オウンドメディアの未来像PR

 企業や団体が自ら運営する「オウンドメディア」は、ブランド向上に欠かせない存在になりつつある。いわゆる「自社サイト」という従来の枠組みを超えて、さまざまな表現やコミュニケーションに取り組むケースも増えている。

 近年は、信頼性を損なう記事によるキュレーションサイトの公開中止、英国のEU離脱やアメリカ大統領選におけるフェイクニュースの影響など、WEBメディアの信頼性が問われている。自分で情報を発信し、ユーザーと直接のつながりを持つことは、企業などが信頼性を確保するうえで自然な流れとも言える。

 今後も支持され続けるために、オウンドメディアには何が必要なのか? 大学の教員が時事問題や社会問題について解説する明治大学の「Meiji.net」。1980年代生まれ世代にエッジの効いた情報を発信する野村證券の「EL BORDE (エル・ボルデ) 」。パナソニックの無料会員コミュニティとして1000万人以上が登録する「CLUB Panasonic」。3サイトを運営する関係者に話を聞き、オウンドメディアの目指すべき姿について模索する。

大学の「知」を社会に還元する、先駆的な取り組み 明治大学「Meiji.net」

  

 「所属する研究者の知見を社会に役立てていただくために、さまざまな視点でものを書くことによって、明治大学の『知』を社会に広く発信していく。『Meiji.net』は、社会と研究現場をつなげる形の情報発信サイトとなっています」

 そう語るのは、明治大学の副学長(広報担当)の牛尾奈緒美氏(情報コミュニケーション学部教授)だ。2013年7月の開設以降、約170人の教員が、ビジネスや教育、ITなどの分野で話題になったニュースや社会問題について解説した。

 入学志願者や卒業生、企業などのステークホルダーごとに目的が明確な大学のサイトとは、一線を画す。独自のドメインを取得し、「明治大学という研究教育の資産を無料で使っていただくサイト」という位置づけ。大学としての先駆的な取り組みが評価され、「日本BtoB広告賞」の銀賞を2014年、金賞を2016年に受賞している。

 「大学の生き残りや評価を上げるというよりは、あくまでも社会への「知」の還元を意識して、大学と社会を繋げる研究を発信していくという発想です。それが回り回った結果として、明治大学への信頼感やブランドが上がっていくというのが、望ましい循環であると考えています」

明治大学副学長(広報担当) 情報コミュニケーション学部 教授 牛尾 奈緒美氏


明治大学副学長(広報担当) 情報コミュニケーション学部 教授
牛尾 奈緒美氏

 日本最大級のニュースサイトであるYahoo!ニュースにも、新聞・テレビ・雑誌など既存のメディアと並んで、大学としては初めて記事を配信している。見出しが気になって読んだ記事は、「Meiji.net」がソースという場合もあるわけだ。「ネットの情報を信じる信じないは最終的には個人の判断になりますが、明治大学の先生が解説した信頼できる話ということで、そこから学びを感じ取っていただける存在になれたら」と牛尾氏は話す。

 丁寧に解説した記事は蓄積され、高いアーカイブ性を保持している。アベノミクスや少子化問題に関する記事は、検索サイトを通じて現在もコンスタントに読まれているという。突発の事象への速報的な対応が難しいのが現状の課題であるものの、深いテーマに対して約1000人(非常勤など含めると約3000人)の教員がさまざまな分野から分析できるのが、強みとなっている。

 「Meiji.net」の役割の一つが、パブリシティの強化。登場した教員へのマスコミの二次取材なども増えた。理系分野の技術を実用化するうえでも、企業などとコラボするためには情報発信が必要だ。大学の外へと一方的に情報を発信するのではなく、教員に社会とのつながりを意識させる啓蒙活動の一環としても「Meiji.net」が貢献している。

 将来に向けて、牛尾氏は「生かしたいのは、明治ならではの総合力。新しい価値観を持つ若い先生方も入ってきておられますし、常識から一歩も二歩も進んだ新たな見解、新たな学問潮流を起こしていけるようになれたらと思います」と抱負を述べた。

80年代生まれ世代に長期的な視点でコンテンツ提供 野村證券「EL BORDE」

  

 2017年5月に立ち上がって半年余りの「EL BORDE」は、野村證券のサイトであることを一見感じさせないようなデザイン・内容。ページの一番下に運営者の情報があるだけで、金融商品を直接的に勧誘するような文言は無い。

 「むしろ、明確にそういうトーンのコンテンツは入れていません」と、同社マーケティング部次長の高橋真也氏は話す。ターゲットは、1980年代生まれのビジネスパーソン。成功した著名人や起業家などのインタビューを集めた「境界線の越えかた」と、統計データをベースにこの世代の実態を分析する「80年代生まれのリアル」が、関心の高いコンテンツだという。

 メインの顧客層とは異なる年代をターゲティングし、ピンポイントな情報を発信するという思い切った戦略。KPI(重要業績評価指標)も「サイト再訪率」と「ターゲット含有率」に置いている。

 「我々がやろうとしているのは、長い時間軸でのコミュニケーション。いきなりビジネスや金融商品の話をしてしまうと、いい関係が築けない。読者目線に立った記事を配信し続けて、緩い接点を持っていこうと考えています」

野村證券株式会社マーケティング部 次長 兼 マーケティング課長 兼 宣伝課長


野村證券株式会社マーケティング部 次長 兼
マーケティング課長 兼 宣伝課長
高橋 真也氏

 資産運用のニーズが高まるのは、退職金や相続が発生する年代なので、10年から30年も先の話だ。そこまでを見越した、実に長いスパンの計画と言える。次のステップについて、高橋氏はこう語る。

 「ユーザーが回遊することができ、双方向のコミュニケーションができるようなコミュニティを、来年度には立ち上げるつもりです。ただ、何らかの別の仕掛けも必要だと思っています。我々の中では、何年後に顧客にするという発想はありません。お客さまが必要だと思った時にきちんと手を差し伸べることができる、プル型のマーケティングが求められています」

 「EL BORDE」自体も、ターゲット世代と共に成長する媒体を目指している。エル・ボルデとはスペイン語で「境界線、先端」の意味だが、10年後には、アラフォーを迎えた世代にどんなエッジの効いた情報を提供しているのだろうか。その意味でも将来が楽しみなオウンドメディアと言える。

 「金融商品というのは最もコモディティ化している商材のひとつ。どこから買うかは、その企業の姿勢や考え方にどれだけ共感しているかという部分が大きいです。共感してもらうために、いかに刺さるコンテンツを提供できるのかがコンテンツマーケティングの本質で、その方法の一つがオウンドメディアだと思っています」

会員との継続的なつながり強化を目指す パナソニック「CLUB Panasonic」

  
 成熟したオウンドメディアの代表例が、国内屈指の規模を誇るパナソニックの「CLUB Panasonic」だ。2007年のサービス開始以来、毎年100万人のペースで会員を増やし、2017年6月には1000万人を超えた。月間のアクセスは2.2億PV(ページビュー)に達する。

 開設当時の背景は、CRM(顧客関係管理)が商品やブランドによってバラバラで、サービス向上やコスト削減のために一元化する必要があったからだ。家電の愛用者登録やキャンペーン応募などのサービスに始まり、商品の動画やゲームなどのコンテンツを拡充し、成長を遂げてきた。2015年には、提携先企業とのポイントと交換できるサービス「CLUB Panasonicコイン」を導入。ネットの外でも、会員向けに商品体験のイベントやレンタルを実施し、成功を収めている。

 活動の基軸は、(1)コミュニケーションによる継続的顧客接点づくり(2)愛用者・登録者へのアンケート分析・活用による商品力強化(3)共通のIDによるネット経由の顧客サービスのワンフェース化、の3つ。クラブパナソニック運営部部長の前原伸彦氏は「ミッションは、お客さまとのつながり強化による、持続的なブランド価値の構築。つまり、パナソニックのファンづくりが、大きな目的です」と語る。

パナソニック株式会社クラブパナソニック運営部 部長


パナソニック株式会社クラブパナソニック運営部 部長
前原 伸彦氏(右)
クラブパナソニック運営部プランニング課 課長
石嵜 祥浩氏(左)

 商品と直接関係のないエンターテインメント系のコンテンツは、継続的にサイトを訪問してもらうきっかけの一つ。パナソニック商品を持っていない会員でも、さまざまなコンテンツを通じてファンになれば、購買意欲の喚起へとつながる。会員は非会員に比べて、パナソニック商品を年間約3倍も購入しているというデータもある。

 ポイントサービス導入を機に、広告事業もスタートした。これも、収益を上げるのが目的ではなく、会員活性化策だという。クラブパナソニック運営部プランニング課課長の石嵜祥浩氏は「外部の企業から広告収入をいただくことで、CLUB Panasonicコインとして会員に還元できます」と説明する。

 サイトの大きな役割は、商品を購入した会員への、アフターマーケティングの位置づけ。前原氏は「例えば、エアコンは季節の使い始めの時期に、問い合わせが殺到します。実はリモコンの電池が切れていたケースも非常に多いのですが、その情報を事前に適切に発信しておけば、余計な不安やお手間をかけることなく満足度が上がると思っています」と説明する。長期間のサポートが求められる家電商品において、前原氏が大事にしているのが「エンゲージメントの強化」だ。

 「人々の持つ価値観や情報スキルが複雑に変化しており、接触回数を増やすだけでは、継続したつながりを持つのが難しくなっていくはずです。お客さまが求めているのは、共感を持ったつながり。今後は、商品購入後の満足をさまざまな形でサポートするコンテンツも大事かなと思っています。もう一歩進んだ共感力を基軸として、お客さまとつながっていきたいですね」

■「持続可能な媒体」としてのオウンドメディア

 「社会への還元」「共感」「エンゲージメント」。オウンドメディアの運営に携わる彼・彼女らが挙げたキーワードには、長い目線で媒体を育てていくという使命感が感じられた。短期的な収益や評価を追求するのではなく、顧客や社会と末永く関係を築くことを目指す。自社が所有・運営するメディアだからこそ可能なことだ。

 将来のオウンドメディアのあるべき姿について、明治大学の牛尾氏は「SDGs(持続可能な開発目標)のような発想も求められるのではないでしょうか。会社や組織が社会に対して開かれていることを意識して、持続可能な社会に向けてそれぞれが考え、オウンドメディアの中に盛り込める余地はあると思います」と語る。

 企業や組織と共に存続していくことができる、サステイナブルな媒体。その視点を持ち続ければ、オウンドメディアは可能性はまだまだ広がると言えそうだ。

<49>燗酒と一緒に。ごまの香り味わうそば/蕎肆 穂乃香

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