小川フミオのモーターカー

人間中心のコンセプト「サーブ99」

シンプルだが高品質感なサーブ99

シンプルだが高品質感なサーブ99

このところ、フィンランド生まれのムーミンがまた脚光を浴びたり、スウェーデンのイケアの人気も続いていたりなど、北欧は私たちの生活にも根付いているのを感じる。クルマの分野でも、とりわけ1970年代、スウェーデン車には大きな魅力があった。その代表的な一台がサーブ99である。

オレンジ色は当時のエコカラー

オレンジ色は当時のエコカラー

サーブ(SAAB)は、スウェーデン航空機会社の頭文字からとったもので、母体は37年の創業。民間機と戦闘機、さらにミサイルなども手掛けていた。東西冷戦期のスウェーデンでは国防事業に力を入れ、サーブはその一翼を担っていたのである。70年に開発された攻撃機サーブ37ビゲンは短い滑走距離での離陸も可能という、優秀な技術で国際的評価も高かった。

2ドアセダンのボディー

2ドアセダンのボディー

サーブの自動車部門が手掛ける乗用車では攻撃性こそなかったが、技術もスタイリングも個性的で、航空機会社ゆえの独自性が盛んに取り上げられた。製品づくりの背後にいたのは、シクステン・サソンというデザインディレクター。工業デザインに関わる前はSFのイラストレーターという経歴がユニークだが、サーブのほかに、エレクトロラックス、ハスクバーナ、ハッセルブラッドといった国際的評価の高い企業でデザインコンサルタントを務めた。サソンの指揮の下、理想主義的でやや独善的なデザインが展開され、他に類のない個性を確立したのである。

2ドアのファストバック(大きなリアハッチを持つ)

2ドアのファストバック(大きなリアハッチを持つ)

円筒を切ったようにラウンドしたウィンドシールによる視界の確保。防寒手袋をしたままでも使える操作系。乗り降りに便利なように深く内側までえぐった床のサイドシル。さらに大きく開くボンネットや、ファクスバックスタイルの車体などは機能性とスタイリングを両立させ、デザインに主張があった。

1977年に登場したターボ

1977年に登場したターボ

サーブの代名詞になった99は67年から87年まで生産され、独自の存在感を発揮した。凍結防止のため冬季は路面に塩をまく北欧での使用を前提として、徹底した防錆対策を施したことや、岩盤の上に立つ国土から産出される鉄鉱石によるスウェーデン鋼を車体に使用していることなども喧伝(けんでん)された。

99ターボは145psの前輪駆動

99ターボは145psの前輪駆動

77年には99ターボが発表され、北米市場を中心にスポーティー性という、もうひとつのサーブの側面を強調することに成功した。市場でのライバルは、同じスウェーデンのボルボもあったが、イメージ的にはBMW(2002、2002ターボ、後の3シリーズ)が近かった。当時、ターボは珍しい技術で、その加速性のよさは驚くばかりだった。80psの1.8リッター、あるいは118psの2リッターエンジンに前輪駆動システムを組み合わせたノーマル仕様は、品質において日本車などは太刀打ちできかった。

99ターボは4530mmの全長に1.2トンという軽量ボディー

99ターボは4530mmの全長に1.2トンという軽量ボディー

なにより、クッションがあるシートをはじめ、車内の居心地のよさは99の魅力である。乗員を安全に遠くまで運ぶためにつくられた、人間中心のコンセプトが印象的だった。日本では70年に200万円近くで販売されていた。71年発表の4代目トヨタ・クラウンで100万円少々だったので、かなりの高級車だった。

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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