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磯村勇斗さん「もっと攻めて、深めたい」 初主演映画「ビリーバーズ」で新境地

過激な内容ゆえ映画化は実現不可能――。そう言われていた漫画「ビリーバーズ」が映画化された。1980年代から90年代にかけて社会問題として顕在化したカルト的な団体をモチーフに、人間の欲望をあぶり出した問題作だ。ドラマや映画に引っ張りだこの俳優・磯村勇斗さんが映画初主演を務めた。

無人島で共同生活する3人の男女。「ニコニコ人生センター」という宗教的な団体に所属する彼らは、互いをオペレーター(磯村勇斗)、副議長(北村優衣)、議長(宇野祥平)と呼び合い、日々瞑想(めいそう)や夢の報告、テレパシーの実験といった「孤島のプログラム」を実行していた。そんなある日、航路を見失ったという外部の男たちが島に助けを求めにやってくる。それをきっかけに、3人が抑え込んでいた欲望がむき出しになっていく……。

映画出演の始まりは、オペレーター役と議長役、どちらの役に興味がある? そう聞かれたことだった。原作と脚本を読んだ磯村さんの興味を引いたのは、狂信的な部分を持ち合わせながらも元々は繊細な若者であるオペレーター役。「登場人物の魅力やテーマ性にも引かれた」と話す。

磯村勇斗さん「もっと攻めて、深めたい」 初主演映画「ビリーバーズ」で新境地

「これ、僕らと同じなんじゃないか」

「カルト作品と言われますが、『これ、僕らと同じなんじゃないか』という何か自分に近いものを感じたところがあったんです。見てくださる方々に何か届けられるものがあるのではないか、という好奇心で出演したいと思いました」

3人が生活するのはコンテナハウス。撮影寸前に完成したそのコンテナハウスに実際に1泊したことが、役作りに役に立った。

「撮影時期がちょうど梅雨の頃で、虫が多くて、雨もすごかった。建物の雨漏りもひどくて、タライで受けたり雨水を1人で拭ったり。雨音もうるさくて、工夫しながら眠るようにするなど、すごくいい経験ができました。そういった実際の体験を通して、オペレーター役にスッと入ることができました」

磯村勇斗さん「もっと攻めて、深めたい」 初主演映画「ビリーバーズ」で新境地

スピード感ある撮影で人の欲描く

作者の山本直樹さんは自身を「エロ漫画がホーム」と言ってはばからない。「ビリーバーズ」もその言葉通り様々なぬれ場があり、多くのピンク映画でも実績を積んできた城定(じょうじょう)秀夫さんが脚本・監督を務める。磯村さんにとって、「ここまで過激なシーンは今回が初めて」だが、問題なく撮影は進んだ。

「事前に監督とプロデューサーを含めて、どういうふうに撮影を進めていくのか、(俳優への)ケアをどうするかなどを話し合いました。人の欲を描いた映画であり、人間的な部分で大事なシーンになってくるので、そこは僕も(相手役の)北村さんも監督も同意した上で、みんなが納得して安心できる環境で撮影を進められるように準備をしました。監督からシーン一つひとつの流れを聞いた上で撮影していったんですが、テストはなし。スピード感と的確な撮影で安心感がありましたし、面白くなっていったんですよ。やはり城定監督でないとできなかったと思います。こうしたシーンも含めて僕は楽しかったですね」

ラブシーンは「どこかアクションシーンのようなものだと思う」と磯村さん。決められた動きの中でどう感情を出していくか。ご飯を食べるシーンとさほど変わらないらしい。

撮影にあたっては、その人間の三大欲の一つ、食欲を出演者みんなでセーブした。無人島ゆえ食糧供給は外からの配給が頼りだが、やがてそれが途絶えがちになっていく。そんな映画の内容にシンクロさせた。

「撮影中はロケ弁当が出されていましたが、おかずをちょっと食べて終わり。撮影していた1週間くらい、3人で『食べちゃだめだよー』って言い合いながら頑張りました。徐々に体は慣れてはいくのですが、食べられないのはつらい。僕らは作品のためというのもあったから頑張れましたが、欲を抑えると、それなりの負荷もかかります。駄目と言われたり、抑えなければという思いが大きかったりするほど、反発する力も大きくなるのだと想像できました。映画の中で人間関係に亀裂が走っていくのも、気持ちはわかります。このまま食べられなかったら多分耐えられない、と思いましたから」

磯村勇斗さん「もっと攻めて、深めたい」 初主演映画「ビリーバーズ」で新境地
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映画の3人は社会の縮図

ところで、3人が所属するニコニコ人生センターは日本社会を震撼(しんかん)させた宗教団体を思わせる。映画を見ていると、今も変わらぬ現代的なテーマを感じる人は少なくないはずだ。

「今のご時世、ウクライナで戦争が起きていることも含めて、映画に出てくる3人という“絵”が、社会の縮図のような気がするんです。共存して調和を保ちながら生きようとしていた3人のうち1人が、ある欲望によっておかしくなってしまう。今の世界と同じで、誰かが権力を持ちたがったり、お金を欲しがったり、そういう考えに支配されていくと、それまで築いてきた均衡は崩れてしまいます。間接的ですけど、この映画はそういう『今』を感じられる作品になっていると思うんです。何か自分自身のことを考えるきっかけにもなるような気がしています。堅苦しい映画ではないので、楽しく構えずに見てもらえたらいいなと思います」

昨年は17本もの作品に出演した磯村さん。今年も映画だけで8月までに6作品が公開されるほどの忙しさだ。

「オファーをいただいて、スケジュールにハマらないけど、どうしてもこの脚本が面白いからやりたいという『欲』はあります。とはいえどうしても先に依頼が来た作品をしっかりやることがルールだと思っているので、そこはスケジュールと心のせめぎ合い。(出演作は)運もありますよね」

「僕は『ビリーバーズ』に出演したからこそ、もっと“攻め”の作品にトライしたいと思いました。もっと奇妙な作品だったり、観る人がちょっと気持ち悪いと思うような作品であったり。一層偏った作品に挑戦してもいいかなと(笑)。この映画のような世界観が好きなのでたまにトライしながら、自分の違う角度も深めていきたいなと思っています」

磯村勇斗さん「もっと攻めて、深めたい」 初主演映画「ビリーバーズ」で新境地

日常に落ちているものすべてからインプット

アウトプットが多い彼にとって、最後にインプットについて聞いてみた。すると、「もう全部です」と即答した。

「役者にとって、日常に落ちているものすべてですね。24時間365日、インプット。こうやって取材を受けている中でも感じているものや、この会話が面白いなと思ったら頭に入れておきます。反応の仕方も人それぞれ違うので、それをまねてみようとか。拾えばたくさんあるんですよ」

そんな磯村さんにとって今一番の欲は「本能的に何かを思うままに人生を送りたい」という「自由欲」だと言う。だが、やはり役者。「24時間365日インプット」なんていう答えは「役者欲」が旺盛でないと出てこないはずだ。

磯村勇斗さん「もっと攻めて、深めたい」 初主演映画「ビリーバーズ」で新境地

ヘアメイク:佐藤友勝
スタイリスト:齋藤良介

PROFILE
磯村勇斗

いそむら・はやと 1992年9月11日生まれ、静岡県出身。2015年、NHK連続テレビ小説「まれ」に出演。「仮面ライダーゴースト」では仮面ライダーネクロム/アラン役を務め、レギュラー出演。17年のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロインの結婚相手となるヒデを演じ脚光を浴びる。21年は大河ドラマ「青天を衝け」、ドラマ「珈琲いかがでしょう」「サ道2021」「演じ屋」「キン肉マン THE LOST LEGEND」のほか、映画「東京リベンジャーズ」など多くの作品に出演。第45回日本アカデミー賞では「ヤクザと家族 The Family」と「劇場版 きのう何食べた?」の2作で新人俳優賞を受賞。今年も映画は本作に続き、「異動辞令は音楽隊!」が8月26日、「さかなのこ」が9月1日に公開予定。

映画「ビリーバーズ」
磯村勇斗さん「もっと攻めて、深めたい」 初主演映画「ビリーバーズ」で新境地
© 山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

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