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カシューの蒸留酒「フェニ」の世界に酔う インド・ゴアの地域酒〈前編〉

ここ数年、コロナ禍の時期を除いてほぼ毎年インドのゴア州に通っている。目的は、ゴアだけで製造・販売されている地酒、フェニだ。いつまでも口の中に漂う、カシューアップルを凝縮した強い香り。原始の酒造りを思わせる森の「蒸留所」と、地域に根付くフェニ文化。前後編にわたり、ゴアからお伝えする。

原料は「カシューの果実」、ゴアだけで醸造

きっかけはささいな一言だった。2017年の暮れに、大学時代の友人ターニャを訪ねて初めてゴアを訪れた際、たまたま通りかかった木を指さして「これはカシューの木。ゴアではカシューの果実からお酒を造るよ。味が強烈で私は好きじゃないけど」と彼女が教えてくれたのだ。

左)カシューの木(右)カシューの果実、カシューアップル。パプリカをひっくり返したような形で、実の下についているヘタのような部分に種であるカシューナッツが入っている
(左)カシューの木(右)カシューの果実、カシューアップル。パプリカをひっくり返したような形で、実の下についているヘタのような部分に種であるカシューナッツが入っている

カシューが実をつけることも知らなかったが、何より強烈な味のお酒に興味を引かれた。そのお酒「フェニ」は、カシューの収穫期である3月から5月まで造られているという。

調べてみると、カシューフェニはテキーラやシャンパンと同様に地理的表示(GI)登録されており、ゴア州でのみ製造・販売が許可されている。日本の約9倍も広いインドで、ゴア州の大きさは奈良県とほぼ同じ。かなり限られた地域のお酒である。なんだかとても気になり、5カ月後の2018年5月に再びゴアを訪れることとなった。

ゴア中部の都市マーガオの中心部にある市立公園。きれいに手入れされ、人々の憩いの場となっている
ゴア南部の都市マーガオの中心部にある市立公園。きれいに手入れされ、人々の憩いの場となっている

果実の楽園、露払いは1回蒸留の「ウラック」

インド西部の大都市、ムンバイから長距離バスに14時間揺られ、ゴア南部の中心都市マーガオに着いたのは朝の10時半。5月のゴアは真夏の真っ盛りで、すでにジリジリと暑い。インターネットで唯一見つけたフェニツアーはNVエコファームという有機農園が運営しており、ここから車で1時間ほど内陸にある。親切な地元の人の助けを借りてやっとたどり着いたのは、青々としたジャングルの中だった。

半屋外の広いダイニングエリアで宿泊の手続きをしていると、ウェルカムドリンクとして「ウラック」をふるまってくれた。ウラックとは、カシューアップルの果汁を発酵させて1回蒸留させたもので、2回蒸留のフェニの一歩手前のお酒である。炭酸水とライムソーダで割り、ライム、青唐辛子と塩をひとつまみ入れて飲むのが定番で、蒸し暑いなかでも体にすっと入る、爽やかな味わいだ。

(左)ウラックのカクテルの材料。左上からペットボトルに入った自家製ウラック、炭酸水、ライム味のソーダ。お盆の上は、上から塩、青唐辛子、ライム。(右)出来上がったカクテルには、マンゴーのピクルスがそえられていた
(左)ウラックのカクテルの材料。左上からペットボトルに入った自家製ウラック、炭酸水、ライム味のソーダ。お盆の上は、上から塩、青唐辛子、ライム。(右)出来上がったカクテルには、マンゴーのピクルスがそえられていた

ウラックの香りは、少し熟しすぎたトロピカルフルーツに似ていて、東南アジアの街角で果物屋の前を通りすぎた時の匂いを思い起こさせる。初めて嗅ぐのに、どことなく懐かしく、記憶に残る香りだ。この農園に来る途中にもあちこちから漂ってきていたが、これがカシューアップルの香りだった。

一息ついた後に改めて周りを見回してみると、農園とは言っても畑はなく、雑木林にしか見えない。しかし、管理人のサントッシュさんに案内してもらい、敷地内を一緒に歩いていくと、コショウ、ナツメグ、シナモン、ターメリックなどのスパイスに加え、バナナ、パパイア、グアバ、ジャックフルーツなどの果物まで、実に多くの作物が栽培されている。なんて豊かな土地なのだろう。

(左)熟したグアバを探すサントッシュさんとアンキータさん。グアバの木を囲むようにバナナの木が植えられている。(右)農園を軽く一周したあとに採りたての果物を振る舞ってくれた。生で食べられる豆、グアバ、カシューナッツ、手前はパパイア
(左)熟したグアバを探すサントッシュさんとアンキータさん。グアバの木を囲むようにバナナの木が植えられている。(右)農園を軽く一周したあとに採りたての果物を振る舞ってくれた。生で食べられる豆、グアバ、カシューナッツ、手前はパパイア

「カシューアップル」と「カシューナッツ」

「これがカシューアップルですよ」と手渡されたのは、パプリカのような見た目の果物だった。肌のような質感と手のひらにずっしりと沈む感じがなんともなまめかしい。パプリカのヘタにあたる部分が種で、中にカシューナッツが入っている。

柔らかい果実は手で簡単に割ることができ、中からほぼ透明でサラサラとした果汁が滴り落ちる。さっき飲んだウラックと同じ特徴的な香りとほのかな甘みがあり、すっきりとしていておいしい。

カシューアップルは果汁が詰まっていてずしりと重い。外の皮は薄く、手で簡単に果実を割ることができる。果肉は繊維質で、果汁はほのかに甘く、最後に少し苦みを感じる
カシューアップルは果汁が詰まっていてずしりと重い。外の皮は薄く、手で簡単に果実を割ることができる。果肉は繊維質で、果汁はほのかに甘く、最後に少し苦みを感じる
カシューナッツは商品として取引されるが、自分たちで食べる場合は熱した鉄板でいってから火をつける。殻には油分が多く含まれているため、びっくりするほど燃え盛る。丸焦げになった殻を棒や石で割り、中のナッツを食べる。ゴア産のカシューナッツは大きくて甘い
カシューナッツは商品として取引されるが、自分たちで食べる場合は熱した鉄板でいってから火をつける。殻には油分が多く含まれているため、びっくりするほど燃え盛る。丸焦げになった殻を棒や石で割り、中のナッツを食べる。ゴア産のカシューナッツは大きくて甘い
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