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アムリツァルからニューデリーへ、玄奘三蔵が歩いたパキスタン・インドの旅(4)

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アムリツァルからニューデリーへ、玄奘三蔵が歩いたパキスタン・インドの旅(4)

1:アムリツァルにはシーク教の総本山ハリマンディルサーヒブ(ゴールデンテンプル)がある。シーク教徒の中心都市といってもいい。シーク教徒の主流派のカールサー派は、髪の毛とひげを切らず、ターバンを巻いている。体格もよく、一見、怖そうだが、かなりボーッとしている人も多いという印象を受ける。憎めない人たちだ。

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アムリツァルにはシーク教の総本山ハリマンディルサーヒブ(ゴールデンテンプル)がある。シーク教徒の中心都市といってもいい。シーク教徒の主流派のカールサー派は、髪の毛とひげを切らず、ターバンを巻いている。体格もよく、一見、怖そうだが、かなりボーッとしている人も多いという印象を受ける。憎めない人たちだ。
インドの駅舎内は禁煙ということは知っていたが、アムリツァル駅は敷地内すべてが禁煙でした。それを知らなかったばかりに100ルピー、約160円の罰金。ちゃんと払いました。しかしその書類が多いこと。IT大国といわれても、10枚ほどの書類にサインをしなくてはならなかった。
アムリツァルのあるパンジャブの人口の約67パーセントはシーク教徒とか。だから駅員がシーク教徒であってもなんら不思議はない。シーク教徒は富裕層が多く、海外移住組も少なくない。インド人はターバンを巻いているというイメージはシーク教徒からきている。しかしインド国内では少数派。この光景はアムリツァル駅だけ?
乗った列車の名前はパシム・エクスプレス。アムリツァルとムンバイを約31時間で結んでいる。前日の夜、この切符を買った。列車は何本もあったが、発券窓口の中年女性は、「この列車がいちばんいい。これにしなさい」とかなり強引に決めさせられた。なにがいいのか、いまだにわからないが。
隣の席のおじさんふたり連れが朝食を食べていた。おいしそう……。食パンに卵焼きセットで70ルピー、約112円。カレー味のないインドらしくないセットだが、なぜかほっこり気分になるのは昔ながらの食パンのせい? 1杯20ルピー、約32円の甘いミルクティーとの相性がいい。
コンセントが次々に車内に設置されるのは世界の乗り物の潮流。理由はもちろんスマホです。インドのこの列車も、各コンパートメントにひとつのコンセント。いかにも後からとりつけた感が漂う。列車によってはコンセントがないこともあるらしい。「この列車がいちばんいい」という駅員の言葉をこのことかと思い出す。
僕らの向かいの席はシーク教徒の家族。子供の頃から髪の毛を切ることは禁じられているから、髪を巻いて、頭のうえでお団子状にし、髪の毛カバーをかぶせている。これがシーク教徒の子供たちの基本スタイル。カバーは手編みっぽいレース。向かいに座るおばあちゃんが編んだのかも。
この列車にもサドゥーがいた。サドゥーというのは放浪する修行者やヨガの実践者の総称。彼らは物質欲や所有欲を放棄している。人々からのお恵みで暮らしているが浮浪者とは違う。その数はかなりいる。一度も話をしたことはない。もちろん列車は無賃乗車。一応、気を遣ってデッキに座っていた。
昼が近づき、車内の温度も40度を超えた。吹き込む風だけが頼りだ。アムバラカント・ジャンクションという駅で駅弁を買った。野菜をカレー味で炒め煮したザブジとインド風揚げパンのプーリーという簡素なセット。ひとつ15ルピー、約24円と値段も質素。車内が暑くてもなんとか食べることができるカレー味の妙。
車内は息苦しいほど暑くなってきた。すると向かいのシーク教徒の家族が秘密兵器をとり出した。羊の皮でつくった水入れ。それを窓の外にぶらさげると、皮に染みた水が風に吹かれて気化し、なかの水の温度が下がっていくのだという。なるほど……。実際に飲ませてもらった。あまり冷たくはなかった。
列車はしだいにデリーに近づいていく。車窓に水田が広がりはじめた。乾燥気味の一帯を抜けたということだろう。水田の風景にどことなくほっとするのは、僕が日本人だからだろうか。しかし暑い。午後になり、車内の気温は40度を超えているだろう。身の置き所がない。熱でふやけた頭で緑を追っていた。
午後4時半、ほぼ定刻にニューデリー駅に着いた。その足で駅舎内の外国人用発券オフィスに向かう。冷房が効いていた。しばらく涼んで、翌日の列車の切符を買った。ブッダガヤに近いガヤーまで。席があったのは、ニューデリー駅発ではなく、アナンダ・ビハール駅発。その理由は次回に。
ニューデリー駅前には怪しげな客引きが多いが、助かることがひとつある。駅前から続くメインバザールロードが、昔からの安宿街ということ。日本でいえば、東京駅前にバックパッカー街が広がるようなものだ。ひとり750ルピー、約1200円の中級宿のツインに泊まった。とにかく冷房だけが頼りだった。
覚悟を決めて冷房の効いた部屋から外に出る。調べると、その日のデリーは最高気温44度、最低気温38度。最低気温が体温より高い。これはきつい。それでもデリーの人々は、狭い道の両側に屋台を出し、商売、商売。ちゃんと食べなくちゃ……と焼き鳥を買う。どこで食べる? もちろんホテルの部屋です。
豪華な部屋食? 明日も気温40度越えの列車旅。気分がめいる。ビールでも飲まないとやってられない……といった心境でやけ買い? 日が落ちてくると、急に風が出てきた。しかし熱風。部屋から外を見ると、そのなかでたこをあげているインド人が何人もいた。しばし言葉を失った。
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