20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”

ソウル生まれ東京育ち 新世代の音楽クリエーターYonYonの時代を変える挑戦

20代ミュージシャンたちの「譲れない価値観」に迫る特集第2弾。今回はDJ 、シンガー・ソングライターとして国内外で活躍するYonYon(ヨンヨン)が登場する。

彼女はプレーヤーとしての活動のほかに、「BRIDGE」という名義でイベントプロモーターも行っている。クラブイベントを自ら企画、運営するアーティストは珍しくないが、海外アーティストを招請し、国内でのアテンドまでを積極的に行う人は極めて少ない。

クリエーティブなアーティストでありながら、裏方として泥臭い仕事もこなす。このどこか相反するスタンスを両立するYonYonに活動の信念を聞いた。

困っている人を見過ごしたくない

――YonYonさんはミュージシャン、DJでありながら、イベントプロモーターもされていますよね? これらは片手間でやれる仕事ではないと思います。なぜこのような活動スタイルになったんですか?

YonYon 大きなきっかけとなったのは大学時代、韓国に留学したことです。大学からDJとして活動を始め、せっかくなら韓国でもプレーしたいと思いました。けど知り合いなんて誰もいないから、自分のミックスCDを片手にいろんなクラブを回ったところ、イベンターやクラブ関係者、DJたちと仲良くなったんです。

帰国後も彼らからは頻繁に連絡がありました。その内容は「いま韓国でカッコいい海外アーティストを呼んでいるから日本でも一緒に何かやれないか?」といったこと。私がメインで活動しているアンダーグラウンドなヒップホップやビートミュージックのシーンはまだまだ規模が小さいから、自分たちのクラブイベントにブッキングした海外アーティストを身近な同業者に紹介することはよくあります。「一緒に面白いことやろうよ」みたいな感覚ですね。

あとは、韓国の人たちはつながりをとても大切にするから、私が帰国してからも連絡をくれたというのもあると思う。私としてはせっかく声をかけてくれているのだし、放っておくわけにはいかないと思って、イベントプロモーターみたいなことをやり始めたんです。

――イベントプロモーターはかなり大変な仕事だと思います。アンダーグラウンドな海外アーティストの場合、そもそもブッキング先を見つけることが難しいだろうし、来日した際には滞在場所の手配などもしなくてはならない。YonYonさんはプロモーターとして手数料をもらっていたのですか?

YonYon いいえ。BRIDGEを立ち上げる前までは完全に無償でやっていました。

――良質な音楽を日本に紹介することは重要ですが、自分にとって労多くして功少なしと感じることはありませんでしたか? もしも私がYonYonさんの立場なら、やんわりと受け流すと思います。

YonYon そのままにはしておけない質なんですよ。みんながやりたがらないことを見過ごすのが嫌なんです。

――なぜそういう性格に?

YonYon 一つは両親の教育ですね。うちはとても厳しくて、私は生まれた時から「あなたはリーダーになりなさい」と言われ続けてきたんです(笑)。小さい頃はピンとこなかったけど、徐々に当たり前のようにいろんなことを率先してやるようになりました。

もう一つは、父の仕事の関係で小学生の時に日本と韓国を行ったり来たりしてたから。日本にいると韓国の名前をからかわれ、韓国では言葉の発音でいじめられました。そういう環境で生き抜くには、積極的に自己主張をしていくしかない。黙っているといじめはどんどんエスカレートする。誰も助けてくれないから、負けないためには強くなるしかなかった。その経験が根底にあるから、私は困っている人を見過ごしたくないんです。

  

震災で中止になった大学の入学式をクラブで自主開催

――厳格な家庭で育たれたようですが、ご両親はよく音楽活動を認めてくれましたね。

YonYon もちろん紆余(うよ)曲折ありました。私、もともとシンガーになりたかったんですよ。クリスチャンなので小さい頃から教会で歌っていて、人前で歌うのが好きでした。それで親に内緒でいろいろとオーディションを受けていたら「契約しよう」というお話をいただいたんです。ところが両親に相談したら「勉強もできないやつが音楽なんてできるわけない。本当に音楽がやりたいなら、学年でトップ5の成績をとりなさい」と言われまして(笑)。

当時通っていた学校は中高一貫校で、韓国の超一流大学を目指す人たちが集まっていました。韓国では命を賭けて大学受験に挑む人たちがたくさんいるから、その人たちと競わなくてはいけなかった。一学年100人くらいいる中、私の成績は40位くらい。そこから必死で勉強しました。授業でわからないところがあったら、休み時間に先生をつかまえて、わかるまで教えてもらって。学校の勉強だけでは足りないから塾にも通っていた。両親が「塾なんか行かずに自分で勉強して大学に受かりなさい」という教育方針だったので、バイトして、自分で塾代を払っていました。 そんな感じで、高校3年生の最後についにトップ5に。我ながら奇跡だったと思います。それで音楽活動を認めてもらいました。けど、おそらく親は私が一生の仕事として音楽をやるとは思ってなかった。つい数年前まで、DJのプレーが終わったら、深夜2時にお迎えの車が来て、自宅に連れ戻されたりしてましたからね(笑)。でも私がメディアに露出する機会が少しずつ増えてくると、ようやく本気だと気づいてくれました。

――シンガー志望だったYonYonさんがDJやクラブと関わるようになったのはなぜですか?

YonYon 日本の大学に入学した後、新歓シーズンにキャンパスを歩いていたら、突然「音楽を爆音で自由に聴きませんか?」とDJサークルから勧誘を受けたんです。歌うことはもちろん、音楽を聴くことも好きだったから、色んな人と好きな曲を爆音で共有できるのはすごく良いなと思いましたし、実は大学の入学式をクラブでやったこともあって、ちょっと興味があったんです。それで、そのまま入会しました。

  

――大学の入学式をクラブで?

YonYon 大学入学は7年前。当時、東日本大震災の影響で卒業式や入学式を自粛した学校が多く、私の大学も入学式が中止になってしまったんです。mixiにあった大学のコミュニティー掲示板も大荒れ。「大事な門出なのに」「スタート地点がなくなるなんて」みたいな。

私はなんとかしたいと思って、友達が多そうな子たちに「自分たちで入学式やろう」とmixiで呼びかけたんです。本当は真面目なホールを借りようと思ってたけど、空いてなかったから仕方なく渋谷のクラブでやることに。そしたら結果的に600人も来た。新入生が3000人いたので、5人に1人は来た計算ですね。もう汗だくになったけど、みんなが喜んでくれたのがすごくうれしかった。

そんな経緯もあって大学でDJサークルに入って、クラブミュージックに関わるようになりました。

主張する勇気を持っている人がカッコいい

――YonYonさんは、DJとしてキャリアをスタートさせ、シンガー・ソングライター、イベントプロモーターと活動の幅を広げていかれたわけですが、今やその枠に収まらないことにも取り組まれていますよね。昨年、日韓の注目すべきプロデューサーとシンガーをつなぎ、制作した楽曲をフリー音源として配信・プロモーションしていくプロジェクト[The Link]を立ち上げ、この3月にはその第一弾楽曲「Period(過程)」を発表しました。

YonYon [The Link]を始めた背景にあるのは、業界の現状に対する問題意識です。イベントプロモーターの仕事を通して思い知ったのは、知名度が低く、大きな集客が見込めないアーティストは、いくら才能があってもなかなか招請できないという現実。特に日本では、海外のアーティストはクラブ側に拒否されてしまいます。

では、私の周りにいる、まだ世に出ていない才能あふれる韓国の若手アーティストを音楽ファンに紹介するにはどうすればいいのか、と。 まずは彼らの知名度を上げなくてはいけないと思いました。そのためには私が媒介になって、日本のアーティストとコラボさせて曲をつくってもらうのが早い。「Period(過程)」という作品はそういうところからスタートしました。

[The Link]に関しては、参加アーティストの優れた点を引き出し、より多くのファンに知ってもらうことが目的で、私の音楽性を披露したいという気持ちはありません。カッコいい曲をつくって、私がカッコいいと思う友達を日韓それぞれで紹介したい。

――YonYonさんは自分の個性を存分に発揮した作品をつくりたいとは思わないのですか?

YonYon もちろんいずれは私自身もソロアルバムをつくりたいと思っています。アーティストとして、ある程度の立ち位置を整えてから自分の作品を出していきたいです。というのも、今の日本の状況では、私がやっていきたい音楽の方向性がどう受け入れられるか見えないところもあって。

先ほど言った通り、私が音楽的に共感するアーティストやトラックメーカーはまだ日本では評価が低く、イベントへの招請も実現できなかった。それを考えると、まずは環境を整えることから始めた方がいいのかなと。The Linkはそのためのものです。 私が優れていると思う人を世に広めることは、将来自分が活動しやすくなる環境を整えていることでもあります。他の人がやらないなら、たとえ微力だとしても自分でやろうと思う。

――とても冷静なんですね。これまでの人生で挫折したと感じたことはありますか?

YonYon あまりないかも……。もちろん壁にぶち当たることはありますけど、それで折れたりはしませんね。やりたいことを実現できないなら、それは自分の努力が足りないからだと思います。

――YonYonさんはどんな人がカッコいいと思いますか?

YonYon いますぐ結果が出るかどうかはわからなくても、自分がいいと思ったものをいいと言える人。相手を認めるということは、同時にリスクを負うことでもある。それくらいの勇気を持てる人がカッコいい。何かをする勇気を持っている人、主張する勇気を持っている人。

――それがYonYonさんにとっての譲れない価値観でもある?

YonYon 私はそんなに強い人間ではありません。何か言う時には勇気を振り絞ってるし、行動する時もいつも本当にいろいろ悩んでいます。周りの人が気になって、やっぱり止めようかなと思うこともあります。けど、大切な友人が「自分がやってることに対して、自分が誇りを持てれば、それでいいんじゃない?」と言ってくれたことがあって、その言葉は本当に私の励みになった。これからの人生でも大切にしていきたい考え方です。もしも何か言いたいことややりたいことがあるのに、周りが気になって行動できない人がいたら、この言葉を思い出してほしい。きっと、心が軽くなるはずです。

(文・宮崎敬太 撮影・寺沢美遊)

プロフィール

YONYONさん写真

YonYon(ヨンヨン)
ソウル生まれ、東京育ちのクリエーター。DJ、ラジオDJ、音楽プロデューサー、シンガー・ソングライター、プロモーターとしてマルチに活動。2011年にDJとして活動を始め、Future Beats、Hip Hop、UK Bass、House、Technoなどをミックスするスタイルが海外でも高い評価を受ける。清涼感のある歌声を生かし、国内外のアーティストの楽曲にフィーチャリングで参加するなど、シンガーとしても活動を拡大。近年はBRIDGEのディレクターとしてアーティストのブッキング、イベントの企画、制作なども手がける。

PROFILE

  • 「20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”」ライター陣

    宮崎敬太、阿部裕華、張江浩司

  • 宮崎敬太

    1977年神奈川県生まれ。音楽ライター。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」で編集と執筆を担当。2013年に巻紗葉名義でインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』を発表した。2015年12月よりフリーランスに。柴犬を愛している。

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