小山薫堂が撮る風景
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「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

どこへ行くにもライカのカメラを持っていくという、放送作家の小山薫堂さん。スマートフォンでも写真は撮れるこの時代に、あえてカメラで撮る理由とは。どうしてカメラが好きなのか、カメラを構えたくなるのはどんな瞬間か、話を聞いた。

カメラに収めた思い出で、今の自分を肯定できる

――初めてカメラを手にしたのは、いつ頃のことですか? 

小学生の頃です。スーパーカーを撮りたくて、祖父の一眼レフを借りたのがきっかけでした。当時はスーパーカーブームで、僕もすっかり夢中になっていたのですが、東京ならまだしも、街中を走るフェラーリなんて地元・熊本ではまず見られない。ところが、熊本でスーパーカーショーをやる、ランボルギーニ・カウンタックも展示されると聞いて、これは撮りに行かなければと思ったんです。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

――スーパーカーショーをきっかけにカメラに目覚めた、ということでしょうか。

……とはならなくて、スーパーカーを撮ったらそれで満足してしまって、それからしばらくカメラには触りませんでした。再び手にとったのは、高校生になってからです。

全寮制の男子校で過ごす毎日が本当に楽しくて、友達をたくさん撮りました。モノではなく、人物を撮るおもしろさに目覚めたのはこの頃です。寮を出るときには一人ずつみんなの写真を撮って、個別にコメントまで書いてもらってね。自分だけの卒業アルバムを作りました。

3冊のアルバムに50人くらい収まっていますが、今でもときどき見返します。なんとなく寂しさを感じたときや、自分はこのままで大丈夫なのか不安になったときに見ると、過去にこういう時間があってここまでたどり着いたんだと再認識して、今の自分を肯定できるんですよ。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

「人は知らず知らずのうちに最良の人生を選択しながら生きている」

これは親父が教えてくれた言葉で、僕の座右の銘でもあるのですが、本当にその通りだなぁと思います。だから、もし今の状況が悪かったとしても、この先の最良にいくために必要な時間なんだと考えるようにしています。写真は、自分の人生を振り返ったり、先を考えたりする良いきっかけになります。

自分も相手も幸せになれるのが、いい写真

――小山さんはどんなときに写真を撮りたくなりますか?

この一瞬は記憶にとどめておきたいと思ったときや、単純に、ここで撮ったらかっこいい写真になりそうだなと感じたときです。海外で何げなく入ったお店のウェーターさんとか、カフェに偶然居合わせたお客さんの雰囲気が素敵で、声をかけて撮らせてもらったこともあります。

――今回訪れた岡山県・真備町でも、食堂で働いている女性たちを撮っている姿をお見かけしました。初対面の方の自然な表情をとらえるのは難しいのではないかと思うのですが、小山さんは雰囲気作りがとても上手ですよね。

無理に笑ってもらう必要はないんですけど、その方の自然な表情を撮りたいので、相手と仲良くなってからシャッターを切るようにしています。これは僕が尊敬する写真家、ハービー・山口さんの影響です。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

いきなりカメラを向けるのではなく、コミュニケーションをとってから撮影するハービーさんの被災地でのエピソードは前回もお話ししましたが、やはり、被写体に寄り添う姿勢はとても大切ですよね。

それから、いい写真が撮れたときに心の底から喜ぶのも、実はすごく大切なこと。「こんなにいい写真が撮れたよ!」と、撮った写真をうれしそうに見せるハービーさんの姿に、被災して気落ちしていたおばあさんも思わず笑顔になったのを見て、「人は、誰かを助けたり幸せにしたりすると、自分も幸せな気持ちになれるものなんだなぁ」と感じました。

自分が撮りたいから撮る、というのはもちろんそうなんですけど、自分も相手も幸せになれるのがいい写真なんだろうと思います。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

カメラだからこそ築けた人との関係

――小山さんは真備町の美しい景色にもレンズを向けていました。人物と景色では、どちらを撮るのが好きですか?

どちらかというと人物の方が好きですが、僕の場合、人物と景色とでは撮る目的が違うんです。人物は、後日その方に写真をプレゼントすることを前提に、景色はオフィスや自分の部屋に飾る前提で撮っています。プレゼントするときは額装してお渡ししているのですが、これはとても喜ばれます。写真って、なかなかプレゼントされる機会がないものですから。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム
撮影:小山薫堂

中でも思い出深いのは、京都のお花見会で撮った一枚です。年に一度、京都で開かれているお花見会に伺ったら、素敵なご夫婦がいたので写真を撮らせていただいたことがあったんです。一年後、もしかしたらまたお会いできるんじゃないかと思って額装した写真を持っていったら、とても喜んでくださって、お付き合いが始まりました。

お互いに“よっちゃん”“くんちゃん”と呼び合って、京都のいろんな場所へ出かけました。実はこの方、オムロン元社長の立石義雄さんだったんですよ。出会った頃はまさかそんなに偉い方だなんて知らなかったのですが、のちに僕が京都の老舗料亭・下鴨茶寮の経営を引き継ぐことになったときも、力になってくださいました。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

――カメラがあったからこそ結ばれたご縁や、築けた人間関係もあったんですね。

そうですね。昔よく通っていた現像所のおじさんとのやりとりも、印象に残っています。今のようにデジカメがなかった時代は、撮ったフィルムは必ず現像に出すものでしたが、そのおじさんはフィルムを持っていっても全部は焼いてくれないんです。

フィルムの内容を一枚のシートにずらっと並べてプリントしたものを“ベタ焼き”と呼ぶんですけど、おじさんから最初に渡されるのはいつもこの“ベタ焼き”。しかも、おじさんがいいと思った写真にだけ丸がついていて、「これだったら焼いてやってもいいよ」なんて言うんですよ。僕がお客さんなのに。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム
撮影:小山薫堂

自分がいいと思っても丸がついてなかったり、反対に、「なんでこれに丸がつくんだろう?」なんてこともあったり。現像に出すたび通信簿をもらっているような感覚でした。「やった! 今回は五つも丸がついてる!」と喜んだことも、今では懐かしい思い出です。同じ写真でも見る人によって感じ方が違うのも、写真を撮るおもしろさの一つですよね。

カメラは“タイムカプセル” 撮ったその瞬間の五感まで閉じ込める

――フィルムカメラとデジタルカメラ。小山さんの好みは。

フィルムが好きです。今回持ってきたカメラはデジタルですが、これ、デジタルなのに背面に液晶モニターがないから、撮ったものをその場ですぐに確認できないんですよ。昔のフィルムカメラのような感覚で撮れるので、とても気に入っています。どんな風に撮れただろうってあとで見るワクワク感があるのがすごくいいです。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

カメラは旅には欠かせない相棒で、どこにでも持っていきます。ペットとは言いませんが、なんか、かわいいんですよね。小さな子どもにとってのぬいぐるみのようなもので、カメラが手元にあると落ち着きます。

――スマートフォンにも写真を撮る機能はついていますが、カメラで撮る写真とはやはり違うものなのでしょうか。

スマホは何でもバシバシ簡単に撮れるぶん、記録にはなるけど、記憶の補足にしかならない感じがします。自分としては思い出のつもりで撮っていても、「とりあえず撮っておくか」、「もったいないから撮っておくか」で撮った写真は、自分の記録とか軌跡を残しているだけのような気持ちになってしまうというか……。

「カメラは五感も記録する」小山薫堂さんが不安な日に開く自作の卒業アルバム

一方で、カメラで撮った写真はあとで見返したときに「あ、このときすごく心地よい風が吹いていたな」とか、撮った瞬間の五感の記憶まで巻き戻してくれる。僕は、自分の目と脳が一緒になったものがカメラだと思っているから、やっぱりちゃんとしたカメラで撮ることに価値を感じます。

カメラはビジュアル的な記憶を残すためのものではありますが、その瞬間のさまざまな感覚や思いも同時に記録・記憶してくれる装置です。そういう意味では、僕にとってカメラはタイムカプセルのようなものでもありますね。

(文・渡部麻衣子 写真・山田秀隆)

小山薫堂さん
PROFILE
小山薫堂

こやま・くんどう/1964年熊本県生まれ。大学在学中から放送作家として活動を始め「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」など数多くの番組を企画。初の映画脚本『おくりびと』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、 米アカデミー賞外国語映画賞を受賞。くまモンの生みの親としても知られる。

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