日本生まれの人気者、カツカレー「発祥」の店「銀座スイス」(東京・銀座)

インド、ネパール、スリランカと各国のカレーを食べ歩いていると、ふと食べたくなるのが日本の老舗カレー。刺激的なカレーとは別物だが、懐かしく心地よく感じるのは、DNAに刷り込まれているからなのか。
「銀座スイス」は1947(昭和22)年創業の老舗洋食屋だが、「カツカレー発祥の店」として知られている。2022年2月に旧本店から目と鼻の先の新店に移転して、倍の広さになった店内はさらに居心地がよくなった。暑い夏の日にエアコンの利いた空間で、ゆったりカレーを食べるという幸せが味わえる。

銀座スイスでカツカレーが誕生したのは1948年。常連だった巨人軍の千葉茂選手が自分の好物のカツとカレーの両方を一気に食べたいと思いついたのが、「カレーライスにカツレツを乗っけてくれ!」だ。あまりにもおいしそうに食べる千葉氏の姿に、その後、正式なメニューに昇格。銀座スイスの人気メニューになったことはもちろん、あっと言う間に全国に広がったのだそう。

揚げたてのカツレツの味を損なわないと評判なのは、仕込みに2週間をかけるというカレーソースだ。一見すると野菜や肉の姿は確認できないが、タマネギ、ニンジン、リンゴ、生姜(ショウガ)などが、それこそたっぷり入って、その旨味(うまみ)が溶け込んでいる。
肉には豚挽(ひ)き肉を使うが、野菜同様に、肉を味わうというよりは、カレーソースに旨味を加える役目だ。すべてがとろけひとつとなったカレーソースは甘さと奥底に秘めた辛さが調和して、なんともうまい。洋食屋の看板を伊達(だて)に背負っているわけもなく、カツのおいしさは言うまでもない。「千葉さん、ナイスプレーです!」と感謝しながら早々に完食した。

現在店を守るのは3代目の庄子あけみさん。幸いなことにこれまで商売は順調だったが、高級ブティックが並ぶ銀座という場所柄、苦労もあったという。どうしてもにおいや煙の出る飲食店は嫌われる。銀座スイスも何度もクレームを受けたそう。
そこで考えたのは、セントラルキッチンを別の場所に設けること。料理を7割程度まではそこで仕込み、ただ、お客様には作り立てを出したいので、残り3割は店で仕上げている。これには思わぬ効果もあり、カレーソースをまとめて作ることにより、例えば新タマネギと普通のタマネギといった食材の季節の違いによる味のバラツキなどもコントロールしやすいのだそうだ。
これこれ!と思う、いつもの味。時代の変化の中で味を守り続けられるのは、こういった作り手の努力があってこそ。銀座スイスに40年以上勤める庄子さんは、「ソースの寝かせ方が短いとか、とろみが薄いとか、カレーの状態は見ただけで分かります。多くのお客様に足を運んでもらえるのは嬉(うれ)しい限り。これからも満足いただけるよう目を光らせています」と笑う。
銀座スイス
東京都中央区銀座3-4-4 大倉別館2F
03-3563-3206
https://ginza-swiss.com/