湯山玲子の“現代メンズ解析”

村本大輔、同調圧力に飲まれぬ生き方 「今の芸人は空気を読みすぎて、もはや空気そのもの」

漫才番組『THE MANZAI』(フジテレビ)で原発問題や沖縄米軍基地問題、杉田水脈議員の「生産性」発言などを取り上げ、痛烈な政治批判を展開、賛否両論を巻き起こしたり、『朝まで生テレビ』(テレビ朝日)で「日本国憲法第9条の2項なんて読んでない」と発言して出演者から袋だたきにされたり……。

今もっとも“空気を読まない芸人”、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん。その社会問題への積極的な発言と、批判や炎上を恐れぬ生き方に注目が集まっています。

今、村本さんを支える価値観とは。これからどんな生き方を目指すのか。「現代のカッコよさ」を読み解くヒントを探るべく、著述家・湯山玲子さんが、村本さんの本音に迫りました。

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誰も触れたがらないテーマで漫才をするワケ

湯山玲子(以下、湯山) よもやこんな存在が、芸人の中から出て来るとは思っていなかった。それが村本さん。実力、ルックス、アタマの回転の速さなど、テレビ・メジャー向きの才能がありながらも、その出世すごろくに乗らず、今や無きものになりつつある「体制に風穴を開ける」というお笑いの本質のひとつに全開で取り組んでいる。2017年に続いて、昨年の『THE MANZAI』でも政治や社会問題に焦点を当てた漫才を披露しましたね。相変わらず大きな話題になっていました。

湯山玲子さん

村本大輔(以下、村本) いろいろな意見をいただきましたし、反響はありました。ただ、今回の漫才がおもしろいと感じてもらえたかどうかわからない。というのも、僕は17年に政治的な漫才をやったことで、“そういうことを言う人間”と認識されてしまった。当然18年も同じことやるだろうと思われていたし、その中で政治的な漫才を披露したことはある種の予定調和。普段、政治的な発言をしているワイドショーのコメンテーターと同じようなものですよ。

湯山 一度レッテルを貼られてしまうと、同じことをやっても衝撃は生まれないわけか。「体制批判」ネタというほかが誰もやらない挑戦的な試みでさえも、観客の「慣れ」にさらされるという厳しさがありますね。そこに、芸人としては考えるところがあるんじゃないの?

村本 いやいや、この1年での気づきやショックを受けたことが山ほどあって、正直言い足りない気持ちのほうが強い。日本は臭いものにふたをする国だから、開けないといけないふたが無限にある。そこに誰も触れないから、ブルーオーシャンですよ。

村本大輔さん

湯山 ふたの中にあるものは、みんなが「無いこと」にしたい不都合な真実ばかりですよね。それを俎上(そじょう)に上げると、「コイツ、言っちゃったよ〜」という体制に盾突く痛快さにつながる笑いにしろ、「しょうがねえな、人間ってものは」という自虐にしろ、今の時代において衝撃的な笑いになった。けど、ふたを外せばいいだけなのに、誰もそれをやる勇気はない、と。

村本 誰かがやらないと。古代ローマには「国民にはパンとサーカスを与えておけばいい」という、当時の世相を揶揄(やゆ)した言葉があります。娯楽と食料を無料で与えれば、国民は政治に無関心な愚民になると。今や芸能界がサーカスです。僕の漫才も、ローラが辺野古埋め立てに反対する署名を呼びかけたことも、皆で考えるべき問題の提示です。それなのにメディアは「ローラが~」という“サーカス”の部分を強調して報道するし、視聴者もそればかりに食いついて、問題の本質的なところはほったらかし。そうじゃない、サーカス団員が示した問題のほうに目を向けろと思う。

湯山 村本くんはいつごろからこういった社会的な問題を考えるようになったの? 学校の先生の影響とか、テレビのドキュメンタリーを見て、というよりもっと具体的な体験があったのではないかと思うのですが。

村本 高校生のとき、ある家の植木を切るバイトをしていました。それを地元の人の集まりで何げなく言ったら、「あの家は在日だから、そんな仕事せんでいい」と言われた。なんだそれは、と。学校で習わないし、勉強してもよくわからない。そういう暗黙のルールのようなものが、この社会の至る所に存在していた。それに対して違和感を覚えたのがきっかけです。

湯山玲子×村本大輔

湯山 日本の組織や人間関係、モラルを考える上で、今や定番となった「空気」の問題ですよね。いじめ問題から、女性の管理職登用、日本的社風、ママ友問題など、おしなべて「空気」が絡んでくる。私もテレビに出演するようになって、それまでのどの仕事の現場とも違う独特の雰囲気を自分なりに理解するのは大変だった。この国で生きていく上での最大スキルが「空気読み」ですからね。

村本 芸人もそれに飲まれています。この数年、コメンテーターやいろんなポジションにつきだしたせいか、「これ言っちゃいけない」「あれ言っちゃいけない」って、空気を読みに読みすぎて、もはや空気そのものになってますよ。

バラエティー番組も一緒で、空気を読む団体芸なんですよね。視聴者もテレビは無料だから、なんとなく付けて出演者が笑い合っていれば面白く感じる。その構造が笑いのハードルを下げています。「なんばグランド花月」とか、僕らが主戦場としている劇場に行ってみてください。有名無名問わず数多くの芸人が日夜面白さのみを追求して研ぎ澄ましたネタを披露しています。有料だから観客の目も当然厳しい。ネタとテレビのフリートークは全然違うわけで、テレビで団体芸をやっている芸人がすべりまくってますよ。

時代遅れ? お笑い界の“お約束”

湯山 村本くんには才能や勇気があるし、ルックスも可愛らしい。地元の高校に通っていた頃から比べると、芸人で売れ出してからたくさんのステータスを得たように見えるけど、それで満足しなかったの?

村本 福井県の田舎で生まれて高校中退で、そのとき僕が座れる“椅子”はおよそ2脚くらいしかありませんでした。椅子っていうのは職業的なポストだけでなく、喜び、悲しみ、美しさ、醜さ、物の見方……あらゆる知識や価値観を含んだものです。当時、2脚しかないと思い込んでいたものが、大阪に出て来たらたくさんあることを知った。その椅子をもっと増やしたい。大阪から東京に来たときもそう感じましたし、去年のアメリカ留学でその思いが一層強くなりました。

村本大輔さん

でも留学から帰ってきて、「向こうじゃ、救急車を呼ぶのに3000ドルもかかるんだぜ……」なんて話をしても、日本ではシーンとなるんですよね。みんなが僕に求めているのは、「英語しゃべれなくて困った」という話。まったくもって生産性のない会話ですよ。バラエティー番組で「もうちょっとかわいげを出したほうがいい」と言われることもあります。かわいげがほしいなら犬の動画を見とけ、と思いますよ(笑)。

湯山 日本のバラエティー番組……特にお笑いにはある種の“お約束”がありますよね。狂言や民俗芸能を見ても分かるように、そもそも笑いには「馬鹿者」を面白がるという強者目線の構造があり、特に女性芸人はなかなかツッコミ側、つまり強者の位置に立てない。特に容姿、年齢、非モテ、未婚というアイテムの体現でしか、お笑いの俎上に上げてもらえない空気があった。ところが、このところの「Me Too」運動などを受けて世の中のコンプライアンス意識が高まる中で、「は? 太ってますけど、ソレが何か?」という空気が出始めている。

村本 ただ、まだ男性が中心の世界というのもあって、女性芸人は差別されてると思います。楽屋がなくて、着替えはトイレという劇場もいまだにある。イケメンタレントが出てきたら、「わー、キスさせて!」とすり寄るのも、女性芸人にとっての“お約束”。ただでさえ差別があるのだから、これ以上自虐するなと思いますよ。

湯山 自虐は、「こじらせ女子」と言われる現在のアラフォー世代の女性が強く持つ「“空気を読む”から生まれる自衛」の一つですね。自虐して下手に出れば周囲はたたかない。「私はダメダメだから、人間らしい自分の欲望、わがままなんかは、めっそうもない」というのが自虐の根底にある。実は女性の側にも、「自己主張しないで滅私奉公する」ということを美徳とする空気があります。

湯山玲子さん

10年以上前、大ベストセラーになったリリー・フランキーの『東京タワー』(扶桑社)を思い出してください。主人公の母は、都会でうだつの上がらない息子に送金し続け、ガンで死ぬ。主人公のその時の号泣は、滅私奉公してくれた母への尊敬と愛。それに日本中が泣いた。女性も一緒に泣いていたけど、ちょっと待てよ、と。そういう生き様を女性の美徳とする価値観が女性の息苦しさを助長しているのだから。

村本 僕の母親は、そういう女性像とは全く違う人で、とにかく自由でした。父親に締め付けられる生活に嫌気が差して離婚した後、フィットネスに行ってスイミングして、スナックを経営して自分でためた金で旅行して、60歳でドイツに交換留学に行って……もうとにかく自由でかっこいい。本当にリスペクトですよ。たまに顔を見に帰ると「そんなに帰ってこなくていい。私には私の時間があるから、お互い自由にしよう」って言われますから。

湯山玲子×村本大輔

湯山 夫に虐げられたら息子に依存してしまう女性もいるけど、村本くんのお母さんはそういうところが一切ないんだね。

村本 子供に構ってもらうより、自分でいろいろ経験したい、知りたいという人です。

湯山 なるほど。貪欲(どんよく)な知的好奇心は血なのか。

現代のカッコよさは「弱者に寄り添うこと」

湯山 この連載は「現代のカッコよさ」を探るものです。今の時代の男性的な魅力、男らしさとはなんだと思いますか。

村本 本当の意味で弱者と言われている人に寄り添うことだと思う。弱者をリスペクトして学ぶ。沖縄、在日外国人、障害者……女性に対しても「差別されてきたんだから、自虐しなくていい」と男性がゲタを履かされている側として言うべきです。誰かを住みにくくする言葉はどんどん取り払っていかなければいけない。

村本大輔さん

湯山 「弱者をリスペクトして学ぶ」。この視点が非常に重要かもしれない。お母さんから学んだであろう“自由を尊び、自ら選んで行動していく”という部分についてはどうですか? 

村本 僕、価値観を押しつけられるのがダメなんですよ。たとえば昭和に働いていた世代は「仕事は飯を食うためにするもの。あるだけありがたいと思え」と言う。一方、今の大人は「好きな仕事をしよう」と言う。“仕事を選ぶな”も“選べ”も、どちらも価値観の押し付け。そういうのはもう必要ない。

湯山 村本くんは、自らいろんな物を見にいって、どんどん吸収していく。そうやって自分を豊かにしていくわけだよね。でも、それができない人は多い。やっぱり不安がある人は、自由よりある種の縛りというか、よりどころが欲しくなる。子供のときは、学校に行けばテストがあって正解すればマルをつけてもらえるから安心できたし、評価された。でも、大人になれば、それもなくなる。自由があっても、逆にそれに戸惑う男の人が少なくないんじゃないかな。

湯山玲子さん

村本 誰かの評価を過剰に頼りにしたり、物事に安易なレッテルを貼って安心したりするのはどちらも思考停止ですよ。昨年8月、僕が話を聞きたかったマイノリティーの人たちに、スタンドアップコメディーをやってもらうライブを開催したときのことです。出演者の一人の脳性まひの女の子がしゃべると、それだけで観客は拍手しました。すると彼女は、「ふつうにしゃべるだけで拍手がくるのはおかしい。私は言いたいことを言うし、着る物だって自分の好きな服を選ぶよ」って。拍手はぴたっとやみましたよ。みんな、自分がいかに思い込みに捕らわれて彼女のことを見ていたかを思い知ったんだと思います。

湯山 それはすごい話だね。スタンドアップコメディーだから、落ち着くところは「笑い」。しかし、「話者が障害者となったときに笑えるのか?」というものすごく心理的ハードルが高い場ですよ。そして、「ステージに上がった事実だけで、エールをおくってしまう」という空気を出演者が打ち壊すという。

村本 でも、彼らは思い込みに気付いただけマシですよ。知り合いの女性が男性上司と飲んだ際、「女性は化粧品でお金がかかるでしょ。オレが払うよ」と言われたけど、断ったそうです。すると上司が、「そうか、今は男女平等の社会だから、対等を望む女性が多いんだ」と。彼女は、そのどうでもいい上司に借りを作りたくないだけなのに、上司のほうはそれに気づきもしない。

湯山 そのすれ違いは、今至るところで勃発してそう。男性は女性に対して、これまでの常識が通用しなくなっていることに早く気がついた方がいい。そう、今まで親しんできた「空気」が大きく変化しているんですよ。ただ、時代が変わったことは理解していながら、自分が変化についていけているか不安で新しい動きができない、という人もたくさんいるでしょう。

村本 いや、みんな、どんだけ生きることを怖がってるんだって感じですよ。批判されるから、思ったことを言わない? いやいや、発言に批判があるなんて当たり前でしょ。不安は楽しんでなんぼですよ。最悪なのは、ビジネス書をよりどころにしたり、インフルエンサーにお金払って信者になったりすること。西野(キングコング・西野亮廣)がホリエモンと『バカとつき合うな』(徳間書店)って本を出しましたけど、「バカと関わっちゃいけないから本を買いませんでした」と漫才で言うとよくウケます(笑)。もちろんジョークです。でも、不安を解消したくて、人や本を妄信したところで問題は解決しない。たとえ分からないことがあったり不安があったりしても、臆病にならずに全部自分で決めることが大切です。

(構成・安楽由紀子 撮影・野呂美帆)

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湯山玲子×村本大輔

PROFILE

湯山玲子

プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断する執筆を展開。NHK『ごごナマ』、MXテレビ『ばらいろダンディー』レギュラー、TBS『情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫) 、『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞社)、『女装する女』(新潮新書) 、『四十路越え ! 』(角川文庫)、上野千鶴子との対談集『快楽上等 ! 3.11以降を生きる』(幻冬舎) 、『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴くイベント「爆クラ」を開催中。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

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