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本に心を開いたら あの名作にこんなご近所感が!  

撮影/馬場磨貴

『やりなおし世界文学』

タイトルどおりのエッセー集で、われわれが持ちがちな、「世界文学にこんなことを思ったら失礼なんじゃないか」という脳のブレーキを外し、津村記久子さんが本にすごく心を開いているのが読みどころ。

本に心を開いたら あの名作にこんなご近所感が!  
『やりなおし世界文学』津村記久子 新潮社 1,980円(税込み)

ところどころで顔を出す大阪弁と、大阪の人っぽいにじり寄り方もいい。私の考えでは、西のほうの人たちは手におえないような大きなこと、未知のことでも尻込みせず、自分の知ってる世界に置き換えてわかろうとするエネルギーがある。方言や気質は「狙い」や「装置」ではないので、関西の言葉や魂が出てこない章もあるのだけど、たとえば「渾身(こんしん)の力で記されるよその家のどんならん事情」とタイトルがつけられた、ウィリアム・フォークナーの『響きと怒り』についての文章。

次第にわきあがってくるのは、「知らんがな」という身もふたもない実感である。町内の古い大きな家に回覧板を持っていって、上り口でその家の家族が入れ代わり立ち代わり要領を得ない話をしていくのを、知らんがな、どの家もややこしな、と内心うんざりしながら、それでも帰れずに最後まで聞いてしまった、というような話である

この、名作をご近所に引きずり込む感じ。乱暴かつやわらか、という不思議な味わい。これらは津村さんの生まれもった言葉と性(さが)で吐露されてこそ。

これだけだと「マスターピースに言いたい放題するエッセー」と思われそうだが、ちがうの! 上記の引用で重要なのは「それでも帰れずに最後まで」なのだ。

なぜ『響きと怒り』をブン投げることなく、「知らんがな」を繰り返しながらも本編558ページ、<つけたし>を含めると588ページにおよぶ名家の没落話につきあえたのか。「人生のはしごを外された後に、こんな扉の開き方もある」というエッセーの結びに向かうまでの、津村さんと登場人物たちの、作家フォークナーとの格闘がすごい。力技でいく読書もあるのだ、とうならされた。

また、読み方提案もある。「怪盗ルパンのヨーロッパ大風呂敷」と題された、モーリス・ルブランの『813』『続813』ルパン傑作集についての文章では、ルパンが終始ノリノリで、たまにこちらがついていけなくなるくらいであり、自分もちょっと苦労した、と漏らしたあと「これから読まれる方は、自分の中で、ルパンという人をいちから作り上げるのではなく、知り合いや有名人の中から『この人ノリがいいな』と思われる人をいったん振り当て、その人をルパンとして読むのをおすすめする」とある。さあ、津村さん自身は誰をルパンにしたでしょう?!

爆笑、しみじみ、仰天、感動とバラエティーに富んだ読み味の一冊。おススメです!

本に心を開いたら あの名作にこんなご近所感が!  
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PROFILE
間室道子

まむろ・みちこ
代官山 蔦屋書店 文学コンシェルジュ
テレビやラジオ、雑誌でおススメ本を多数紹介し、年間700冊以上読むという「本読みのプロ」。お店では、手書きPOPが並ぶ「間室コーナー」が人気を呼ぶ。

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