マッキー牧元 うまいはエロい

<62>うますぎて笑うしかない つやと気品に満ちた“日本一”のハヤシライス

  

一口食べて、力が抜けた。体中の筋肉が弛緩(しかん)して、へなへなとなっていく。顔は崩れ、一人だらしない顔をしてほほ笑んでいる。

次にご飯と混ぜてみる。光り輝く、甘いご飯と出会ったソースは、がぜん力を発揮し、うまみが丸くなる。再び力が抜けて、笑う。もう笑うしかないのである。

麴町のフランス料理店、「オー・プロヴァンソー」のハヤシライスである。昼だけ、コース仕立てであるが、この極上のハヤシライスがいただける。

焦げ茶色に輝くハヤシライスのソース

焦げ茶色に輝くハヤシライスのソース

古典フランス料理の知識と技術に精通した達人、中野寿雄シェフが渾身(こんしん)の力を込めて、作り出すハヤシライスは、2日間かかる。上質な和牛と、たっぷりの赤ワインやベルモット、香味野菜、フォンドヴォーなど、ソースで魅了するフランス料理の意地が詰まった、ハヤシライスなのである。

その輝く焦げ茶色のソースは、美しい酸味を隠しながら、うまみと甘みが膨らんでいく。酸味も甘みもうまみも丸く、混然一体となりながら舌を抱きすくめる。ご飯の甘みと舞いながら、人間を無力にする。

肉はといえば、舌の上に乗った瞬間に、ほろりと崩れて跡形もない。だが肉の味と香りの余韻を残し、ソースと一体となって、高みに上っていく。街場のハヤシライスが高校生だとしたら、円熟味が出だした貴婦人である。だからつやがあり、気品があり、エレガントに満ちている。そう。日本一のハヤシライスである。

ランチコースの前菜のひとつ、ホタテ貝とツブ貝のタルタルレモン風味

ランチコースの前菜のひとつ、ホタテ貝とツブ貝のタルタルレモン風味

デザートは各種のケーキがワゴンに並び、好きなだけ選べる

デザートは各種のケーキがワゴンに並び、好きなだけ選べる

オー・プロヴァンソー

オー・プロヴァンソー

ハヤシライスは、お昼のみ提供。ハヤシライスのコースは、4620円。高いと思われるかもしれないが、料理を知っている方なら、たとえこれがハヤシライス一皿の値段でも、そこにかけた時間と材料を考えれば、適正価格だと思うはずである。一流とはそういうものだ。しかも華やかな前菜が、5~6種類から選べ、デザートは、好きなものを何種類でも選べる。この値段で、日常にはないぜいたくな、かけがえのない時間を過ごせる幸せが待っている。

【店舗情報】
東京都千代田区平河町1-3-9
03-3239-0818
半蔵門線「半蔵門」駅 徒歩3分 有楽町線「麴町」駅 徒歩2分
営業時間:11:30~14:00(L.O.)/17:30~21:00(L.O.)
定休日:日曜(祝日不定休)
ウェブサイト:http://www.aux-provencaux.co.jp/

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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