あの街の素顔
連載をフォローする

ホップの街、岩手・遠野 昔話の里で育つビールの物語

今年もビールのおいしい季節がやって来た。ビールといえば、ラベルや広告でよく目にする「ホップ」。ホップとは一体何なのか、いつも気になっていた。そして、日本でもホップが栽培されていることは意外と知られていない。生産量トップは岩手県。県内でも屈指の生産地が、民話の里として知られている遠野市だ。初夏の遠野に足を延ばしてみた。

爽やかな苦みを届ける、ホップの「毬花」

ロブ・デサール、イアン・タッターソル共著『ビールの自然誌』によると、ホップとはセイヨウカラハナソウというアサ科のつる植物の毬果(毬花〈まりばな〉とも)で、原産は南コーカサス周辺。ビールは今から少なくとも5000年以上前からコーカサスの南に位置するメソポタミアで造リ始められたと推測されているが、ホップがビール造りに使われた最初の記録はそのずっと後の8世紀のドイツで、僧院のホップ園に関する記述だ(橋本直樹著『ビール・イノベーション』)。それまでは、ビールの香り付けとして様々なスパイスやハーブが使われていた。

ホップの正体は、セイヨウカラハナソウの毬花。この花の中にあるルプリンという粒状の樹脂に、ビールにとって大事な成分が含まれている=仁科勝介撮影、Brew Good提供
ホップの正体は、セイヨウカラハナソウの毬花。この花の中にあるルプリンという粒状の樹脂に、ビールにとって大事な成分が含まれている=仁科勝介撮影、Brew Good提供

その後、15世紀ごろにはヨーロッパ各地でホップの使用が広まったが、そこまで普及した理由はなんだったのだろう? ホップの役割は大きく三つあるとされる。まず、ビールにホップの爽やかな苦味をつけること。次に、ホップの殺菌作用でビールが腐るのを防ぐこと。英国からインドへ輸出するビールに防腐用のホップを多く入れていたのが、近年人気が高まっているIPA(インディア・ペール・エール)の始まりである。そして最後に、ビールの泡立ちをよくすること。泡がふたをすることで炭酸ガスが逃げにくくなり、爽快な飲み口を長く楽しむことができるようになるのだ。

よく見てみると、さまざまなブランドのビールに「ホップ」の字やデザインが使われていることがわかる
よく見てみると、さまざまなブランドのビールに「ホップ」の字やデザインが使われていることがわかる

遠野の原風景に溶け込むホップ畑

遠野といえば、『遠野物語』や昔話の語り部、伝統的家屋の曲屋(曲り家〈まがりや〉)などが有名だが、冷涼な気候が生育に適していることから、キリンが1963年からホップの契約栽培を開始し、近年ではホップやビールを目当てに訪れる人も増えているそうだ。

遠野でホップ栽培が始まったころの作業風景=Brew Good提供
遠野でホップ栽培が始まったころの作業風景=Brew Good提供

ぐるりとなだらかな山に囲まれた遠野は、日差しが強く、7月上旬の汗ばむ陽気だった。そんな中、花がつき始めたホップ畑は青々として、なんとも爽やかだ。

緑のカーテンのようなホップ棚を含む、遠野ならではの風景を楽しむならサイクリングをお勧めしたい。自転車は駅前の観光協会でレンタルでき、町の周りをぐるりと一周する自転車ルートも整備されている。

暑いので日陰でこまめに休憩を取りながら、ゆっくりと進む
暑いので日陰でこまめに休憩を取りながら、ゆっくりと進む

早瀬川や猿ケ石川をはじめ、複数の川が流れる遠野は、どこを切り取っても自然豊かで絵になる。こちらのサイクリングコース通りに巡れば、高低差がさほどないため、電動機のない自転車で十分だった。ただし、2時間近くかかるので気温が上がる夏場は電動機付きの方がよいかもしれない。

コース沿いには昔の遠野の生活を体験できる伝承園カッパ淵があるので、初めて遠野を訪れる方にはこちらもおすすめだ。

(左)カッパ淵脇のホップ畑。遠野のホップに関する情報が掲示されている(右)ホップの毛花に囲まれて、ひとつだけ毬花に成長していた
(左)カッパ淵脇のホップ畑。遠野のホップに関する情報が掲示されている(右)ホップの毛花に囲まれて、ひとつだけ毬花に成長していた

カッパ淵の側には小さなホップ畑がある。その道路脇に植えられているホップにはちょうど毛花と呼ばれる若い花が出てきたところで、これが成長した毬花がホップの正体だ。まだ小さいが、収穫期の8月下旬には親指大になるそうだ。

さらに先に進むと、大きなホップ畑を見渡すスポットに出る。晴れ渡る青い空に、木々の濃い緑や周りの田んぼとホップ畑の明るい緑が映える。この付近には酪農を営む家や、かつて養蚕業を営んでいた家が点在し、一面の緑に華やかな色を添えている。

遠野の風景に溶け込むホップの畑。ホップ棚のひもは垂直に張っているが、ホップの重さでVの字にたわんでしまう
遠野の風景に溶け込むホップの畑。ホップ棚のひもは垂直に張っているが、ホップの重さでVの字にたわんでしまう

ビールの友、遠野流ジンギスカン

サイクリング後には、遠野名物のジンギスカンで活力を補うのもお勧めだ。コース周辺には飲食店が点在し、味付けをせずに、焼いてから秘伝のタレで食べる遠野流のジンギスカンは、まさに元気の出る味である。熱々のジンギスカンに、キリッと冷えた遠野産の「遠野麦酒 ZUMONA(ズモナ)」をグイッと一杯やるのも最高だ。

遠野ジンギスカン発祥の店「あんべ」。地元の人たちと肉を焼く煙に囲まれながら、柔らかく、ボリューム満点のラム肉を楽しむことができる
遠野ジンギスカン発祥の店「あんべ」。地元の人たちと肉を焼く煙に囲まれながら、柔らかく、ボリューム満点のラム肉を楽しむことができる

ホップ農家をめぐるガイド付きツアー

せっかく遠野まで来たのなら、ホップについてもっと詳しく知りたい方もいるだろう。そこでお勧めしたいのは、実際に畑に入って農家の方に話を聞くことができるガイド付きのサイクリングやハイキングのツアーだ。

今回畑を見せてもらったホップ農家の里見一彦さんは、2018年に地域おこし協力隊として遠野に移住してホップ栽培に携わり、去年から独立したばかり。「ホップが日本で栽培されていることを知ってびっくりした。珍しいのでやってみようと思ってすぐに移住して来た」と教えてくれた。

ホップ農家の里見一彦さん(左)とホップ畑を案内してくれたホップ栽培コーディネーターの神山拓郎さん(右)
ホップ農家の里見一彦さん(左)とホップ畑を案内してくれたホップ栽培コーディネーターの神山拓郎さん(右)

ホップは手のかかる作物だ。春に芽が出ると、上に伸びるようひもをかけてつるを誘導する。地上5メートルほどの「ホップ棚」を上下しながら、ぐんぐんと成長するホップのつる下げや側枝(そくし)の剪定(せんてい)など、絶え間なく世話をしなければならない。1人で管理できるのは1ヘクタールほどだそうだ。

ホップの手入れをする里見さん。この日は竜巻注意情報が出ており、ホップのひもが切れてしまわないか心配そうに空を見つめていた
ホップの手入れをする里見さん。この日は竜巻注意情報が出ており、ホップのひもが切れてしまわないか心配そうに空を見つめていた

ホップと一口に言っても、実は様々な品種がある。遠野で育てられているのは、キリン2号とカイコガネ、そしてムラカミセブンの3品種だ。ムラカミセブンは栽培時の手間を減らし、収穫量を増やせるよう改良された品種で、栽培されているのは遠野だけである。

NEXT PAGE「博士」のジャズ喫茶と、クラフトビール飲み歩き

REACTION

LIKE
COMMENT
0
BOOKMARK

リアクションしてマイルをもらう

連載をフォローする

COMMENT

コメントを書いてマイル獲得! みんなのコメントを見る

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら