筋トレとの距離感

自己啓発系の筋トレ本がヒット 筋トレは果たして“万能”なのか?

近年「筋トレ」がブームだ。24時間営業のフィットネスジムもこの数年全国で増加し、1000店を超えた。この業態を牽引する「エニタイムフィットネス」は、2017年度に年間100店の新店を出店したほど。仕事帰りに手軽に寄れるジムの需要が高まっていることがわかる。メディアでも、人気のパーソナルトレーナーがテレビに出演し、タレントたちが自分のトレーニング内容をインスタグラムで紹介している。

グーグルにおける2004年1月から2019年1月現在までの「筋トレ」「筋肉」というキーワードの検索回数の推移。2010年以降、上昇傾向にある

グーグルにおける2004年1月から2019年1月現在までの「筋トレ」「筋肉」というキーワードの検索回数の推移。2010年以降、上昇傾向にある

10年頃から、グーグル検索における「筋肉」「筋トレ」の検索回数は右肩上がりになっており、16〜18年にはさらに大きく跳ね上がった。

15年といえば、「結果にコミットする」のキャッチコピーと共に、ライザップが広く知られるようになった年だ。もちろん以前からアスリートや筋肉自慢の芸能人がメディアで肉体美を披露することは多々あったが、ライザップブームがもたらしたのは、普通の、あるいはむしろ太っている人でも「鍛えれば、いい体になれるのかも」という期待感だった。また、この年には人気バラエティ『アメトーーク!』(テレビ朝日)で、筋トレが趣味の芸人たちによる「ゴールドジム芸人」が放送された。

この頃からテレビをはじめマスメディアでも、SNSを中心としたインターネットでも、「筋トレ」「筋肉」が本格的にはやりはじめていく。そして18年の夏にはNHK『みんなで筋肉体操』が話題を呼び、決めゼリフ「筋肉は裏切らない」が2018年流行語大賞にノミネート。反響の大きさからか、同番組は今年1月に第2弾も放送された。

なぜ? 自己啓発系の筋トレ本がヒット

なぜこんなにも、筋トレが人々を魅了しているのか。「痩せたい」「健康になりたい」という目的を持っている人が多いのはもちろんだ。だがそこには、もう一歩進んで、「自分を変えたい」という欲望があるように思える。ハードな筋トレは食事制限も含み、これまでブームになってきた「◯◯するだけダイエット」のような簡単なものではない。そこまでは至らなくとも、日々ジムに通ったりメニューを考えたりというのは、決して楽とはいえないだろう。ある程度、生活スタイルを変えて継続することが必要になってくる。

また、このブームのなかで、筋トレを称揚するウェブメディアの記事やSNSでの投稿には、「筋トレはメンタルにもプラスに働く」というトピックスが散見される。その中には「筋トレをすると自己肯定感が強まる」「不安が消える」といったことが書かれているものも少なくない。

『筋肉体操』出演者の俳優・武田真治さんもバラエティ番組で「100キロのバーベルを上げると『これよりつらいことは世の中にない』と思って仕事にのぞめる」と発言しているように、大変なトレーニングをこなすことで自信がつく、ということらしい。

心身両面の「自己改造」のための筋トレをうたった、ヒット書籍も出ている。16年刊行の『筋トレが最強のソリューションである マッチョ社長が教える究極の悩み解決法』(ユーキャン)だ。ツイッターで筋トレおよび筋肉について発信し続ける「Testosterone」氏(フォロワー数は約66万7千人/*19年1月16日現在)による熱い筋肉礼賛ツイートをまとめた書籍で、発売から1年半で10万部を突破した。

 

氏がそこで発信しているのは、筋トレのやり方の詳細ではなく、「トレーニングが人生に成功をもたらす」という信念だ。実際、同書の担当編集者は、過去のインタビューで「コンセプトは『筋トレ系自己啓発書』。筋トレ本ではなくて、あくまで自己啓発書として企画しました」と説明している。

必要だから筋肉をつけるのではなく、自分を変えるために筋トレをする――しかし、筋トレは本当に心身にそれほどの効果をもたらすのだろうか? 本特集では、弁護士の小林航太さん、芥川賞作家の羽田圭介さん、哲学者の千葉雅也さん、そして東京大学教授の“筋肉博士”石井直方さんの4人に、「筋トレ万能説」をぶつけてみた。

それぞれトレーニングに取り組む当事者たちからの回答は、大きくまとめると「ノー」。「筋トレは不毛だと思う」(羽田さん)、「実際、そんなに万能ではない」(小林さん)と否定気味だ。では、彼らはなぜそれでも筋トレをするのか。明日以降、筋トレとそれぞれの向き合い方をしてきた4人の声をお届けする。

《登場者》
1 小林航太さん(弁護士)のインタビューはこちら
2 羽田圭介さん(小説家)のインタビューはこちら
3 千葉雅也さん(哲学者/立命館大学准教授)のインタビューはこちら
4 石井直方さん(理学博士/東京大学教授)のインタビューはこちら

PROFILE

斎藤岬

1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランスに。編集を担当した書籍に「別冊サイゾー『想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本』」『DEATH MATCH EXTREME BOOK 戦々狂兇』など。

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『筋肉体操』で話題の小林航太さん 東大出身、仕事は弁護士……でも「自信がないから筋トレしてた」

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