マッキー牧元 うまいはエロい

<49>燗酒と一緒に。ごまの香り味わうそば/蕎肆 穂乃香

 

そばは「せいろ」に限る、と通人は言う。
確かにそばの香りは「せいろ」が一番わかりやすいが、力あるそばは温かくても種物でも生きる。

例えばこの「両国黄金そば」である。

 

丼に注がれた温かいそばつゆは、なじみのある醬油色ではなく、ベージュ色である。
糸唐辛子があしらわれたそのお姿は、担々麺と言ってもわからない。

そば通なら、邪道と言われそうだが、これがクセになる。
かつおだしにごまペーストが混ぜられたつゆは、ごまの香り高く、ほの甘い。

この優しい甘さを絡めながら口元に上ってくる、そばの感じがいい。
冷たい時のようなコシの強さはないものの、しなやかな歯ごたえが、ごまの優しさと合う。

 

温められて風味を強め、ごまの香りと抱き合って、「せいろ」の時にはなかった、かすかな色香を漂わす。
きりりと締まったそばもいいが、とろりとした温かみに包まれて少し緩んだそばもいい。

凛々(りり)しさもいいが、たおやかさも捨てがたい。
そう思わせるいとおしさがある。

「つうっ」「ずるる」。
と、唇を通過するそばが、次第になくなっていくのが寂しくなる。
特に寒い時期には、食べたくなる。

 

今の時期なら、寒さに堪えて甘さを強めた千住葱(ねぎ)を使った、ワカメやタコと合わせた「江戸千住葱のぬた」や、そのネギを炒めて鶏肉つくねの照り焼きと合わせた「つくね」を頼み、燗(かん)酒を一本やる。

あるいはプックラと膨らんだ「牡蠣の天ぷら」でビールをやるのもいい。

 

その後、「小さいせいろ」でのどを引き締め、爽やかな気分になったところで、「両国黄金そば」1080円を頼む。

体に滋養が満ちていく感覚に目を細めながら食べ終え、外に出れば、もう寒風など気にならない。

蕎肆 穂乃香(きょうし ほのか)

両国でそばといえば、東京屈指のそば屋「ほそ川」が有名だが、この店もなかなかいい。路地にひっそりとあって、昼時に出かけるとカウンターでは初老の紳士が、燗酒を傾けながら肴(さかな)をつまみ、文庫本を読んでいた。そばは自家製石臼ひきで、訪れた日は、少し草のような野趣が香る、栃木県真岡市の常陸秋そばだった。
「小さいせいろ」520円、「牡蠣の天ぷら」1180円、「江戸千住葱のぬた」520円、「両国黄金そば」1080円

【店舗情報】
東京都墨田区緑1-25-7
http://kyousi-honoka.com/index.html

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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