(172) 街のイメージにぴったりの場所で 永瀬正敏が撮った香港
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回も香港で撮った一枚です。永瀬さんが自分の中で作り上げていた香港のイメージ通りの場所で、カメラを構えたところ……。

その国や場所にうかがう前に、
自分の中で勝手なイメージが構築されていたりするものだ。
以前イランへうかがった時の話も書いたが、
事前のイメージがあっけなく覆される国もあれば、逆にぴったり一致する国もあったりする。
僕の香港のイメージはほぼスクリーンで見た映画の世界の中で作られていた。
一連のクリストファー・ドイル撮影監督が切り取った、ウォン・カーウァイ監督の作品や、ジャッキー・チェンさんの作品、その他、数多くの香港映画から、勝手に僕はイメージを作っていた。
重慶大厦(Chungking Mansions)。
九龍・尖沙咀(チムサアチョイ)の彌敦道(ネイザンロード)に面して建つ複合ビル。
ウォン監督の「恋する惑星」の舞台になった場所でもある。
まさにこの場所が、僕のイメージしていた香港にぴったりの場所だった。
ビクトリア・ハーバーの100万ドルの夜景よりも、
何よりもこのある意味猥雑(わいざつ)な感じの匂いが漂うビルが。
多様な商業施設や宿泊施設、レストランなどが密集し共存しているこのビルには、
それこそさまざまな人種の方々が出入りし、行き交い、にぎわっていた。
日の当たる場所には鮮やかな色のポスター(?)が何重にも貼り重ねられ、
暗部には常夜灯(青緑色が強い蛍光灯)の光とネオン……。
この感じが何とも僕が思い描いていたイメージにぴったりだったのだ。
改めて自分は今香港の地に立っているんだな、と実感していた。
道を挟んだ向かい側から、カメラを構える僕に、
赤ちゃんを胸に抱えた男性と、スーツに身を包んだ男性が気付いた。
たった二人だけ。
その瞬間、物語が動き出すような気がした。
今回の写真は、永瀬さんのイメージしていた香港なのですね。
どんな物語が動き出すのか、写真を見る側も想像が膨らみますね。
映画のワンシーンのようです
ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』は好き過ぎて…好き過ぎて…
どこかのスクリーンにかかれば必ず観に行っちゃうし、始まった途端にハンパないノスタルジックな気持ちがこみ上げてきてなぜか涙が出そうになる。
そんな作品に触れられるクーロン、ネイザンロード、チョンキンマンション、当時めっちゃ行きたかった。そんな気持ちを思い出させて頂きました。
永瀬さんの香港のピッタリなイメージなんですね。
その街の、「粋」な感じが伝わってきました。