未来をつくる子供たちへ アウトドアウェアメーカーが初の絵本で伝えたいこと

『しんぴんよりもずっといい』
子供が生まれて、一緒に絵本を読むようになってから、絵本の力を身に染みて感じるようになりました。絵本に出てきた気に入った言葉を繰り返し発しているかと思えば、いつしか自分の言葉として獲得し語彙(ごい)を増やしている息子。ときには登場人物の真似(まね)をして行動したり、絵本を通して物事への興味や理解を深めたりしている姿を見ていると、素敵(すてき)な絵本との出会いを、これからも楽しんでもらいたいと思わずにはいられません。
同じような思いを抱かれる親御さんに、海遊びの機会が増えてくるこの季節、ぜひおすすめしたいのが、アウトドアウェアメーカー、パタゴニアから初めて出版された絵本『しんぴんよりもずっといい』です。未来をつくる子供たちに向けて、海洋汚染をテーマに、世界をより良い場所にするために、自分たちができることを見つけることの大切さを示唆してくれる1冊です。

南米・チリの小さな漁村に住む、イシドラとフリアン。2人が海で遊んでいると、「たすけてー!」という大きな泣き声が聞こえて……。漁網に絡まったアシカを助けてあげた2人は、海にたくさんの漁網が捨てられていることを知り、悲しくなってしまいます。この網を何か新しいものに変えられないかしら……。ページをめくるのが楽しい、カラフルで独特なイラストと共にお話が進んでいきます。
「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションを掲げているパタゴニア。2014年から、カリフォルニアを拠点とするブレオ社が、漁網を100%リサイクルしてつくる糸「ネットプラス」を開発するのを支援し、実際に、帽子のつばに採用してきました。今春夏シーズンは、ウェアへの採用にも成功し、代表アイテムのバギーズ・ショーツがネットプラス100%でつくられるようになったのをはじめ、計358トンの漁網をウエアに変えたと言います。ブレオ社がチリなどの南米沿岸で廃棄された漁網を回収・加工していることに着想を得た絵本となっています。
パタゴニアがYouTubeで公開している『The Monster In Our Closet クローゼットの中の怪物』というフィルムを見ました。「衣類の70%がプラスチックである」こと、また、「アパレル産業は地球上で最も規制が緩く、最も汚染度の高い産業のひとつである」ことが紹介されており、目を見張りました。そんなアパレル産業のなかにあって、地球環境に常に危機感を抱きながら、自社の事業に責任を持ち環境負荷の低いモノづくりを真摯(しんし)に追求しているパタゴニアそのものが、イシドラとフリアンの姿に重なります。
「しんぴんよりもずっといい」というタイトルは、長持ちする高品質な商品を作り、ときには修繕することでさらに長く愛着を持って楽しんでもらうことを目指すパタゴニアの「Worn Wear」プロジェクトで使われてきたキーワードでもあります。「人生をシンプルに……買い物をより減らして、高品質のもの、長持ちするもの、多用途に使えるものを少しだけ所有する」ことを提案する同社の創業者、イヴォン・シュイナードさんの理念が貫かれているように思いました。
本書を一緒に読んだ頃、保育園でもちょうどリサイクルについて学ぶ機会があった息子は、「リサイクル」という概念をすっかり理解し、食品の包装に書かれているリサイクルマークを日々、チェックするようになりました。彼らが社会の主役に躍り出る頃、明るい未来が待ってくれているよう、私自身も今、できることを一つずつしていかなければ……! 親子で環境への意識を高めてもらった1冊です。

わかすぎ・まりな
湘南 蔦屋書店で雑誌、ファッションを担当するほか、湘南T-SITEの広報、イベント販促も務める。ファッション業界新聞社で編集、展示会事業を担当した後、湘南T-SITEの立ち上げに参加。
現在、住む鎌倉は、自分にとっての“パワースポット”。