ミレニアルズトーク Millennials Talk

まず友達になろうよ。性別を超えて「人」と向き合うこと
石井リナ×中里虎鉄

社会問題からセックスまで。現代を生きる女性に様々な選択肢を提案するエンパワーメントメディア「BLAST」。その運営会社であるBLAST Inc.のCEOを務めながら、SNSコンサルタントとしても活躍する石井リナが、ミレニアル世代にフォーカス。<br>特に1990年前後に生まれた人は、インターネットネイティブな環境で培った柔軟な感覚で、様々な新しい働き方に取り組んでいる。学生時代にガラケーを持ち、インターネットの普及とともに育ってきた人々は、どんな価値観を持ち、何を思考しているのだろうか。世代の狭間に生まれ、時にハブとなり得る「ミレニアル世代」を対談形式で深掘りする。<br>今回は、フォトグラファーとして活動する中里虎鉄との対談。「男性の解放」を掲げ、アートフォトやZINE「ダンセーカイホー」を制作する表現者だ。自身の活動やセクシュアリティーについて話しながら、男性と女性それぞれの「解放」や、仮想敵をつくるのではなく、「友達になる」ということの希望が語られた。性別を超えて人と向き合うことを体現する二人のトークをお届けする。

社会に向けているけど、同時に自分に向けてもいるんです

石井:虎鉄くんの最近の活動について、まず教えてください。

虎鉄:フォトグラファーとして、メディアでの写真撮影などを行っています。一方で、アートフォトだったり、ZINEの制作だったり、アーティストとしての活動もしていきたいと思っていて、写真に限定せず、「男性を解放する」というメッセージをさまざまな形で表現していきたいと思っています。

石井:男性も多様でいい、というメッセージにすごく共感しているよ。私が運営するメディア「BLAST」は女性たちの解放を目的としていて、向けている相手が違うだけで、メッセージは一緒だなって感じている。虎鉄くんのアートフォトやZINEを見て、男性も抑圧されているんだ、って改めて気づくきっかけにもなった。

中里虎鉄

虎鉄:男らしさという固定観念は、男性も女性もハッピーにしないと思っています。自分自身がゲイであるということも関係しているとは思うんですけど、それがすべてというわけでもない。ゲイだってたくさんいるし、僕の周りの男性にもいろいろな人がいます。多様な男性がいるというのは当然のことなのに、決まった型にはめてしまうことに対して問題提起をしたいんです。

石井:メッセージを伝えるために、アートという手段をとっているのはどうして?

虎鉄:デザインとアートを対比するとわかりやすいかもしれません。デザインはそこに顕在化している課題を解決するもので、アートは問題自体を提起するものだと捉えています。今は問題提起をする段階だと思うので、まずアートに向き合いたいなって。

石井:「男性が抑圧されている」ということは、まだまだ多くの人が気づいていない課題だよね。何かきっかけとなるような芸術作品との出会いはあった?

虎鉄:僕が通っていた東北芸術工科大学の芸術学部の卒業制作で、ヒノヒロコさんが制作した「レズビアンの日記」という作品を見ました。彼女自身と、周囲の人の生活の様子を写真やメモで表現した作品なのですが、普遍的な感情と生活がそこにあるんですよね。同性愛っていうのはその人の要素の一部でしかないし、誰もが同じような生活の断片を重ねているんだなって。そのときに、アートは人の認識をガラッと変えることができるんだ、とはっとしました。

石井リナ、中里虎鉄

石井:その作品、すごく興味ある。脳がカチッとズレるものがアートである、という話を以前聞いたことがあって、ロジックを超えたところで人の認識をドラスティックに変えられるとしたら、それは強い手段だよね。

虎鉄:そうなんです。あとは、社会に向けているけれど、同時に自分に向けてもいるんですよ。

石井:自分のため?

虎鉄:「どんな自分だっていいよね」ってことを作品で表現したくて、それは男性を肯定することだし、自分を肯定することなんです。自分のための作品に共感してもらえたら、最高だなって。だから、自分の中で自然に生まれる表現に対する欲求を素直につかまえることも意識しています。

まずみんな友達になろうよって思うんです

石井:男性について考えることは、女性について考えることでもあると思っていて、それらは本来切り離して捉えるべきではないのかもしれない。

虎鉄:まさしくそうなんですよ。以前、友人と話していたことだけど、童貞はネタにされたり、早く捨てた方がいいって言われたりするけど、処女は守るべきものとして扱われたりします。もちろん性別の違いによってセックスのリスクは異なるけれど、男女で正反対の評価をされるって、冷静に考えたらおかしい。どうしてなんでしょう。

石井リナ 中里虎鉄

石井:私もそう思う。けれど、性差について考えるとき、「体」を無視することはできないよね。たとえば出産ができること、できないことは大きな違いだしね。

虎鉄:最近ずっとそういうことを考えていて。体とか、ホルモンとか、脳の構造とか、考え始めると僕はけっこうわからなくなってくるんですよ。今、自分は自分を男として認識しているけど、男女の身体差と思考の違いについて調べていたら、僕の思考は女性に近いのかもなって、改めて思いました。女性を好きになったこともあるけれど、今は男性が好きだから、ゲイだって自認してるし周りにもそう言っているけど、本当にそれで適切なのか?って。だから、性別ってちょっとめんどくさいなって思っちゃったんです(笑)。

石井:人を二種類に分けること自体に無理があるのかもしれない。身体で判断するのか、脳で共感する方を選ぶのか、これってすごく難しいよね。

虎鉄:そうなんです。だから、男とか女とか……もういいじゃん!って。男性を解放したいっていうのは、そういう気持ちからきています。僕もリナさんも、アプローチは違うけど、目指すところは一緒ですよね。

石井リナ、中里虎鉄

石井:そう思っているよ。一人の人間として生きるってことを尊重したい。カテゴライズによる「らしさ」を強要することなく、自分として生きることを追求したらいい。レディガガが「エル・ウィメン・イン・ハリウッド」 の受賞の際にいいスピーチをしていて。男性的なビッグサイズのジャケットを着ていたんだけど、彼女は自分の体、女性性を嫌悪したことが過去あったらしくて。「今こうしてドレスではなく、自分らしいジャケットを着て、この場に立てることにすごく感動している」って話していた。ファッションはそうやって、性に囚(とら)われず自由に楽しめる手段なんだなって。http://ellegirl.jp/article/f_c_elle_women_in_hollywood_2018_best_dressed_18_1018/lady_gaga/

虎鉄:ああ、なるほど。僕は最近ハロウィーンでドラァグクイーンのコスプレをしてみて。毎日この格好がしたいとか、すごくフィットするというわけではなかったけど、「こういうのもありなんだ」って体感できたというか。すごく楽しかったんですよ。性別で美しさを制限されるべきじゃない。

石井:ファッションといえば、最近、「ジェンダーレス男子」という言葉が一般化してきたけど、どう感じている?

虎鉄:僕は、いいなと思っています。ジェンダーレスというファッションのスタイルが認められることで、容姿や服装でセクシュアリティーを決めつけられることなく、自己表現できる自由が増えますよね。みんな自由に服を選べる方がいいと思うので。でも、僕のゲイの友達は「ジェンダーレス男子」って言葉を、ゲイを隠すために使わないでほしいって話していて、そういう意見もあるんだな、と。

石井リナ 中里虎鉄

石井:そもそも、ゲイっぽいとかレズっぽいってなんなんだろうねっていう話になっちゃうよね。それも無意識の偏見なのかもしれない。

 

虎鉄:ゲイである前に人だし、みんなそれぞれ違う。だからこそ、固定観念とか偏見は、直接人と人が知り合って、個人に対して直接理解していく中でなくなっていくのかなと思います。東京の若い人たちは多様なセクシュアリティーの人と知り合う機会があるからあまり偏見を持たないでいられるけれど、地方に住んでいたり、年齢が高かったりすると、マイノリティーと知り合う機会って極端に少ないんですよね。

石井:たしかに。日本という国で見ると、グローバルスタンダードなリテラシーはないと思うけれど、東京の若い人たちは、マイノリティーだと自認している人も多いし寛容だよね。ニューヨークほどではないけれど、東京は多様性の街だと思う。

虎鉄:僕は、東京だからのびのびできている部分があると思うんです。地方に住むのは、まだちょっと難しい。だからこそ、地方社会に向き合って活動していきたいんですよ。僕が学生時代過ごしていた山形では、地域のおじちゃんおばちゃんに「ゲイなんです」って伝えると最初は戸惑っていたけれど、仲良くなればちゃんとかわいがってくれて。だから、まずみんな友達になろうよって考えているんです。

ゲイを代表するというわけではないのですが、僕はセクシュアリティーをオープンにできるし、友達になれば、「あ、こういう人もいるんだ」って一つの道筋がつながりますよね。ゲイだということを言わずに幸せに暮らす、という選択肢もあっていいし、みんながオープンにすべきとも思っていません。

すべては個別のケース

石井:最近、セーラームーンとモンストの広告が話題になっていたよね。すごくシンプルなんだけど、チャーミングでいいなって思った。「同じ星に生まれたんだから」って、いい言葉。多様性を感じられる広告コミュニケーションが実施されることには、時代の変化を感じる。

石井リナ、中里虎鉄

虎鉄:めっちゃかわいかった。ただ、僕は可愛いもの好きって言えるキャラなんですけど、それが言えない人ってけっこう多いと思うんですよ。

石井:そうだよね。私はこういう活動をしているから、周りには多様性に対して理解のある人が多いけど、テレビを見ると女性の芸人さんが自分の体型とか容姿とかを自虐ネタにしていたりして、それも当たり前になっていて、まだまだ届けられていないなって実感する。

虎鉄:メディアの現場でさえ、まだ理解されていないなと思うことがあります。以前僕は雑誌の編集部にいたんですけど、マイノリティーを“面白いもの“として取り上げる、みたいな部分があったんですよ。それは多様性でもなんでもない。自分が大切にしていることとギャップが生まれちゃうので、離れました。

石井:BLASTでは、「NEW RELATIONSHIP」っていう恋愛・結婚・家族のシーンにおいて固定観念にとらわれない人たちにフォーカスしている番組を作っていて。すべては個別のケースだから、恋愛感情のないパートナーシップがあってもいいし、愛人関係の人たちがいてもいい。いわゆる普通と言われるようなカップルがいてもいい。人と人のリアルな姿にはパワーがあるなと思うんだよね。

虎鉄:想像力も必要だけど、ケーススタディーも大事ですね。以前炎上した議員の発言は、単純に無知だから言っちゃっていることで、そこに怒りを感じることはないんですよ。さっきも話したけど、友達になるから、全部聞いてね!って思います(笑)。そうしたら、僕のケースについてちゃんと話すのに。

石井:友達を増やすことって、一番有効かもしれない。目の前にいる人と向き合うということが実は一番の近道なのかな。もっとたくさんの人に伝えていきたいな。

石井リナ、中里虎鉄

<編集後記>

タイには、18種類の性別があるという。人を男性と女性という二種類に分類して語ること自体が、あるいはローカルな行いなのかもしれない。中里虎鉄は、性別という構造が抱える課題に対して、生身の「自分」のままで立ち向かっていく。それも、どこまでも優しく暖かなやり方で。「友達になろう」という言葉は、生半可な覚悟で言えるものではない。彼のやわらかなスタンスは、秘めたる強い覚悟によって裏付けられている。石井リナが「BLAST」で実践するのは、個人がそれぞれ持つ意思に向き合い、それをシェアしていくという試みだ。目の前にいる人の言葉に耳を傾け、尊重し、そしてお互いに楽しく過ごす時間を重ねてゆく。多様性のある健全な社会は、すべての個人の小さな行為と意識の積み重ねによって実現されるのかもしれない。

(文:長嶋太陽、撮影:なかむらしんたろう)

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