(173) 男性と警察官の気になるやりとり 永瀬正敏が撮った香港
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回も香港で撮った一枚です。道ばたにすわりこんだ男性と、警察官の気になるやりとりを目撃した永瀬さんは……。

「はて、このおじさんに何があったのだろう?」
薬屋さんの前の歩道に腰を下ろしたまま動かない。
ほろ酔い気分で楽しまれているのだろうか?
そのほろ酔いがこの日はちょっとだけ行き過ぎてしまったんだろうか?
それとも、薬屋さんの前だけに、
何か体に異常を感じてここまでやってきて力尽きたのか……?
いや顔は何となくほほえまれているように見えるから、そうではないだろう。
もしくは、そこに腰を下ろすと何か良いことがあるのか?
またはものすごく居心地がいいのか……? それとも……。
宿泊しているホテルまでのタクシーを捕まえようとしていた僕は、
少し離れたところからそのおじさんを見ていた。
もしあまりにもやばそうだったら、一緒にいるスタッフの方々と助けに行こうかと考えていた、その矢先、巡回中の警察官の方がやって来た。
その警察官二人は親身になっておじさんに話しかけた。
体勢を変え、少し時間を置いたりしながら、何度も何度も話しかけていた。
決して強引にその場から連れ去ろうとはしなかった。
若い方の警察官が僕に気がつき、
まるで欧米人のように苦笑いしながら肩をすくめて両手を広げた。
警察官たちもおじさんの話に要領を得ないのだろう。
やはりちょっとほろ酔い加減がすぎたのか?
男性が一人やって来て、その三人のやり取りをほどよい距離で観察し出した。
何度もおじさんに事情を聞こうとあきらめずトライしている警察官のお二人と、
決して立ち上がらないおじさん、
腕組みし、口に指を当ててそれを見つめている男性……、
なぜかずっと気になり、その姿を見ていた僕の目の前の道では、
もうすでに何台ものタクシーが通り過ぎていた。
おじさんに何があったんでしょうね。
気になりますね。
トライしている警察官のお二人、ご苦労様です。
そして、親身になって心配している永瀬さんも。
男性が永瀬さんやスタッフさん達の助けを必要とする事態じゃなくて良かったけど…
優しく対応してる警察の方もずっと見守ってた永瀬さん達もご苦労様です。