スリランカ 光の島の原石たち
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これからも人生という旅はつづく 「摂食障害」という傷は私の勲章

撮影:Malaka Pathmalal

写真家・石野明子さんが光の島・スリランカで見つけた、宝石のようにきらめく物語を、美しい写真と文章でつづる連載です。14回目となる今回は、最終回。連載の最後に、石野さんがなぜスリランカで暮らすのか、カメラを手に、どんなことを伝えたいと考えているのかを振り返ります。

今回でこのコラム「スリランカ 光の島の原石たち」は最終回を迎える。連載当初に私がスリランカに来た理由を書いた。でも、もう一つあった「来なければならなかった」理由をここに書きたいと思う。

これからも人生という旅はつづく 「摂食障害」という傷は私の勲章
撮影:Malaka Pathmalal

存在しない「何か」求めて摂食障害に

 私は20歳のころから、30代半ばまで摂食障害に悩んできた。それは過食嘔吐(おうと)という、食べ物を極端に詰め込み嘔吐するというもの。1年ほど症状が出ないときもあれば、1日に数回、過食嘔吐を繰り返すひどい時期もあり、波のようにそれは15年近く続いた。

摂食障害への入口は、理想に近づきたい、という前向きな気持ちからだった。

ただ、その理想像が「自分らしさ」を無視したもの、ということに当時の私は気づいていなかった。雑誌やテレビ、SNSに溢(あふ)れる「理想像」は、スタイル良く仕事もプライベートも充実していて、そして常に誰からも認められる存在だった。

これからも人生という旅はつづく 「摂食障害」という傷は私の勲章
撮影:Malaka Pathmalal

それが私の目指す「理想」であり、理想通りでなければ私は存在する価値がない、と思っていた。最初はストレス発散のヤケ食い程度だったと思う。しかし、次第に強くなる強迫観念は私を追い詰め、過食嘔吐という摂食障害に至った。自分の価値を自身で作り上げた存在しない「何か」に委ねてしまった私は、何がゴールかもわからないレースに参加しているようだった。

私はフォトグラファーという仕事が大好きだ。でも、いつしか自分の表現を前面に出すことを恐れるようになってしまった。自分の撮りたいものではなく、こうした方が良い写真と言われるのでは……という考え方に支配されるようになってしまった。

失敗を恐れて自分を出せないため、ほめられても素直に受け取れず、うまくいかなかった日(ただ自分がそう感じる)には、過食嘔吐に逃げてしまう日々。尋常ではない量の食べ物を詰め込み、そして吐くことは、空っぽの自己肯定感を忘れさせてくれる作業だった。

大量の脂質と糖質はほんの一瞬、頭の中を麻痺させてくれるけれど、その後にさらに大きな自己嫌悪感に襲われ、自分の弱さを責め続けた。そしてそれを打ち消そうとまた同じことの繰り返し。

摂食障害を患って15年ほど経っていたある日、その日何度目かの過食嘔吐に疲れて、涙を流しながら床に倒れていた。

そのとき、理想の自分になれないことよりも本当に怖いことは何なのか、ということが静かに心に浮かんできた。

それは、大好きな写真で撮りたいものがわからないこと、弱さを隠すために取り繕(つくろ)った自分を演じ、大事な人たちに心を開けないことだった。

これからも人生という旅はつづく 「摂食障害」という傷は私の勲章
撮影:Malaka Pathmalal

誰にでも受け入れられるような「理想」を目指すのではなく、たとえ手に入らないものがあったとしても、自分らしく生きられる道を進んでいかなくては明日が来ることを楽しみにはできない。

失敗を恐れて自分自身を傷つけ続けるより、自分らしく挑戦し、もがく苦しみの方が幸せなのではないか。そのために、今持っているものを手放して、「ここから逃げよう」と思った。自分を壊さないために、自分のことを正しく愛するために。

その数ヶ月後、子宮外妊娠で命を落としかけたことも、生き方を考える大きなきっかけになっている。これがスリランカに来なければならなかった理由だった。

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