マストリスト

ファッションのアウトドア化を推し進める「新素材開発ブーム」 スノーピークで聞いた背景

アウトドアウェアが日常着の定番となりつつある。週末だけでなく、ウィークデーのオフィス街でも、アウトドアブランドに身を包んだ男性を見かけることが少なくない。アウトドアファッションは、なぜ「来て」いるのだろうか。

【関連記事】メンズファッションが妙にアウトドア化しているのはなぜ? ノースフェイスから見た「変化」

「ザ・ノース・フェイス」に取材した前回の記事に引き続き、今回も同じテーマで、新潟県三条市発のアウトドアメーカー「スノーピーク」を取材。同社でアパレルの開発などを担当する菅純哉(すが じゅんや)さんに、ブームの背景について聞いた。

アウトドアと日常のラインが曖昧になってきている

メインデザイナーの山井梨沙さんと共にアパレルラインの立ち上げに携わった企画開発本部の菅純哉さん。有名コレクションブランド専門の生地メーカーを経て、スノーピークに入社した

メインデザイナーの山井梨沙さんと共にアパレルラインの立ち上げに携わった企画開発本部の菅純哉さん。有名コレクションブランド専門の生地メーカーを経て、スノーピークに入社した

スノーピークが日常着としても使えるアウトドアウェアの展開をスタートしたのは2014年のこと。野外フェス文化も浸透し、男女問わず幅広い世代が気軽にアウトドアを楽しむようになり、人気セレクトショップでアウトドアウェアを取り扱うことが “常識”になりつつあった。そんな中、創業者の孫であり現社長の山井太さんの娘である山井梨沙さん(現・メインデザイナー)と菅さんの2人は、街と自然の境界をなくすような、気軽にアウトドアライフを楽しむための洋服を作ることになった。

「ここ数年のファッションのアウトドア化は、キャンプが以前にも増して身近で日常的な存在となった、言い換えれば都市に近づいた結果と言えるかもしれません。スノーピーク・アパレルのコンセプトは“HOME⇄TENT”というもの。究極的なことを言えば、誰もが仕事帰りに直接キャンプ場に向かえるような、日常の延長線上にあるアウトドアウェアを作りたいと、我々は考えています。つまりアウトドアに耐えうる機能性があって、さらに日常生活でも支障なく着ることのできる洋服を生み出していきたいと思っています」(菅さん)

ファッションのアウトドア化は、そもそもアウトドアライフを日常の一部と捉える人が増えていることと関連していると菅さんは語る。実際、いままでスノーピークのユーザーではなかった若い人たちが、アパレルをきっかけにアウトドアにハマるケースが増えてきているという。

「日常で着られるアウトドアウェアを作ることをテーマにしている我々からすれば、大変うれしいことです。今までキャンプと縁がなかった方がウェアから入って、キャンプを好きになっていただければと」(菅さん)

各メーカーがこぞって開発 進化するハイテク素材

菅さんは「超」がつく古着好き。スノーピークのウェアにもマニアがうなるディテールをさりげなく取り入れているという

菅さんは「超」がつく古着好き。スノーピークのウェアにもマニアがうなるディテールをさりげなく取り入れているという

アウトドアウェアが定番化するに伴い、近年はアパレルウェアの素材が急激にハイテク化しているという。アウトドアブランドだけでなく、その波は一般のアパレルブランドにも及んでいるようだ。

「実は今、ファッション業界で新素材ブームが起きているんです。語弊があるかもしれませんが、洋服のデザインは出尽くしてきたところがある。そんな中でアパレルメーカー各社が注目したのが、着心地や機能面を高めてくれる“ハイテク素材”なんです」(菅さん)

ファッション業界の中で服の形(=見た目)だけでなく、中身(=機能性)を重視する傾向が生まれ、それに応じる形で、登山などのアウトドアスポーツに特化した機能性素材を手掛けてきた合成繊維メーカーが、機能とファッション性を両立した新たな素材を開発するようになっているのだ。

「例えば、一般的に合成繊維は“フィラメント”と呼ばれる一本の糸を織って生地にしていくのですが、ファッション性を損なう光沢が出てしまう。そこで、わざわざ繊維を切ってマットな質感の天然素材っぽく見せてファッション性を担保するようになっているんです。これは機能や効率だけを考えていたら出てこないアイデアだと思います」(菅さん)

(一般の)アパレルメーカーの要望から、合成繊維メーカーに新しいアイデアが誕生する。そこで生まれた新たな素材がアウトドアブランドにも影響を与え、よりアウトドアブランドのファッション性を高める。こうして業界やブランドの垣根を越えて、有機的なつながりや相乗効果が生まれている。このブームを俯瞰(ふかん)して眺めてみると、そんな構図が見えてくる。

ファッション性や日常使いにこだわるアウトドアブランドであるスノーピークもまた、素材メーカーと協力してオリジナルの素材を作っているという。

「大変ありがたいことに、我々の本拠地である新潟県内のメーカーさんはもちろん、日本各地にある優れた技術を持った中小企業さんからも、お声がけいただいています。実際にお会いして、打ち合わせをする中で新しいアイデアが生まれることも結構多いんですよ。メーカーさんと共同作業をしている感覚は強いですね」(菅さん)

人気アイテムである「ホールガーメントニットパンツ」も、スノーピークの地元である新潟の企業との共同作業で生まれたもの

人気アイテムである「ホールガーメントニットパンツ」も、スノーピークの地元である新潟の企業との共同作業で生まれたもの

キャンプをはじめとするアウトドア・アクティビティが若者のライフスタイルに浸透し、またアパレルメーカーと合成繊維メーカーが新素材を生み出し続けている。こうした流れが本格アウトドアブランドのものづくりに影響を与えていることは言うまでもないだろう。今、ユーザー、ファッション業界、アウトドア業界、繊維業界がお互いを巻き込む形で、日本のファッションに巨大なうねりが生まれているのかもしれない。

「焚火台」は、スノーピークの先見の明を象徴するアイテム。直火での焚火が当たり前だった発売当初は売れ行きが芳しくなかったが、今やキャンプの必需品となっている

「焚火台」は、スノーピークの先見の明を象徴するアイテム。直火での焚火が当たり前だった発売当初は売れ行きが芳しくなかったが、今やキャンプの必需品となっている

Snow Peak(スノーピーク)公式サイト
https://www.snowpeak.co.jp/

取材・文 吉田大
撮影 今井裕治

 
 

PROFILE

吉田大

ライター・編集者。大学卒業後、児童書出版社勤務を経て、フリーランスに。ファッション、アート、音楽、ストリートカルチャーから、政治経済、社会問題、テクノロジー、グルメに至るまで、多岐にわたるジャンルにおいて、長年にわたり執筆活動を続けている。趣味は自転車と立ち食いそば店めぐり。お酒や煙草を嗜まないストレート・エッジな生活を送っている。

スノーピークの美脚ニットパンツ
ニット界の“3Dプリンター”が生み出すはき心地

一覧へ戻る

アウトドアファッションのこれから 先駆者・木村東吉が語る

RECOMMENDおすすめの記事