ニッポン銭湯風土記
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トキ舞う豊穣の島・佐渡の湯訪ねて3泊4日

両津の夷(えびす)地区に残る「星乃湯」=新潟県佐渡市

旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。

【動画】信濃川河口から日本海へ。茶色い川の水が、スクリューに巻き上げられる青い海水と混じり合う

「おけさ丸」で日本海を渡ること2時間半

はじめて佐渡(新潟県)へ行った。佐渡はどこかのついでに寄れるような方角にはない。そこで私は自宅からきっぱりと佐渡を目指して出発し、新潟港から佐渡汽船のフェリー「おけさ丸」に乗り込んだ。2時間半の船旅だ。

佐渡島は、平行に並ぶ「大佐渡」「小佐渡」という二つの山脈と、それをニカワのようにつなぐ国中平野によって成り立っている。おけさ丸はまず小佐渡の山を回り、黒い雲をまといながら脈々と連なる大佐渡へぐんぐん近づいて、やがて国中平野の端の両津港(佐渡市)に入った。

砂州に乗った二つの港町からなる「両津」

小雨がパラつく天気のせいか肌寒かった。フェリー港の背後に加茂湖という湖がある。海と加茂湖は表と裏のように寄り添っていて、その両者を隔てる細長い砂州の上に両津の街が乗っている。砂州の真ん中には狭い切れ目があり、そこを境に両津の街は二つに分かれる。北側が「夷(えびす)」、南側が「湊(みなと)」。その二つの港があることから両津の名がついた。

砂州の切れ目。この水路で加茂湖と海は結ばれている。満潮時にはここから潮が上がるため加茂湖は汽水湖だ
砂州の切れ目。この水路で加茂湖と海は結ばれている。満潮時にはここから潮が上がるため加茂湖は汽水湖だ

フェリーは湊のほうに着くが、かつては夷に着いたらしい。中心商業地や飲食店街があるのは現在も夷のほうだ。その夷に1軒だけ、星乃湯という昔ながらの銭湯が残っている。宿に荷物を置くともう夕方だったので、晩飯前にさっそくタオルとせっけんを持って行ってみた。でも道行く人影はごくまばら。建物の隙間からチラチラ見える加茂湖の暗い水面もどこかもの悲しい。

【動画】加茂湖の夕景

「更科」というそば屋と「星乃湯」の看板に灯がともっていた。ただし「星乃湯」にのれんは出ておらず、古い木造町家のガラス戸の奥に「男」「女」の閉じられた引き戸が見える。

古い街並みにたたずむ「更科」と「星乃湯」
古い街並みにたたずむ「更科」と「星乃湯」

古い港町にたたずむ小さな古湯

靴を脱ぎ、戸を開けて中に入ると、すぐ右手にかなり大きめの木製番台がある。年季が入って黒光りする重々しい番台だが、そこには誰もいなかった。地方の小銭湯にはままあることだ。そういう場合は番台に小銭を置いて勝手に入ればOK。そんな共通ルールが定められているわけではないが、全国どこでもそれでまず問題ない。

脱衣場に上がり、かごを一つ取って服を脱ぐ。平均的な銭湯よりも天井が低く、昔の日本人サイズを思わせるような小空間だ。

脱衣場に上がって振り返る
脱衣場に上がって振り返る

浴室もまたコンパクトだが、そこには誰もいない代わりに、濃厚な熱気と水蒸気が充満していた。小さな湯船がいちばん奥に一つ。湯気にかすむその奥壁には迫力のある滝のモザイクタイル画が描かれている。その滝は幅が広く、水量が豊富だ。近寄ると、絵の右側にやはりモザイクタイルで「南米イグアスの滝」と大きな文字が形成されていた。めったに見ないパターンだ。

年季の入った番台(左)と、湯気に包まれた浴室
年季の入った番台(左)と、湯気に包まれた浴室

一つしかない湯船は小ぶりなうえにさほどの深さもなかったが、湯はびしっと熱かった。44度くらいはあるだろう。ゆっくりと体を慣らしながら首まで湯に沈める。長年にわたって地元の人々がこの熱い湯で毎日の疲れを癒やしてきたことが、はじめて佐渡の土を踏んだばかりの私にもひしひしと感じられる。そんな使い込まれ方の湯船だ。はじめ客は私1人だったが、途中で高齢の客が1人、次に30代くらいの客が1人、入ってきた。2人とも黙々と体を洗い、交互に湯につかる。いつも通りの光景なのだろう。

上がると番台におかみさんがいた。帰り際、「3日ほど佐渡にいますのでまた来ます」とあいさつして外へ出た。

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