未来への軌跡
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タッグを組んだ日産と三菱自動車 「軽自動車のEV」にかけた夢(前編)

日産本社のショールームで軽自動車のEV「サクラ」の前に立つ遠藤さん 花田龍之介撮影

日産自動車の「サクラ」と三菱自動車の「eKクロス EV」。日産と三菱自動車が共同開発した軽自動車の電気自動車(EV)が好調な滑り出しを見せている。プロジェクトを引っ張ったのが、2社のユニークな合弁会社のNMKV。軽自動車開発を担う社員50人ほどの小さな会社だ。11年前の設立から今年3月まで社長だった遠藤淳一さん(現・日産専務執行役員)に「軽EV」誕生までの軌跡や未来への展望をインタビューした。

▼インタビュー後編 「軽自動車のEV」は日本の自動車市場を変えるのか

先行きが読めない不透明な時代。未来への道筋を確かにするにはどうすればいいのでしょうか。「未来への軌跡」は、様々な業界の第一線で活躍するビジネスパーソンに、課題突破のために積み重ねてきた過去から現在に至る「軌跡」と持続可能な未来への処方箋をインタビューします。

――「サクラ」は、5月の受注開始から7月末までの受注台数が約2万3千台でした。日産のEV「リーフ」の昨年の販売台数が1万843台だったことを踏まえると、非常に好調な売れ行きです。また、三菱自動車の「eKクロス EV」は、同じ時期に目標を上回る「5600台超」の受注がありました。NMKVでは、いつごろから軽EVの構想があったのですか。

遠藤 NMKVが設立されたのは2011年6月1日でした。6月10日に開いた初めての全体会議で「互いの強みを生かすのであれば、軽のEVだね」というコンセンサスはありました。

――設立直後から軽EVの話が出ていたんですね。

その日は、日産本社の会議室に集まりました。日産、三菱自動車という違う会社から出向してきた人たちが一緒に働くわけですから、互いに自己紹介をして、一日かけて「この会社で何をやるべきなのか」について議論しました。競争力のある軽自動車を開発することはもちろんですが、「自動車市場に変化を巻き起こすのは、やはりEVだよね」という声が相次ぎました。

タッグを組んだ日産と三菱自動車 「軽自動車のEV」にかけた夢(前編)
NMKV設立の日にメンバーが集まった日産本社(横浜市西区) 荻原千明撮影/朝日新聞社

軽EVは「究極のいいとこ取り」

――三菱自動車は2009年に軽自動車のEV「アイ・ミーブ」、日産は10年に普通車のEV「リーフ」を世界に先駆けて発売しました。EVへのこだわりが強かったんですね。

遠藤 2社にとって新しい挑戦であるEVがそれぞれ発売されてから、まだそれほど時間もたっていなくて、思い入れは非常に強かったです。最初の会議から非常に盛り上がりました。「せっかく日産と三菱自動車で合弁会社をつくったのだから、将来的には軽EVを出したい」という雰囲気でした。

その日の会議について記した私のメモに「軽EVは究極のいいとこ取りではないか」と書いてありました。なぜ、軽EVが良いのか。理由は二つあります。一つは「軽自動車は近距離用に使われる傾向がある。航続距離がそれほど長くなくても満足する利用者は多いはずだ」ということ。もう一つは「軽自動車は普通車よりもエンジンが小さいため、上り坂などでの力不足を感じるユーザーは少なくないが、EVでは力強い加速を実現できる」という趣旨のことが書いてありました。

タッグを組んだ日産と三菱自動車 「軽自動車のEV」にかけた夢(前編)
日産本社の応接室でインタビューに応じる遠藤さん 花田龍之介撮影

NMKVは「日産と三菱自動車の様々な経験やノウハウなどの強みを引き出し、それらを効率的に、効果的に融合させ、これまでにない新しいクルマを創造する」ことなどを目標に設立され、開発、生産、商品企画など幅広い分野に所属する社員が集められた。背景には、軽自動車で「2強」のダイハツ工業やスズキに対抗し、国内市場でのシェアを高めたいという狙いがあった。

――軽自動車の共同開発会社として設立されたNMKVでしたが、最初から軽EVを目指すという目標を共有していたんですね。とはいえ、組織文化の違う社員が集まったわけですから、一緒に仕事をしていく上でとまどったり、苦労したりすることはありませんでしたか。

遠藤 当然、組織の形や仕事の進め方などに違いがありました。例えば、普段仕事で使う言葉にも違いがありました。似ている言葉なので「同じ言葉なのかな」と思っていると、違和感がある。確認してみると実は違っていた、ということもありました。

コミュニケーションで誤解が生じないように注意を払いました。例えば、会議の議事録。最初の頃、会議が終わってしばらく時間が立ってから確認してもらうと、「あんな事は言っていないです」という苦情が相次ぎました。言葉がかみあっていないわけです。対応策として、会議が終わると「この場で議事録をつくってしまいましょう」と呼びかけ、出席者に発言内容を確認してもらうようにしました。

「以心伝心」「空気を読む」といった日本の会社でありがちな状況を出来る限りなくすことが重要でした。言葉の定義をはっきりさせて、「行間を読む」ようなコミュニケーションはしないように呼びかけました。そして、「イエス」か「ノー」なのかをはっきりさせました。また、設立当初は、お互いを知るために月に1回程度のペースで飲み会を開いていました。

タッグを組んだ日産と三菱自動車 「軽自動車のEV」にかけた夢(前編)
日産のショールームに展示されていた軽EV「サクラ」と遠藤さん 花田龍之介撮影

「ほめる文化」を定着させたい

――ほかにはどんな点に目配りをしましたか。

遠藤 組織に「ほめる文化」を定着させることに力を入れました。NMKVとしての重要な仕事は、日産と三菱自動車の生産や開発の現場に入って、それぞれの強みをつないで形にしていくことでした。リーダーシップを持って、自分から仕掛ける形で動いて、日産と三菱自動車との連携を促進させて成果につなげたチームや個人を定期的に表彰することにしました。

NMKVの三菱自動車出身の方にとって新鮮なイベントだったようです。三菱出身の方に記念の盾を贈った時、その盾をまじまじと見て、すごく喜んでくださったことを鮮明に覚えています。表彰されたチームや個人には、成果の内容についてプレゼンテーションをしてもらい、みんなで共有しました。

――コロナ禍の際は、コミュニケーションの面でどんな工夫をされましたか。

遠藤 社員数人ほどのグループでオンライン会議をして直面している課題を聞いたり、雑談したりしました。参加者は、どうしても画面をオフにしてしまう傾向がありました。ただ、それですと表情が見えなくて、対話がしづらくなってしまいます。「できるだけ画面をオンにしましょう」と呼びかけていました。小さい会社ですから、すぐにこうした会議が開催できる気軽さがありました。

――組織の壁を乗り越えるには、「横のつながり」が大切なんですね。

遠藤 その通りです。もともと、ものづくりは、組織の壁を越えて、横で連携しながら現場の気づきを積み重ねて改善していくプロセスが非常に大切です。

NMKVは、日産と三菱自動車の中間に位置する組織です。「NMKVに大事な気づきや情報を伝えなければ」と日産や三菱自動車の社員に思ってもらう組織にするためには、互いの信頼関係が非常に大切です。私たちはNMKVのことを「出島」と呼んでいました。日産と三菱自動車の現場から様々な情報が入ってきて、そこでは自由に意見交換ができる、という組織を目指しました。それはうまくいったと思っています。

タッグを組んだ日産と三菱自動車 「軽自動車のEV」にかけた夢(前編)
三菱自動車の軽EV「eKクロス EV」 三菱自動車提供

NMKVは、軽自動車の資材費や物流費などのコスト削減や軽自動車の開発に取り組んだ。2013年7月には、三菱自動車水島製作所(岡山県倉敷市)内に「NMKV」の水島オフィスがオープンした。生産現場にNMKVの社員が常駐し、課題や対応策について開発部門に取り次ぎ、品質向上や効率化を図る動きを加速させた。その年から軽EV開発を目指す取り組みが動き始めた。

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