社から用意されているものではないことを「サプリ」のセリフから考えさせられました。会社員には「替えがある」という意味のセリフを読んで、「そのとおりだ! 勇気を持って休もう!」と思いました。

ただ、人生を選択するときに、「この本を読んで背中を押された」という経験はありません。自分の人生は自分が決めるもの、創作物に答えを求めることは間違っている、と私は考えています。ただ、後で振り返って、「私のこの行動には、あの作品からの影響があったのか」と感じることはあります。

世界の「新しい見え方」示してほしい

――30代におすすめのマンガを教えてください。

先ほどお話しした「今夜すきやきだよ」や「かしましめし」(おかざき真里)がいいと思います。いずれも「これが当たり前と言われていたけれど、そんなことはないんだよ」と言ってくれる作品です。

今回マンガ大賞を受賞した「チ。-地球の運動について-」も、ある意味同じだと思います。地動説の証明に命を賭す人々の姿、科学や知性に対する姿勢については、新たな目を開かせてもらいました。

30代女性に刺さる女性マンガ家とは 無類のマンガ好き・宇垣美里さんに聞く手塚治虫文化賞受賞作
手塚治虫文化賞のマンガ大賞『チ。-地球の運動について-』の受賞記念イラスト ©魚豊/小学館

実は先日、ラジオ番組で魚豊(うおと)先生にお話を聞くことができたんです! ものすごく論理的でクレバーな方で、「この頭脳からあの名作が生まれたのか!」と感動しました。

40代になったらよりリアルに感じることができるのかなと思うのは、「初恋の世界」(西炯子)です。「わたしたちは無痛恋愛がしたい」(瀧波ユカリ)も、毎回セリフがキレッキレで最高です。「アラサーちゃん」の峰なゆかさんが妊娠から出産、育児をめぐるご自身の経験を描いた「わが子ちゃん」は、全人類が読むべき本です。出産する人も、周りの人も全員に読んでほしいです。

――次世代の漫画家にどんなことを期待しますか。

もちろん漫画家が描きたいもの、描くべきと感じたものを描いていただきたいですが、個人的にはやはり「こういう切り口があったんだ!」と発見できるものを読みたいです。「チ。」の魚豊さんが「創作はたいてい、同じことの焼き増しである。しかしそれをどう出力をするか、これまでにもあった同じこと、同じ感情をどう出力してみせるかだと思う」とおっしゃっていました。まさにそうだと感じました。

その出力の違いによって、よりビビッドに心に刺さったり、「これは私の話だ!」と思えたりする。その人ならではの、世界の見え方を見せてくれる新しい才能に出会うことで、私たち読み手は新しい価値観を知り、新しい感情を知り、新しい世界の見えかたを知っていけるのだと思います。

――宇垣さんにとって、マンガとは何ですか。

30代女性に刺さる女性マンガ家とは 無類のマンガ好き・宇垣美里さんに聞く手塚治虫文化賞受賞作

マンガを読んで、映画を観て、本を読んで、ドラマを見て、そのすき間で仕事をしています。ここ数年で電子書籍化される作品が増えて、完全にタガがはずれました。日付が変わった瞬間にスマホで新刊をチェックして、1日2、3冊は必ず読みます。新刊のほかにも「あ、『動物のお医者さん』読み返したい!」と買い直したりもします。すでに書籍で持っているんですけどね。

最近はマンガ評を書かせていただいたり、ラジオでマンガ家を取材させていただいたりする機会が増えてうれしいことです。私はただただ、自分が読んで「おもしろかった!」というマンガを人に薦めたいんです。人に薦めるにはそのおもしろさを言語化するのが一番伝わりやすい。自分に勇気をくれたり、救ってくれたり、考えさせられた作品に対して還元できることは、それしかありません。これからも大好きなマンガに少しでも恩返しをしていけたら、と思っています。

30代女性に刺さる女性マンガ家とは 無類のマンガ好き・宇垣美里さんに聞く手塚治虫文化賞受賞作
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PROFILE
宇垣美里

1991年4月、兵庫県出身。同志社大学卒業。2014年にTBSに入社し、アナウンサーとして数々の番組に出演した。2019年に退社し、オスカープロモーションに所属。現在はフリーアナウンサーとしてテレビやラジオに出演し、女優業や雑誌への執筆活動にも活躍の幅を広げている。趣味はアニメ鑑賞、音楽、映画、舞台、読書など。週刊プレイボーイ(集英社)に「宇垣美里の人生はロックだ!!」、週刊文春(文藝春秋)に「宇垣総裁のマンガ党宣言!」(隔週)を連載中。8月5日にスタートする日本テレビの恋愛バラエティー「この恋イタすぎました」にレギュラー出演が決定している。

手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)は、マンガ文化の発展、向上に大きな役割を果たした手塚治虫の業績を記念する賞。第26回マンガ大賞は魚豊さんの「チ。―地球の運動について―」(小学館)、新生賞は谷口菜津子さんの「教室の片隅で青春がはじまる」(KADOKAWA)「今夜すきやきだよ」(新潮社)、短編賞はオカヤイヅミさんの「いいとしを」(KADOKAWA)「白木蓮はきれいに散らない」(小学館)が受賞しました。贈呈式での魚豊さんの受賞コメントはこちら

■手塚治虫文化賞記念プレゼントキャンペーン
朝日新聞社は、第26回手塚治虫文化賞を記念して、受賞者3人による描きおろし記念イラスト(複製画)を抽選で各5名様、計15名様にプレゼントします。また、マンガ大賞受賞作「チ。―地球の運動について―」(魚豊著/小学館 全8巻)を抽選で1名様にプレゼントします。
応募はこちらから。7月10日締め切り。

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