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人気ゲームFFXIVのP兼D、吉田直樹さんの巨大プロジェクトを動かす仕事術

  


『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹さん

プレイヤー数が1000万(※)を超えたスクウェア・エニックスの人気ゲーム『ファイナルファンタジーXIV(FFXIV)』のプロデューサー兼ディレクター(P/D)吉田直樹さんへのインタビュー。後編は、大規模プロジェクトである多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)をマネジメントする際の方針や仕事術、ゲーム業界の未来についてうかがいました。

※日本・北米・欧州・中国・韓国の5リージョンの累計アカウント数。フリートライアル版のアカウントを含む。

ファイナルファンタジー14のゲーム内画面


ファイナルファンタジーXIVのゲーム内画面

僕だけ1日48時間あれば!

――プロデューサー兼ディレクターは、あらゆる決定を1人で行う立場です。著書では「だまされたなぁ」と兼任したことを嘆いていました。異例のポジションだと思うのですが、MMORPGの再生という巨大なプロジェクトを進めるにあたっては必要なことでしたか。また、吉田さんの仕事の進め方を教えてください。

 一人の人間が、巨大なゲーム開発のディレクションをしつつ、同時に予算管理やマーケティングの判断も即時に行うのは異常事態であり、とにかく恐ろしい作業量ではありますが、そのメリットは非常に大きく、「FFXIVを立て直す」というプロジェクトにとって、この判断は正しかったと思います。僕にプロデューサーの経験がなかったので、「プロデュースとはこうあるべき」という型を持っていなかったこともよかったかもしれません。また、幸運だったのは、周囲に僕の判断を丸のみにするようなイエスマンがいなかったことです。真剣に議論できるメンバーがそろっています。

 僕はゲーム開発がとにかく好きで、好きなことをやっているのであって、あまり仕事という感覚はありません。それでもたまに、無性にFFXIVをプレイしたくなり、仕事をせずにずっとプレイばかりしている日もあります。この辺りは相当ハッキリしている方だと思います。「あー、どうしても今この仕事はしたくない!」と思った場合、「じゃあ何がしたいんだろう」と考え、そのときに「やりたい」と感じたことを先に片づけてしまうことにしています。「さ、好きなことをやったんだから、そろそろ仕事しなきゃ!」という感じでしょうか……。でも、そのような衝動で会社をズル休みするのは年に一、二度あるかないかですよ(笑)。

 プロデューサーとディレクターを兼任していると、やはり圧倒的に時間が足りません。僕だけ1日が48時間あればなあとよく思いますね。別に時間が倍になっても遊ぶわけじゃないので、僕だけ誰か倍にしてくれないかなあ、と(笑)。

  

タスクはできるだけ分割して順位づけ

――マネジメントの方針や、膨大な開発、運営業務を管理するため導入している方法について教えてください。

 いくつかありますが、特に気を付けて欲しいのが、「○○さんがこう言ったからこうした」という仕事をしないことです。例えばAとBという異なる二つの仕様について、僕とスタッフが2時間議論をして、その結果Aを採用することに決めたとします。そのスタッフはその後、開発チームの他のメンバーに、今度は自分の言葉でその結論をきちんと説明できなければいけません。

 それを「吉田P/Dがそう決めたから(そう言ったから)」だけで済ませては、本当の意味で仕事を果たしたことになりません。せっかく僕と一緒に議論をして出した結論なのに、それが正しく伝わらないと、周囲の信頼を勝ち得ません。また、議論の内容がどうでもいいのであれば、僕も時間をかけて議論をせずに、さっさと「はい、こっちね」と理由を語らずに結論だけ伝えるのと変わりません。2時間の議論が無駄になってしまう仕事のやり方になってしまいます。

 プロジェクトの規模が大きくなり、責任の所在がハッキリしていると、周囲を動かすためにそのプロジェクトの権力者の名前を出してしまうのが、最も楽な方法です。でも、それだけはNGだというお話ですね。それでも時折「あ、それは吉田さんがやれって言ってるんで、いいから進めてください!」というシーンも見かけます。なかなか難しいですね……。

 一方で、任せるところは任せています。どうしても僕の判断が必要な時だけ聞いてくれと。現場がつくってきたものをできるだけ尊重する主義ですが、事前に決めたものから大きく外れてしまったり、逆に事前確認を怠ったためにトラブルを抱えたものは、割と容赦なく延期や路線変更の指示を出します。この辺りは下手に情けをかけてダラダラと苦労を強いるよりも、割とドライに判断した方が、結果的に新しいチャレンジがどんどんできるのかなと思っています。

 マネジメントで用いている方法も幾つかありますが、中でも大きいのが、スケジュールロスを避けるため、仕事や作業のタスクは、できるだけ細かく分解するようにお願いしています。マネジメントチームは、それを徹底するようにしていますね。

 今回のインタビューで例えると、インタビュー全体で90分の予定を、単に「インタビュー90分」という1タスクにせず、「入室から着席するまで10秒~30秒」、「名刺交換に30秒~1分」、「質問1問目に5分~10分」、など幅を持たせて分解していきます。この分解したタスクには”そのタスクが完了するかもしれない最小時間”と”これ以上は絶対にかからないと思われる最大時間”の2点で見積もりをつけます。

 名刺交換は、欧米人ならササッと5秒で終わりますが、日本人の場合には礼や口上の習慣があり「御社の○○さんとは以前……」と話し始めてしまって長引くかもしれません。タスクは納期を1点で見積もってしまうと、見積もりエラーが重なって、スケジュールリスクがどんどん高くなります。見積もりを1点ではなく最小と最大の2点にし、その中間値を計算できるようにした上で、タスクに優先順位をつけます。

 優先順位はもちろんその時々、プロジェクトごとに異なるので一概には言えませんが、タスクを分解して複数観点で見積もりをする、という行為はとても役に立つと思います。あまり細かく分割しすぎてもいけませんが、この「タスク分割する」という感覚は、他の仕事でも応用できるのではないでしょうか。「仕事が終わらない」と悩んでいる人におすすめです。

ファイナルファンタジー14のプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹さん

スマホ世代が遊んでくれるゲームを開発したい

――ゲームを遊ぶデバイスは、かつての家庭用据え置き型からスマートフォンに移行しています。ゲーム業界の未来像をどのように描いていますか。

 家庭用ゲーム機をテレビにつなげて遊び始めた時代から、ゲーム機を手に持って遊ぶ、またはソフトウェアをスマートフォンにインストールして遊ぶ現在まで、ゲームというエンターテイメントに興味がある人たちの数はいまだに増え続けていて、総合的なピークは実はまだ来ていないと考えています。
 同時に、ライフスタイルの変遷に合わせて、それに合ったデバイスでゲームを遊ぶことのトレンドには移り変わりがあります。いま、スマホがみなさんの生活に深く寄り添っているので、スマートデバイスで最も時間を消費するのは当然の流れです。もちろん、年代によって違いはあると思います。いま50代、60代の人は、できあがったライススタイルを持っている方が多く、積極的にそれを変えようとする方は少数ですので、スマホで最も時間を消費するようにはならないでしょう。その一方で、いまの小中学生は、生まれた時からそばにスマートデバイスがあって、寄り添うというよりは「あまりにも自然で当たり前」となりつつあります。

 この小中学生たちのゲーム体験の入り口はスマートフォンの可能性が高い。しかしその後に「ゲームにはもっとすごい、高精細度画像のものがある」と知り、家庭用ゲーム機に興味を持ってくれるようになります。これは僕の育った世代とは逆の入り口ですよね。

 だからどちらかが勝り、どちらかが衰退するということではなく、こうしたデバイスの変遷はゲームという文化の発展として当然だと思いますし、これからも続くと考えています。ただし、主流がテレビの前に戻ることは二度とないと思います。より贅沢なエンターテイメントを求めて、テレビの前に座る、という時代になります。

 僕はその中でも高精細度画像のゲームを開発したい人間です。大画面につなげることでしか遊べない、そんな凄さや楽しさを提供するためにがんばりたい。

 MMORPGというジャンルのゲームは、世界で見ても最も苦戦している時代です。ゲームの規模が大きい分だけ、ゲーム世界のすべてを遊びつくそうとすると、他のゲームに比べてどうしても長時間のプレイが必要になる。実際には短い時間の積み重ねで遊べるとしても、俯瞰して総合的に見るのが現代人の特徴です。これによって、今の時代のライフスタイルでは最も浸透しにくいのが、MMORPGというエンターテイメントであると言えます。これもまた「だからこそ価値がある」という時代へ一周すると考えていますが、今はまだそのときではないようです。こうした状況下でも、ビジネスとして俯瞰(ふかん)してみるとFFXIVはよくやっていると思います。

ファイナルファンタジー14のゲーム内画面


ファイナルファンタジーXIVのゲーム内画面

一度、MMORPGの世界を体験してほしい

――FFXIVを知らない人にメッセージをお願いします。

 まだ日本では、オンラインゲームというだけで、プレイを避ける方が多くいらっしゃいます。確かに「ゲームの中でまで他人と関わりたくない」「長い時間遊ばないといけない」などの印象が、先行していることは否めません。ですが、オフラインのゲームに比べ、オンラインのゲームには、そこでしか味わえない「体験価値」があります。

 オフラインゲームだとNPC(ノンプレイヤーキャラクター、プログラムで動くキャラクター)と会話して楽しんでいますが、オンラインゲームの中で動いて、話して、戦っているのは、世界中から接続してきた人たちです。自分の周囲を走り、戦い、アイテムを制作しているキャラクターが、自分と同じように世界のどこかからゲームに接続している……色々な思いがあり、話をすることもできるし、一緒に戦うこともできる。もちろん、世界をただ眺めて暮らしたって良い。感受性の高い人は、これを味わうだけでもかなりの衝撃だと思います。

 FFXIVにも無料のフリートライアルがあります。もちろんほかのオンラインゲームタイトルでもかまいませんので、僕個人としては、この「体験価値」に触れないのは、とても勿体無いと思うのです。どのゲームも無料でこの味わえる感覚ですので、ぜひ、ご検討ください。

 もちろん、今の時代、フリートライアルのためにゲームソフトをダウンロードする時間すらとても貴重です。しかし、それを超えるだけの価値は十分にあると保証しますので、いつものFFを遊ぶつもりでぜひ体験しに来て下さい(笑)。

(取材・&M編集部、写真・野呂美帆)

  
(c)2010 – 2017 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

<吉田直樹さんプロフィール>
 スクウェア・エニックス開発担当執行役員 兼 第5ビジネス・ディビジョン ディビジョンエグゼクティブ。ゲームクリエイター。2005年にスクウェア・エニックスに入社。ドラゴンクエスト モンスターバトルロードのディレクターを務める。2010年12月、ファイナルファンタジーXIVのプロデューサー兼ディレクターに就任。

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