東京の台所2
連載をフォローする

今日からすぐとり入れられる五つの技術〈特別編・文章を磨く日々のレッスン①〉

連載「東京の台所」シリーズで、だれの家にもある台所から、珠玉のエピソードをつむいできた大平一枝さん。「ボス」に鍛えられた編集プロダクション時代を経て、ライターとして独立し、エッセイやノンフィクションなど20冊余の著書を出版。これまでの文筆生活を通して、すべての「書きたい人」へ送るアドバイスとは。特別編を全3回でお届けします。

ポンコツ編集者の文章修業、ボスの教え


「悲しい話に、“悲しい”という言葉を使うのはだめです」 
 26歳で出版の世界に足を踏み入れた私に、編集プロダクションの社長であるその人は、幾度となく説いた。おいしいものを“おいしい”と書かない。恋愛話に愛と恋を、別れ話にサヨナラという言葉を使わない。感動話は“感動”と書かずにいかに心が震えたかを伝えよ。
 女性週刊誌出身のボスはひどく教え上手なうえに、温和でどんなに素人にも声を荒立てたりいらついたりしない。口調は丁寧だがしかし、原稿はバッサリ容赦がない。
 
 ポンコツ編集者のくせに「原稿を書かせてください」と願い出ていた私は、4年間の社員生活で同じことを注意され続けた。ボスの席に呼び出されては、タバコの煙をくゆらせ低い声で言われる。
 「あのさあ大平さん、このカタカナだらけの原稿、青山に住む人にはわかるけど、離島に住む年配の人にもわかると思いますか? 文章でいちばん大事なのは、誰に対してもわかりやすいこと。自分だけわかった気で書いたもんは商品にならないよ。これ前も言いましたよね。もう、僕に言われたこと机の前に貼っといたら?」

今日からすぐとり入れられる五つの技術〈特別編・文章を磨く日々のレッスン①〉
ふだん原稿を書いている書斎にて

 文章にもいろいろある。ここでいうそれは、当時携わっていた女性誌の原稿を指す。広く大衆に向けて、お金を払ってもらって読んでいただく文章は、ひとりよがりであってはならない。かっこうをつけた、聞こえのいい言葉を、わかったふうに使うなというわけだ。

 今回、文章の書き方を学びたいという人のための特別編を、と依頼をいただき、全3回にわたり書いたりお話ししたりすることになった。そのすべての根底に前述のボスの教えがある。今でもよく、ふと「この文章をボスならなんと言うかな」と考えることがある。だから私は、ただの伝言者である。
 古巣は随分前に解散し、すでにボスはいない。もう御礼を言えないので、多くの人に伝えることが恩送りになると勝手に信じている。

今日からすぐとり入れられる五つの技術〈特別編・文章を磨く日々のレッスン①〉
前の家で使っていた作り付けの棚を持ってきて再利用している

私が気をつけている五つのこと

 さていきなり、今日からすぐとり入れられる技術を書いてみたい。きっと、これを読む前と後で、あなたの文章はちょっと変わっているはずだ。ただし正解はない。それから小説や詩作には使えない。ブログやSNS、社内報など広く多くの人にわかりやすく届けたいと思う文章を書く時に、心の隅にでも留めていただければと思う。

1.三行禁止

 人は、他人の長い文章を読みたくない。好きな作家ならともかく、見ず知らずの誰かの文章、まして無料で読める性質のものならなおさらだ。長いとわかるやいなや読み手はその場を離れると思ったほうがいい。
 だから一文が三行にまたがるときは、文章をいったん切る。わたしは週刊誌出身のボスに学んだので、とくに一文が長い文章については細かく注意された。三行だろうと四行だろうと読ませきる力がつくまでの、レッスンとして心がけてみてほしい。

2.書き出し命

 書き出しの一行に全霊をかける。けして「今日は」「私は」「この作品は」「◯月◯日、」で始めない。日記ならば、「今日」のことを書いているのは自明だ。私のエッセイなら「私」と書かなくても読者は主語をわかっている。映画、店、料理、場所。何かの説明であれば、「この◯◯は」を、読者はあらかじめわかって読み始めている。
 つまり、読み手の心をキャッチするのか、リリースするのかは一行目にかかっている。しつこくこだわるべし。

3.常套句注意

 いささか極端な話になるが、とくに代金を支払って読んでいただくものに、常套(じょうとう)句の多用は申し訳ないと私は思っている。雲ひとつない澄み渡った青空、ぎょっとして立ちすくむ、胸がいっぱいになる、たかが〜されど〜。誰もがはんこのように使いまわしのできる表現で、お金をいただくなんて失礼だよなと。
 だからなるべく「自分にしかできない表現」を考えたい。じつはそれこそが文学の醍醐(だいご)味のひとつであり、味わいであると思う。
 また、よく聞く形容もできれば避けて。ぽってりとした器、ジューシーな肉汁、心地よい風。使うことが間違いではない。ただ、現在文章がもっとうまくなりたい、学びの途中であるという人は、訓練だと思って言いかえる習慣を身につけてはどうだろう。

今日からすぐとり入れられる五つの技術〈特別編・文章を磨く日々のレッスン①〉
書斎の本棚には、仕事の資料や執筆中すぐ手に取りたい本を収納

4.末文で、最後の大勝負を

 「とてもおいしいラーメンだった」「感動的な作品だった」はNG。書き始めの一行と同様最後の一行にも精力を注ごう。編集プロダクション時代、最後をついまとめようとして前述のように書くと、必ずボスにこう斬ってすてられた。
 「これじゃ小学生の作文だよ」
 あなたにしか書けない一行で締めると、途中ちょっとだめだったり脱線気味だったりしても、不思議と全体に締まった印象になる。

5.記号をやめる

 誤解を恐れずにいえば、「!」や「?」など記号に頼ると、文章はとたんに安っぽくなる。記号ひとつで、大変多くの感情を伝えられて便利だが、そればかり使っていると表現力が上達しない。文章を学びたいと思っている段階では、ひとまず記号から距離をおき、オリジナルの言葉で表す癖をつけたい。
 つまるところ、文章力とはいかにオリジナルの表現にこだわりきれるか。どこかで見たような文章ではない、多少構成が整っていなくても、その人にしかできない表現で、わかりやすく端的に書かれたものを人は読みたいものなのだ。

次回は、文章力を磨くため大平さんが日々実践していることを、読書法と合わせてご紹介します。

REACTION

LIKE
COMMENT
2
BOOKMARK

リアクションしてマイルをもらう

連載をフォローする

COMMENT

評価の高い順
コメントを書いてマイル獲得! みんなのコメントを見る

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら