体重は落としても○○は落とすな! ダイエットとマラソンの決定的な違い
文: 山口一臣

Photo : Martinan / Getty Images
ランニングを始める動機として「ダイエット目的」というのがいちばん多いと、以前何かで読んだ記憶がある。確かに私の周囲にも「痩せるために走り始めた」という人は少なくない。実際、マラソン大会で見かけるエリートランナーたちは男子も女子もみんなスラッとした美しい体形だ。自分もあんなふうになりたいと憧れることはしばしばだが、ここで勘違いしてはいけないのは、彼・彼女らはダイエットのために走っているのではなく、走るためにスリムになっているということだ。
私自身を振り返ると、この連載で何度も書いているようにランニングを始める前は174cmの身長に対して体重が82kgという典型的なメタボおやじだった。はじめのうちは、走ることで体重が減っていくのが面白くてモチベーションにもなっていた。それが、やがてレースに出るようになると、タイムが欲しくて減量の必要性を考えるようになっていった。ダイエット目的で始めたランナーの中にも、私と同じような経緯をたどった人は多いはずだ。そこで今回は、マラソンランナーにとっての「体重管理の基本」について考えてみようと思う。
マラソンは「体重が軽ければ軽いほどいいタイムが出る」と多くのランナーは経験的に知っている。前にも紹介したが、『スロージョギング健康法』(朝日新聞出版)の著書がある福岡大学スポーツ科学部の故・田中宏暁名誉教授によると、体重が1kg減るとフルマラソンのタイムが3〜5分縮むという。これは最大酸素摂取量をもとにした計算だが、学校で習った物理の公式を使っても簡単に説明できる。mという質量の物体をvという速度で動かすのに必要なエネルギー(K)を導く計算式“K=1/2mv^2”だ。
この式を移項して速度(v)を導くように解き直すと、“v^2=2K/m”となる。つまり、スピードを上げるには質量(m=体重)を小さくするか、運動エネルギー(K=筋力)をアップするかのどちらかということになる。車に例えるならば、同じ出力のエンジンなら車体が軽い方が速いし、車体の重さが同じならエンジンの出力が大きい方が速いというのと同じ理屈だ。ここで重要なのは、速く走るためには体重(m)を落としても筋肉(筋力=K)は落としてはいけないということだ。ここが一般のダイエットと決定的に違うところである。
「筋肉量を減らさず体脂肪を減らす」有効な方法
人間のカラダは大雑把にいうと、水と筋肉と体脂肪でできている(あと骨か)。これが「体重」の正体だ。カラダの重量が落ちるには、「水分が減る」「筋肉が減る」「脂肪が減る」の3つのことが考えられる。
このうち水分は人間のカラダの約7割を占めていて、いちばん重い。以前、この連載で「人間塩出し昆布マラソン」という炎天下を走ってどれだけ体重が減るかを競うレースを紹介したが、これは単に汗で体内の水分が減っただけの話だ。水分を減らすという行為は脱水症状につながり非常に危険だ。運動で失った水分はすぐに補給しなければならない。かつてはサウナでダイエットという話もよく聞いたが、絶対にやめた方がいい。
そうなると、ランナーにとっての減量の理想形は、筋肉を減らさないようにしながら体脂肪を減らすということになる。そのためには、ズバリ次の3つの方法が有効だ。
(1)ランニング(有酸素運動)で体脂肪を燃焼させる
(2)筋力トレーニング(筋トレ)で筋肉量を増やす
(3)バランスを考えながら「食事の量」を抑制する
ここでまず押さえておきたいのは、体重を減らす基本は、食事から取り込む「摂取カロリー」よりも運動や生命維持のために使われる「消費カロリー」が上回ること、つまりカロリー収支をマイナスにするということだ。
世の中には実にたくさんのダイエット法が流布しているが、この基本を外れるものはすべて怪しいと思ってさしつかえない。いまから10年ほど前、納豆を20回かき混ぜて食べるだけで痩せるという“珍説”が日本全国を席巻したことがあったが、ほどなくうそだったことがバレている。「カロリー収支のマイナス」は減量のための絶対条件なのである。
上記の(1)と(2)で消費カロリーを増やし、(3)で摂取カロリーを抑えることで、収支をマイナスにしようというわけだ。そんなに難しい話ではない。

ロンドンマラソンに向けて減量をした。アプリを使うと簡単に記録ができる
では、ランニングによってどれくらいのカロリーが消費できるのかというと、一般に1km走ると体重1kgあたり1kcalを消費するといわれている。私はいま69kgあるので、1kmにつき69kcalを消費すると推定できる。前出の田中名誉教授の本によると、体脂肪1kgは約7000kcalのエネルギーを蓄えているという。つまり私の場合、月に100kmちょっと走れば体脂肪を約1kg減らせるという計算になる。
ここで注意したいのは、脂肪燃焼に適した運動の強さ(運動強度)があるということだ。運動強度は心拍数によって測られる。心臓の鼓動が速くなればなるほど、強度の高い運動をしているということになる。心拍数がどんどん上がって「もう、これ以上は無理」という数値が最大心拍数で、その40〜60%が脂肪燃焼ゾーンと言われている。
最大心拍数は本来なら限界まで追い込まないとわからないが“220−年齢”という計算式でおおよその見当をつけられる。私は57歳だから、220−57=163が最大心拍数だ。その60%は97.8だから、心拍数がそれ以上にならないようにゆっくり走ればいいということだ。これはかなり楽である。
ただ、実際は計算通りにいかないことがある。というのは、ランニングなどのトレーニングを始めることで筋肉量が増えることがあるからだ。体脂肪が1kg減っても、新たに筋肉が1kg増えれば体重自体はイーブンだ。とくにトレーニングを始めた当初はそうなりやすい。一生懸命走っているのに、かえって体重が増えることさえある。
今回はこうした理屈を実践するための工夫や便利グッズの紹介をしようと思っていたのだが、すでに字数がだいぶオーバーしてしまった。続きはまた、次回。お楽しみに!