宇賀なつみ わたしには旅をさせよ
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みなべの梅に呼び覚まされて 宇賀なつみがつづる旅(34)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。今回は梅の収穫をしに和歌山県みなべ町へ。手を伸ばした瞬間、ある記憶がよみがえったというのですが……。

「夏のはじまり みなべ」

3年ぶりに、自由に動き回れる夏がやってきた。

誕生月でもある6月は、ジメジメ雨が降り続くこともあるけれど、
一年で一番昼が長くて、得したような気分になるから好きだ。

そんな6月、ラジオ番組で共演している方から、
「和歌山で、梅の収穫のボランティアをする」という話を聞いて、
私も参加させてもらうことになった。

よく晴れた土曜日。
大阪での生放送を終えて、特急くろしおに揺られること2時間。

車内にアナウンスが流れると、右手に太平洋が見えてくる。
大人も子供も、席を立って右側の窓へカメラを向けた。

和歌山県みなべ町。
梅の生産量は日本一で、代表品種として知られる南高梅発祥の地として知られている。

6月は収穫のピークで、農家の人たちだけでは手が足りず、
アルバイトやボランティアスタッフを募っているそうだ。

虫に刺されないように、長袖長ズボン。
帽子とタオルと長靴も必須だと聞いたので、全てそろえてきた。

畑に到着すると、すでに何人か作業していた。
皆都心から来たボランティアだという。

年齢も性別もバラバラ。
慣れた手つきで黙々と作業しているので、
農家の人だと言われても、信じてしまいそうだ。

急な斜面での収穫作業。
滑って転ばないように、注意をしなければいけない。

日当たりの関係で、あえて斜面を選んでいるのかと思ったら、
この辺りには平らな広い土地がないので、
傾斜のある土地でも育てられる梅を選んだそうだ。

まだ青い梅がたくさん実っていた。
どれをとってもいいわけではなくて、
2L、3Lと呼ばれる、ピンポン球サイズ以上のものを探さないといけない。

肩から梅かごをかけて木に登り、思いっきり手を伸ばす。
梅の先には、青い空が見えた。

この景色、知っている。

生まれてから中学生の頃まで暮らしていた家には、
玄関の前に、梅の木が1本生えていて、
毎年6月になると、よく晴れた日を選んで、家族で梅を収穫した。

母に心配されながら、慎重に木に登って、
枝の先の高いところまで手を伸ばした感覚を、
この時、急に思い出したのだ。

左手には、ザラザラした梅の木の感触。
右手には、ツルツルした青い梅の感触。

みなべの梅に呼び覚まされて 宇賀なつみがつづる旅(34)

たった数時間で、汗だくになった。
デスクワークとは違う、心地よい疲労感で、
体も心もスッキリしていた。

朝から一日中作業していたという人も、
3日間連続で通っているという人もいた。

仕事や旅行のついでに、
それぞれが好きなペースで、無理なくできるのが一番良い。

たった数日、数時間でも、
体験することで、気づくことがある。

もしかしたら、自然を相手に仕事をする方が、
好きなのかもしれないと、
実際に農家に転向した人もいるそうだ。

もちろんそこまでいかなくても、
遊び感覚で、少しでも役に立つなら十分。
もっとたくさんの人に経験してもらいたい。

最後に、お世話になった農家で作られた梅干しをいただいた。
酸っぱくて疲れが吹き飛ぶ。

普段冷蔵庫に入っている梅干しの一粒、一粒は、
こうして収穫され、加工され、届けられているのだ。

すべてのものは、誰かの仕事によってできている。

夕食に向かうタクシーの中で、
太平洋に沈む夕日を見た。

みなべの梅に呼び覚まされて 宇賀なつみがつづる旅(34)

社会人になって、14年目の夏。
これまでずっと、全国各地へ取材に行って、
たくさんの人に会って、話を聞いてきたことを思い出した。

知らない場所で知らない人に会い、
知らなかったことを知って、それを伝える……
私は、そんな仕事が好きだ。              

誰の役に立つのかはわからないけど、
ずっとこんなことをして生きていきたいと、改めて思った。

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