ミレニアルズトーク Millennials Talk

未来を設定せず生きていく 石井リナ×吉田拓巳

  

SNSコンサルタントの石井リナが、ミレニアル世代を掘り下げる連載「石井リナのミレニアルズトーク」。ミレニアル世代の中でも1990年前後に生まれた人間は、現在27歳前後。社会に出て数年たち、ネットネイティブで育った柔軟な感覚で様々な新しい働き方に取り組んでいる。 中学時代はガラケーを持ち、インターネットとともに育ってきたミレニアル世代たちは、どんな価値観を持ち、それはどのように形成されてきたのか。バブル世代とジェネレーションZのハザマに生まれ、双方のハブとなり得る存在のミレニアル世代を深掘る。 合田文さんをお招きした前回に続き、今回は、15歳で起業し、現在は“未来の移動体験”を提供するサービス「nommoc」のローンチを準備する起業家・吉田拓巳さんとミレニアルズの価値観を探っていく。 吉田氏が起業したのは、「今の価値を最大化したいから」。いつかは……と宣言するよりも先に、今できることをすることが、「面白い人生を送れる」と考えたのだという。未来ではなく、今を見つめるミレニアルズの思考に迫った。

100%より、アップデート。ネット的思考回路とは

石井リナ(以下、石井):拓巳くんと価値観の話を始めるにあたっては、まず「Teens Opinion」についての話は欠かせないよね。15歳で起業をする前に「Teens Opinion」を立ち上げたと聞いているけど、そもそものきっかけを教えてください。

吉田拓巳(以下、吉田):ちょうど選挙が始まるタイミングで、街中では街頭演説が行われていたり、選挙カーが大音量で走っていたりするのを目にしたんです。でも、そもそも僕らは選挙権を持っていないし、そもそもこの選挙活動のスタイルが時代に合っていないと感じました。「もっといい方法があるはずだ!」と直感的に思ったんですよね。

石井:街中で公約を叫んでいても、誰も聞いてないよね……ってことだよね? 吉田:そうです。「若い人の声を……」なんて叫んでも、そもそも若い世代と政治の接点はほとんどないじゃないですか。そうしたことを踏まえて、若い世代が政治と接点をつくれるプラットフォームを作ろうと起案しました。 参政権がなくて投票ができなくても、インターネットがあれば、声を上げることができます。政治を変えたいと思っていたというよりは、もっと良いやり方があるはずだし、単純に「面白いことができる」と考えていました。

  

石井:たしかに、「政治を知らないと、政治について発言してはいけない」という雰囲気は今でもあるよね。そういった意味で、「Teens Opinion」は社会に問いを投げかけるきっかけになったと思う。

吉田:ネットの良いところは、アップデートができること。最初は無知でも、やっていくうちに知識がついてくる。知識がついたらまた少しずつやり方を修正していけばいいじゃないですか。今、政治について知っていることが大事なのではなく、まずはやってみればよいじゃないかと。僕ら世代は思考回路がネット的なので、まずは行動に移したほうが得だと考えるんです。

石井:なるほどね。たしかにそうした動きは私も実感してます。最近よく「フェミニズムについてどうお考えですか?」という取材も受けるようになったけれど、日本でフェミニズム活動をしてきた方はたくさんいらして、もちろん私より詳しい人もたくさんいらっしゃる。それでも、事業(編注:女性向けエンパワーメント動画メディア「BLAST」)を起こしたことで、意見を求められるようになったんだよね。 次第に私も詳しくなり、自分なりの意見も持つようになってきた。アップデートありきな、ネット的な思考でアクションを起こすのは私たち世代の特徴かもしれないよね。

吉田:極論、100点満点のアウトプットをしなくてもいいと思う。まずは始めて、少しずつ足してけばいいし、間違っていたら変えればいいか、くらいのマインドセットでいます。

未来を見つめたら、チープになる。今を見つめる理由

石井:「Teens Opinion」は、「面白いことができる」と考えたことがきっかけだった、といま伺いました。いまローンチの準備中の、無料のタクシー「nommoc」も、同じような理由から起業しているのかな?

吉田:そうですね。社会をどうこうするというよりは、自分が面白いと思う世界をつくりたくて、事業を起こしています。もちろん、その結果、社会がより良くなることが理想ですけどね。 よく「10年後に、こんな未来を実現します!」という声を聞きますが、僕は未来を設定することにあまり興味がありません。思考やビジョンは常にアップデートされるものなので、今つくった未来の目標に突き進んだら、少しチープな自分になってしまう気がするからです。10年後に振り返ってみたら、過去の自分が構想した未来なんて、たいしたことのないものです。だから、今自分が思いつくことは、今すぐにやっちゃう。思いつく範囲のことは、今すぐにできることのはず。今の自分が持っている価値を最大化する方が、よっぽど面白いと思います。

  

石井:15歳で会社を設立したのも、そうした理由が関係しているの?

吉田:そうですね。会社をつくる前はサッカーをしていて、県の選抜メンバーになったことがあります。でも、同じように選ばれた選手が、あと46都道府県にいるわけですよね。そう考えたら、勝つのは難しいと思ったんです。それなら、誰もやっていないことをした方が、得なんじゃないかと考えました。 僕よりサッカーが上手い人はたくさんいますが、この年齢で会社を設立する人は多くありません。特にビジョンがあったわけでもなく、まずは始めてしまおうと決めました。

石井:「まずは始めてみる」という拓巳くんの考え方は、今振り返っても間違いなかったと思う?

吉田:もちろんです。今もよく「起業のアドバイスをお願いします」なんてメッセージをもらいますが、彼らと僕に差があるとすれば、“やっているか、やってないか”くらいなんですよね。僕はとりあえず始めたことで、事業を成長させるための知識も身についていったので、とにかく得をしていると思います。

これから重宝される人間は、ジェネラリストより、スペシャリスト

石井:拓巳くんが起業した当時は、今よりももっと起業することへのハードルが高かったと思うの。ただ、時が経つにつれ、起業することも、フリーランスになることも容易になっていると思います。パイが増えたことも関係していると思うけど、今ではフリーで働く人も多くなったよね。今後も、こうした流れは続いていくと思う?

  

吉田:そうですね。一言で言うなら、社会は「細分化していく」と思います。アメリカでは、組織は「何かに長けた人」同士で形成することが当たり前です。例えば、Apple社は圧倒的なスキルを持つエンジニアや、デザインのプロを採用します。もしその人が他のことができなくても、そこは別の人材で補えばいいと考えているからです。 一方、日本では、“それなりになんでもこなせる”ジェネラリストが集まって組織をつくります。だから、動き出しがとても遅い。これからは、日本でもスキルを持った個人が集まる“チーム単位”で動くやり方が社会の主流になっていくと思います。

石井:「個人の時代」なんて言葉をよく耳にするけど、今後は「チームの時代」かもしれないね。

吉田:「個人の時代」といっても、1人で完結する仕事なんて、世の中にはほとんどありませんからね。これからは、いろんな人がくっついたり、離れたりしながら、プロジェクトが進んでいくと思います。ですから、従来の会社組織とは働き方も変わってくる。挨拶ができなくていいし、スーツを着るのが嫌いでもいいし、遅刻してもいい……そんな時代になってきているのではないでしょうか。 役割が細分化される未来がやって来るのなら、ひとつのことで突き抜けるのがいいかな、と思います。そこで仕事が一つできますし、一度突き抜けた人は、再現性を持ってまた突き抜けることができるので。 

<対談を終えて>
いわゆる“正解”がある時代に、私たちは生きていない。「いい大学を出て、大企業に就職すれば幸せになれる」という大企業に対する“信奉”も、とうの昔に過去のものになった。私たちが生きているのは、画一的な幸せを盲信する時代ではないのだ。「社会は細分化していく」という彼の言葉が意味するものを、だれもが深く考えてみるべきなのではないだろうか。

(文:小原 光史、写真:小林 真梨子)

「生産性がない」「同性愛は趣味」と言われて 石井リナ×合田文

トップへ戻る

ロールモデル不在の時代。女性に多くの選択肢を 石井リナ×福田恵里

RECOMMENDおすすめの記事