光を操るガラス作家が映し出す美しさ
「時の花 —イイノナホ展—」

東京・銀座の「ポーラ ミュージアム アネックス」で、ガラス作家イイノナホさん初の大型個展となる「時の花 ―イイノナホ展―」が開催されている。

会場では、シャンデリアやランプ、オブジェといった新作を含む約30点の作品が、来場者を華やかに迎える。シャンデリアやペーパーウェート、彫刻のアートピースなど、ガラスを素材にさまざまなプロダクトを製作している、ガラス作家のイイノナホさん。丹念に生み出された美しいフォルムと独創的なデザインは見る者を魅了し、瞬時にその心を捉える。

展示作品の一つである「時の花」は、自由に枝葉を伸ばした植物のようなステンレス製フレームに、いくつものトリム(壁掛け)がつるされた球体型のシャンデリア。トリムに顔を近づけると、組み飴(あめ)のようにカットした1、2cmほどの小さな円のガラスが溶け、一個一個が接着されて集合体となっていることが分かる。さらに、光源から発せられる光が、無数のガラスを通って周囲に散る美しい仕掛けになっている。

「時の花」とは、「その時を盛りに咲く花」という意味を持つ、古来より伝わる古い言葉。今を精いっぱい生きる花の輝きを思い浮かべ、製作に臨んだという。
「私が抱くガラスの印象は、時間を止めて、その一瞬をきゅっと閉じ込めるもの。その時々を懸命に生きる『時の花』という言葉とガラスには共通するものがあると感じて、本展のタイトルにしました」

イイノさんにとってのガラスとは、胸のうちにある思いや喜びを素直に表現できる材料だという。ガラス作家として活動を始めて30年弱。その原点について、「小学生の時に東京都の工作展に入選したことが、ガラスに携わるきっかけだったのかもしれません。ビー玉を使って、花瓶のようなペン立てを作ったんですよ」と回顧する。

濁りのない水のような透明感と、ひとたび手を滑らせれば割れてしまう繊細さ。ガラスは“美”そのものと言えるマテリアルだが、その製作の裏側は、美しさとはほど遠い、汗水を垂らす重労働に近い。

炉のある工房の室温は、夏場になると約55度まで上昇する。作業中は常に両手がふさがるため、複数人で製作を行う。何の道具がいるのか、また、どの工程で必要なのか、阿吽(あうん)の呼吸で進められる。作業工程における一つひとつのタイミングを合わせることは、技術を習得した人間同士でなければ難しく、時にその呼吸のずれが原因となってガラスが割れてしまうこともあるそうだ。

作品のアイデアは、特別な出来事から生まれるものではなく、日々を過ごす中でふと湧いてくるのだという。人とたわいのない会話をしているとき、あるいは、一人で物思いにふけっているとき。日常に眠っているアイデアの原石を拾い集め、丁寧に磨き、やがてそれらは姿を変えて作品となる。

「最近感じているのは、ガラス自体が光に似ているということ。何かを作るとき、小さく輝いている光のようなものを求めている感じがあります。ひょっとしたら美意識の先にあるものであったり、祈りの対象であったり、最後に行き着くところにあるものが光なんじゃないかと気付き始めたんです」(イイノさん)

ガラスを透過して辺りに広がる光は、「時の花」のように今を生きる私たちの足元を照らし、歩むべき方へと優しく導いてくれるかもしれない。

(文・山田敦士)

PROFILE

イイノナホ
北海道生まれ、東京育ち。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。pilchuck glass schoolで受講、Curtiss Brock氏に師事(シアトル)。2019年、東京・千駄ヶ谷にフラッグシップショップをオープン予定。

 

BOOK
「水と空のあいだ」
http://shop.ool.co.jp/items/4449668

 

EXHIBITION
時の花 —イイノナホ展—
2019年1月19日(土)〜2月17日(日)
ポーラ ミュージアム アネックス
11:00〜20:00 (入場は閉館の30分前まで)
入場無料/会期中無休

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